第一部 第二章 コスモゼロ


零式五二丙型空間艦上戦闘機 "コスモゼロ"
増加試作型



 ガミラス戦役が生起してより7年、戦いは熾烈さを増し、両軍の間では激しい戦いが繰り広げられていた。
 地球防衛軍は善戦していたが、全体的に劣勢であることは否定できなかった。
 これは地球防衛軍がガミラスの圧倒的な物量から数的劣勢に置かれていただけではなく、地球の技術レベルがガミラスのそれより劣ることに起因する各種兵器の低性能が強く影響していた。

 この技術格差が最も顕著に表れていたのが艦艇の性能差で、これは搭載機関が波動エンジンであるか否かに起因するところが大きかった。
 それに対し、宇宙戦闘機に関しては艦艇における波動エンジンほどの(地球側にとっての)オーバーテクノロジーが無かったこともあり、艦艇ほどの性能差は存在していなかった。
 しかし、地球防衛軍の戦闘機がガミラスの戦闘機より性能面で劣っていたのは間違いのない事実であり、その上この面に関しては艦艇以上の数量差が存在していたため、地球防衛軍戦闘機隊はガミラス機動部隊の圧倒的な物量の前に苦戦を強いられていた。

 戦時急造とはいえ、何とかガミラス戦闘機と正面切った空戦を挑むことができる性能を有する九九式空間戦闘攻撃機、即ちコスモファルコンの実用化と部隊配備は、絶望的といっても誰も否定できない戦況に苦しむ航空隊にとって大きな福音であった。
 とはいっても、数的劣勢は相変わらずであり、前線からは「局地的でも良いから敵から航空優勢を奪える戦闘機を!」という悲鳴のような要望が航空本部に毎日のように届けられていた。
 しかも、月面で鹵獲した「クラヴィウス・ブーメラン」の解析から、ガミラスがコスモファルコンと同等以上の空戦性能を持つと推定される格闘戦用戦闘機(DWG262「ツヴァルケ」のこと)を保有していることが判明、地球防衛軍はその対策を可及的速やかに立てる必要に迫られることになった。
 このような理由から、急遽開発が始まった新型戦闘機には、コスモファルコンを含む既存の機体とは隔絶した機動性が要求されることになった。
 しかし、この頃の地球の技術力はガミラスから鹵獲した技術を用いて漸くコスモファルコンの実用化にこぎ着けた程度であり、通常の戦闘機開発手法では要求性能を満たす戦闘機を開発することは極めて困難だったため、要求性能を実現させるためであればありとあらゆる事が許容され、希少金属の多量使用コストや量産性を無視した設計すら許容されることとなった。
 このため、この新型戦闘機は量産も一応考慮されることになってはいたが、どちらかというと機動性を極限まで追求した技術デモンストレイター的性格を強く有する機体になることになる。
 なお、航空本部から提示された計画要求書は以下のようなものであったとされる。


試製零式空間戦闘機計画要求書

目的

 敵戦闘機に優越した空戦性能を有し、攻撃機の阻止撃破にも使用可能な空間戦闘機を得ること
形式
 単発デルタ翼型
主要寸度
 特に制限を設けないがなるべく小型であること
エンジン
  西暦2199年1月末日までに審査合格のもの
搭乗員
 1名
性能(特記のない場合は正規状態のもの)
  加速力  350宇宙ノットまで10秒以内(静止状態より) 380宇宙ノットを目標とする
  上昇力  大気圏外まで5分30秒以内
  航続力
    正規状態 最大出力にて0.7時間以上
    過荷重状態 巡航出力にて0.45光秒以上
  降着能力
    過荷重にて300m以内(1G・大気圏内) 可能な限り短縮すること
  空戦性能
    格闘性能に重点を置き、九九式空間戦闘攻撃機またはガミラス宇宙戦闘機に対し優位であること
兵装
 射撃
  九九式30o固定パルスレーザー機銃またはその性能向上型(300発)×6
  試製九七式二号57o固定陽電子機関砲(18発)×1
 爆撃
  状況に応じ、各種誘導弾4発の装備が可能なこと
艤装
 電子装備
  試製FD-2型レーダー、各種無線装置、データリンクシステムを装備すること
 防弾
  操縦員後方及び機体主要部に防弾装備を付与すること
 その他
  酸素装置、計器等は九九式空間戦闘攻撃機に準ずる


 航空本部から要求された高機動性を実現するためには、絶対に必要なものがあった。
 大推力エンジンである。
 この当時地球に存在していた戦闘機用コスモエンジンの中で最も強力だったのは、コスモファルコンに搭載されていた「FRE-111A『流星三五型』」だった。
 ところが、事前に行われた試算において、このエンジンの推力では要求性能を満たす機体を開発することはほぼ不可能であることが判明していた。
 当然ながら、開発陣(ブラックタイガー/コスモファルコンの開発陣が引き続き開発に取り組んでいる)は深く悩んだ。
 しかし、戦況は新鋭機の開発遅延を許せるようなものではないため、やむを得ず彼らは不可能を承知でFRE-111Aを搭載することを前提に機体の設計を始めた。
 勿論、FRE-111A「流星三五型」の出力強化も試みられているのだが、無理な改造を施された性能向上型FRE-111Aは目標とする推力を発揮できないばかりか、動作が極めて不安定となり、エンジンストールや過熱、場合によっては爆発事故まで引き起こす危険なものになってしまい、結局FRE-111Aと推力では大差ないFRE-111B「流星三六型」(試製零式用にエンジンマウントやレスポンスの改善などの小改造を施した改造型)しか選択肢がなかったのである(性能向上型FRE-111Aの不調には、当時の地球の技術限界近くまで性能を引き出されていたFRE-111Aを、更に性能向上を行うために必要な冶金技術や各部品の加工精度、そして何よりも希少金属が不足していたことも強く影響している)。

 この状況はふとしたことから一変する。
 FRE-111B搭載型の設計が3割ほど進捗した頃、別件で試製零式の開発陣をある技術者が訪れ、四方山話から試製零式の開発が難航していることを知った彼が開発陣にあることを提案したのである。
 その技術者は大中型機用エンジン専門メーカーでエンジン開発に携わっている人物で、彼は自分の会社で中型機用の新型エンジンである「XRE-101」が開発中であること、エンジンはほぼ完成しているが、軍が戦闘機生産に集中する方針を決定したため、このエンジンを搭載する機体が今の所存在せず宙に浮いていること、そしてそのエンジンであれば試製零式の要求性能を達成するのに必要な推力を発揮出来ることを話し、これを試製零式に搭載してみてはどうかと提案したのである。

 FRE-111Bの推力不足に悩む開発陣はこの提案に飛びつき、早速件のエンジンを視察するためにそのエンジンメーカーを訪れた。
 そこで彼らを迎えたXRE-101は、確かに試製零式に必要とされる以上の推力を発揮して見せ、彼らを満足させた。
 あまりにも巨大であるため、とても戦闘機への搭載が不可能であることを除けば。
 そのことを訴える開発陣に対して、エンジンメーカーの技術者はこのエンジンで最も容積を獲っている冷却装置さえなんとかすれば、比較的容易に小型化することが出来ると自信満々に答えた。
 彼らから提示された各種データを独自に検討した開発陣はXRE-101小型化の成算はあると判断、これを試製零式の搭載エンジンの最有力候補とした。
 これを聞いた航空本部も新型エンジンの実用化を促進する事を決定、エンジンメーカーに人員、資材並びに予算を次々に送り込み始めた。
 しかし、まだ海のものとも山のものともつかない試作エンジンにすぎないXRE-101を小型化して戦闘機用エンジンに改造するのは、失敗する可能性も高いことから、航空本部は失敗時の保険としてFRE-111B搭載型の開発も並行して進めるよう、開発陣に指示している。

 こうして、XRE-101の小型化が開始されることになった。
 改造を受け持つことになったメーカーは、当初小型化といってもXRE-101本体に組み込まれている冷却装置を取り外す(代替として機体側に容量の大きい放熱板等を装備すればよいと考えられていた)だけなのでそれほど困難ではないだろう、と考えていたようである。
 しかし、それはすぐにとんでもない間違いであることが明らかになった。
 いざ作業を始めてみると、XRE-101はエンジン本体と冷却装置があまりにも一体化した構造であるため、これを取り除いてしまうと冷却以外にも本体の作動に必要なパーツも一緒に取り外されてしまい、正常に作動しないことが判明したのである。

 これに慌てたメーカーが再検討した結果、XRE-101から冷却装置を完全に取り外した状態で正常に作動させるのは不可能であり、小型化するには冷却装置の一部を取り外したエンジン本体の小型化を行うという、ほとんど新規設計と変わらない改造を行わなければならない、と結論づけられたのである。
 明らかに戦闘機用エンジン開発の経験不足が原因なのだが、これまでの行きがかり上「小型化は不可能」とは言い出せなくなっていたメーカーは、社運を賭けてこの困難に立ち向かうことにしたのである。
 幸い、航空本部や他メーカーから多数の技術者が応援のために出向して来ており、物資不足の中、資材や予算も優先的に回されていたことが最大限に活用された。

 彼らはまずXRE-101からエンジンの作動に支障のない範囲内で冷却装置を取り外すと、次にエンジン本体の全長を短縮、更に直径も縮めることにした。
 このままでは圧縮室数が減少するばかりか、圧縮室一つ当たりの容積も減少してしまうため、大型であるからこそ発揮出来た大推力が大幅に低下してしまうことは避けられない。
 彼らもそれは承知しており、圧縮機回転数の大幅な引き上げによって各燃焼室の圧縮比をそれまでの倍に引き上げることで、最終圧縮率を原型より遙かに高く設定したのである。
 確かに圧縮率を高めれば、原型のXFR-101をも凌ぐ大推力を得ることは可能である。
 しかし、それはあくまで計算上であり、この様な強引な方法ではエンジン各部、特に最大出力時に最終圧縮室のファンやノズルに大きな負荷がかかるため、例え希少金属を用いた強度・耐久性に優れた部品をふんだんに使用しても、爆発事故につながる可能性が極めて高くなる。
 そこで、新たに開発された「サイドノズル」が採用されている。
 これはメインエンジンの左右にサブエンジンとも言うべき簡易な圧縮室とノズルを配置し、最終圧縮室のひとつ手前に接続しており、通常はメインエンジンのみで運転しているが、80%出力以上になるとサブエンジンへの配管を開放、最終圧縮直前のタキオン粒子の一部をサイドノズル内へ導き、そこで最終圧縮して推力を得るというものである。
 サイドノズル方式は単発機を擬似的に三発機にするもので、最大推力の向上には極めて有効であることから、同時期に開発されていた百式探査艇やガミラス戦役後に開発された中・大型機にも採用されている。
 しかし、中型機以上であれば問題になることは少ないが、最大出力時以外はデッドウェイトになるサイドノズルの戦闘機への装備は、唯でさえ余裕の少ない機体容量の圧迫と重量増加に繋がり、またエンジン構造も複雑化するため、整備性は最悪となり、熟練整備員によって施される職人芸的な極めて微妙なセッティングによってあらゆる要素を高レベルで安定させなければ推力が十分発揮されない、非常に気難しいエンジンになってしまった。
 なお小型化と並行して、戦闘機用エンジンには必須装備である偏向角度の大きい高機動ノズルの取り付けも行われている。
 取り付けはサイドノズルにも行われているが、配置の関係で装備の困難な通常の三次元式の高機動ノズルではなく、コスモファルコンに装備されている様な上下二次元式の高機動ノズルの後方にシャッター式の左右二次元式高機動ノズルを組み合わせた複合型を装備している。

 開発に関わった技術者達の超人的な努力によって、驚異的な短期間で小型化に成功した改造型XRE-101は、元のXRE-101とは殆ど別物となったため、新たに「FRE-112A『彗星五型二号』」という名称が与えられ、試製零式に搭載されることになった(FRE-112Aの原型となったXRE-101も、戦役後にARE-101として実用化されている)。
 なお、それまで地球防衛軍では航空機用エンジンの型式表記を「○×型」と言う具合に二桁の数字で表していたが、機体本体の命名基準変更と同時にエンジンの型式表記にも変更が加えられ、「×型○号」と表記されるようになっている。
 「×型」(以前の基準では一桁目の数字)は構造の相違を表しているが、「○号」(以前の基準では二桁目の数字)はエンジンの種類を表しており、一号が既存の地球型エンジン、二号が軸流式コスモエンジン、三号が複合軸流式コスモエンジンをそれぞれ表している。

 FRE-112Aの開発が進められていた頃、FRE-111B搭載型の開発も進められていた。
 開発の手間を省くため、FRE-111B搭載型とFRE-112A搭載型はエンジン搭載部以外は基本的に同じ機体とされ、先行して開発されていたFRE-111B搭載型は、本命視されていたFRE-112A搭載型のために機体特性をチェックする役目も担っていた。
 とはいえ、FRE-111B搭載型はFRE-112Aの開発が失敗した時の保険機であるため、それなりの性能が求められていた。
 推力の小さいFRE-111Bで高性能を実現するため、機体には考えられるありとあらゆる方法で軽量化が施され、しかも機体強度を確保する必要があるため、ここでも希少金属や量産の難しい素材や部品、強度は高いが生産・メンテナンスに全く向かない構造などが次々に採用されている。
 こうして一足先に完成したFRE-111B搭載型は「仮称零式一一型空間戦闘機」と名付けられ、直ちに激しい空襲の合間を縫って試験飛行が開始されている。
 徹底した軽量化を行ったこともあり、仮称一一型は基本的には同じエンジンであるFRE-111Aを搭載するブラックタイガーより飛行性能は全般的に向上していたが、あくまでそれなりで要求性能に及ぶものではなく、必然的にFRE-112A搭載型に高い期待が寄せられることとなった。

 仮称一一型の試験飛行が幾らも行われない内に、何とか審査合格まで漕ぎ着けたFRE-112Aを搭載する試作機が完成、「仮称零式二二型空間戦闘機」と名付けられた。
 先述した様に、仮称一一型と仮称二二型はエンジン以外はほぼ同一の機体で、先に制式化されたブラックタイガーと同様、水平尾翼のない平たい胴体にデルタ型に近い主翼、そして大型の垂直尾翼を組み合わせたものであったが、搭載エンジンがFRE-111Bとは異なり冷却装置付きのFRE-112Aであるため、機体後部の形状はまるで異なるものになっている。
 仮称二二型は大推力を発揮するFRE-112Aを搭載するだけあって、試験飛行開始当初から仮称一一型とは比較にならない加速性能、運動性能を発揮したが、間もなくこの戦闘機の命取りになりかねない重大な問題が発生した。
 エンジンの過熱である。
 FRE-112Aは大推力と引き替えに原型のXRE-101は疎かFRE-111B等より遙かに排熱が多く、装備されていたエンジン本体の冷却装置と主翼・垂直尾翼の放熱板だけではこれを冷却しきれず、全力運転を行うとエンジンが過熱してしまうことが判明、FRE-112Aには運転制限がかけられることになった。
 幾ら大推力エンジンでも全力運転できなければ意味はなく、運転制限をかけられたFRE-112Aを搭載する仮称二二型の性能は仮称一一型やブラックタイガーと大差ない性能しか発揮できなかったのである。
 このため、直ちに仮称二二型に改良が施されることになった。

 機内容積の関係上、エンジン本体の冷却装置を強化することは出来ないため、対策としては放熱板を増積するしかないのだが、強度や冷却効率などの関係から既存の主翼と垂直尾翼の放熱板をこれ以上増積することは難しかった。
 様々な案が考えられたが、最終的に機体下面に放熱板兼用の垂直尾翼を追加する方法が採用されることとなった。
 仮称一一型にしても仮称二二型にしても大気圏内での安定性が今一つであったため、飛行安定性の向上という観点からは垂直尾翼の増積は好ましいことではあったが、主脚の長さの関係上、下面の垂直尾翼には構造が複雑化する折畳式を採用せざるを得ず、整備面ではあまり好ましいことではなかったが、全ては要求性能を実現するためであり、折畳機構とロック機能を可能な限り単純かつ強固な構造にすることで解決とした。
 この時、この処置が後に試製零式の将来を大きく左右することになるとは、誰も知る由はなかった。
 なお、下部垂直尾翼を増設後の飛行試験において、宇宙空間では問題はないものの、大気圏内では冷却力がなおも不足であることが判明したことから、大気圏内ではエンジン冷却に空気を利用することになり、胴体後部を覆うように冷却用空気取入口が追加されている。
 間もなく完成した機体下部に放熱板兼用の垂直尾翼を追加した試作機は「仮称零式三二型宇宙戦闘機」と名付けられた。
 エンジン冷却が十分に行える様になり、仮称二二型で設定されていたFRE-112Aの運転制限がかなり弛められた仮称三二型は、まだ未完成のため多発するFRE-112Aの初期故障に悩まされつつも、軽荷状態ながら試験飛行において要求性能すら上回る加速性能、運動性能を発揮、開発陣や航空本部を驚喜させた。

 仮称三二型の開発が進められる一方、半ば忘れられていた仮称一一型を使用して重要な試験が行われていた。
 兵装搭載実験である。
 試製零式の開発目的はガミラスから制空権奪取であり、何よりも優先されていたのは空戦性能で、次に優先されていたのは少ない機数を有効に活用するための滞空時間、即ち航続距離であった。
 この二つを実現するために機体の徹底した軽量化が行われていたのだが、軽量化の一つとして武装の削減が考えられていたのである。
 この頃、「クラヴィウス・ブーメラン」から入手したガミラス製パルスレーザー機銃でも傑作と名高い「ハウザー13oパルスレーザー機銃」(ガミラス戦役後に付与された地球防衛軍呼称)を基に開発された地球製の宇宙戦闘機用パルスレーザー機銃、「九九式一号一型30o固定パルスレーザー機銃」が実用化され、ブラックタイガーやコスモファルコンに搭載されていた。
 航空本部は様々なシミュレーションの結果、そして九九式一号一型のスペックとブラックタイガーの戦績から、敵戦闘機に対して味方戦闘機が有利に戦うには九九式一号一型パルスレーザー機銃であれば、6門装備が必要と判断していた。
 九九式一号一型パルスレーザー機銃は強力ではあるが、その分軽量でも小型でもないため、6門装備というのはかなりの重量と容積を喰ってしまう。
 慣性の小さい小型・軽量な機体と大推力のFRE-112Aを組み合わせれば、加減速に有利なばかりか、慣性が小さくなるためブラックタイガーより少ない燃料で戦闘機動が行えると推算されたことから、仮称零式の武装はパルスレーザー機銃は4門に強化するものの、対地/対艦用の九七式電磁投射機関砲については1門のみへ削減し、更に燃料タンク容量をブラックタイガーより幾分少なくすることで、機体の小型・軽量化が図られることになっていたのである。

 しかし、燃料タンク容量の減少はともかく、パルスレーザー機銃や陽電子機関砲を必要数より少なくしてしまうと、空戦の短い射撃時間で敵機の撃墜や敵装甲車両/敵艦の撃破に必要な弾量を投射出来なくなってしまう。
 そこで考えられたのが、パルスレーザー機銃の発射速度向上と陽電子機関砲の威力向上である。
 1門当たりの発射速度を現状の1.5倍程度に向上させたパルスレーザー機銃4門であれば、通常型パルスレーザー機銃6門と同じ弾量を投射することが可能との判断から、高発射速度型パルスレーザー機銃の開発が開始された。
 パルスレーザー機銃の発射速度を上げること自体はそれほど難しいものではなく、最も困難と考えられたのはレーザーのエネルギー充填・発射機部に無理がかかりがちであったこと、そして砲身及び発射機部の過熱であった。
 エネルギー充填・発射機部の不具合は発射速度を変更可能にすることで取り敢えず解決されたが、砲身と発射機部の過熱についてはなかなか解決されなかった。
 様々な試行錯誤の後に砲身・発射機部の過熱問題の解決法として考え出されたのが、強制冷却装置の追加であった。
 つまり、砲身と発射機部に強制冷却装置を取り付け、更に砲とは別に余剰熱の放熱用にニードル型の放熱部を設けて、過熱を防ごうというものである。
 この強制冷却装置付き高発射速度パルスレーザー機銃は7割強〜8割弱の重量と容積でありながら、地上での試射において九九式一号一型の1.5倍の投射に成功、直ちに「九九式一号二型30o固定パルスレーザー機銃」として採用されている。
 陽電子機関砲の威力向上は、大口径砲であるが故に単射に近い射撃しかできない関係上、砲身や発射機部の加熱問題がほとんど発生しないことから、パルスレーザー機銃の改良に比べれば困難ではなく、銃身の延長と電圧向上を施した九七式二号機関砲が比較的短期間の内に実用化されたことで達成されている。

 この九九式一号二型パルスレーザー機銃と九七式二号陽電子機関砲の空中試射を、仮称三二型の成功に伴って保険機としての意味を失いつつあった仮称一一型で行うことになったのである。
 仮称一一型の機首はブラックタイガーに類似した形状(これは仮称二二型や仮称三二型も同じ)だったが、強制冷却装置付き高発射速度パルスレーザー機銃と長銃身陽電子機関砲を搭載するための大改造が施された結果、延長された機首からニードル型放熱部が2本突出するという特異な形状となったため、新たに「仮称零式四一型空間戦闘機」と名付けられた。
 完成した仮称四一型を用いて行われた空中試射では、当初様々な問題が多発したが、関係者の努力によりそれらの問題点は一つずつ解決され、九九式一号二型パルスレーザー砲の実用性は少しずつ高められていた。

 一方、本格的な飛行試験に移行していた仮称三二型でも新たな問題が発生していた。
 本格的な空戦機動を行うと、飛行中の機体の振動や機体外板の剥離、更には主翼や機体のメインフレームにクラックが発生するといった事故が多発していたのである。
 仮称一一型の機体設計時において、開発陣が必要以上に機体の軽量化に邁進していており、機体強度もギリギリの線を狙う方針であったが、強度計算には当然FRE-111Bの推力を基に算出された数値が用いられていた。
 FRE-111Bより遙かに大推力であるFRE-112Aを搭載することで、それまでとは比較にならない機動性を発揮可能となった仮称三二型だが、その一方で機体にかかる負荷も桁違いになった結果、FRE-111Bの推力を基に設定された低い機体限界を超えてしまったために発生した事故だった。
 これに驚いた開発陣は慌てて機体の強度計算をやり直し、再設計することになったが、これと同時に仮称四一型での兵装搭載実験によって実用性を高めつつあった九九式一号二型もしくはその改良型の高発射速度パルスレーザー砲を搭載、更に増槽/ミサイル兼用ハードポイントや通信装備、レーダーを追加して、技術デモンストレイター的性格を廃し、実用戦闘機へ生まれ変わらせることが決定されている。

 まず改修の主目的である機体強度の向上については、機体外板の増厚も行われたが、完成までの時間を短縮するために既存の構造材に補強材を追加していく方法も多用され、それでなくとも複雑な構造であるところに強化材を追加したことで、機体構造が更に複雑なものになり、それでなくとも悪かった生産・メンテナンス性は更に悪化してしまった。
 しかし、この補強により機体強度が大幅に向上し、FRE-112Aを全開にした戦闘機動を行ってもビクともしなくなったのも事実で、エンジンさえ十分な推力を発生すれば、極めて優れた機動性を発揮できる機体になった。
 尤も余りに空戦性能を重視したセッティングを施したせいか、開発に関わったテストパイロットが後にこの機体を「機敏と言うより過敏」と評したことからも分かるように、操縦性に関してはやや安定性に欠ける「じゃじゃ馬」であったようである。

 主兵装であるパルスレーザー機銃は、仮称四一型に搭載された九九式一号二型の構造を見直して不具合を修正して実用性を高めた「九九式一号三型30o固定パルスレーザー機銃」4門が操縦席側方に、そして試製四一型と同様のニードル型放熱部が機首先端に取り付けられた。
 勿論、機首には新開発の「FD-2型レーダー」が搭載されているが、機首に電磁投射機関砲が装備されている関係上、後述する特殊なアンテナを採用した影響で、探知能力にやや影響があったが、パルスレーザー機銃用のニードル型放熱部をレーダーアンテナと兼用できる様に改修した結果、機首正面方向は勿論のこと上下左右方向への探知能力を当初の予定より高くすることに成功している。
 更に地球防衛軍航空機初の試みとして機首下面には大型のL型指向性アンテナが取り付けられている。
 指向性アンテナがこれほど大型になったのは、命中精度を高めるために、これまた地球防衛軍航空機初の試みとして「重力レンズ発生装置」がL型指向性アンテナに内蔵されたためで、発射速度が高くなったとはいえパルスレーザー砲の門数の少なさに不安を覚えた開発陣が射撃管制能力を高めると同時にパルスレーザーの曲射を可能とすることで、少しでも命中精度を高めようとしたためである。
   また、精密な射撃管制や卓越した機動性能を制御するため、ブラックタイガーやコスモファルコンより処理能力の高いコンピューターが搭載されている。
 これらの処置によって、この機体の集弾性は極めて優れたものとなり、後に行われた空中試射においてブラックタイガーとは比較にならない高い命中率を記録している(この時に記録された数値は現在でも破られていないほどである)。
 しかし、余りにも集弾性が良いことが裏目に出て、敵機を有効圏内に捉えていれば圧倒的に高密度の火網に包み込むことが出来るが、僅かでも有効圏内から外れてしまうとほとんど命中弾を出すことが出来ず、熟練パイロットならともかく未熟なパイロットでは空戦中、激しく機動する敵機に有効弾を与えられないという皮肉な事態が発生することとなった。
 操縦性が過敏で機体の安定性に欠けることも、これに拍車をかけていたようである。
 このため、これより後に開発される地球防衛軍の戦闘機に搭載されるパルスレーザー機銃は、未熟練者でも命中弾を得られ易くするために、むやみに集弾させるのではなく、意図的に散布界をやや広めにした調整が一般的になっていく。

 度重なる改修の結果、57o電磁投射機関砲、レーダーアンテナ兼用のニードル型放熱部をもつパルスレーザー機銃、重力レンズ発生装置付きの大型L型指向性アンテナ、FD-2型レーダー、そして機首側面の大型高機動スラスターを集中的に装備するこの機体の機首は、独特の形状を持つ幅広の巨大なものとなった。
 当初、仮称零式の機体制御は機首側面に設けられた高機動スラスターと主翼及び垂直尾翼翼端部に設けられた小型スラスターのみで行う計画だったが、度重なる改修の結果、それだけでは空戦時の機体制御が充分に行えないことが判明したため、胴体中央部上面と機首下面にスラスターが追加装備されている。
 この追加スラスターは機首の高機動スラスターの補助用として装備されたため、機首のスラスターと比べると推力が低く、機体内スペースの関係上スラスターノズルを固定式とせざるを得なかったが、巧妙に設計された推力偏向用スリットを設けることで、空戦時の機体制御を大幅に改善することに成功している。
 この追加スラスターとFRE-112Aの推力を併用することで、あわよくば計画要求書にもなかった垂直離着陸も可能にしたいという目算もあったようだが、試験飛行の結果、離陸滑走距離の短縮は可能だが垂直離着陸は不可能と判定されている。
 戦況から大気圏内での空戦性能も求められていたため、ホワイトジャガーやブラックタイガー/コスモファルコンと同様、主翼及び垂直尾翼には大気圏内用航空機同様の動翼部が設けられており、より効果的な空戦機動を可能とするために胴体後部にエアブレーキも追加装備されている。
 その他、仮称零式の胴体にはブラックタイガー/コスモファルコンと同様に、耐レーザー装甲を装備した燃料タンクが各所に設置されている。

 コクピットレイアウトについては、基本的にブラックタイガー/コスモファルコンに準じた標準的なものを採用しており、計器は風防正面のHUDのすぐ下に丸形三眼多機能ディスプレイが配されているのみで、基本的にパイロットは多機能ディスプレイとHMDによる表示に加えて、搭載AIの音声によって警告等の情報を受けとるようになっており、入力操作は各種スイッチの他に音声によってAIに攻撃目標の指定や自動操縦等の指示を出すことも可能である。
 操縦桿は200年以上前から一般的になっていたサイドスティック方式ではなく、一見それよりも古風なセンタースティック方式が採用されている。
 これは、サイドスティックの方が疲労等は少ないものの、被弾等によって右腕を負傷すると左腕に持ち替えることが難しく、操縦が極めて困難になるという事例が多発したためで、基本的に仮称零式以降に開発される地球防衛軍機の大半がセンタースティック方式を採用している。
 なおブラックタイガーは原型のホワイトジャガーと同様にサイドスティックを採用していたが、上記の理由から生産途中からセンタースティックに変更しており、サイドスティックを装備していた機体もコスモファルコンへの改修時や修理・定期点検時にセンタースティックへ変更している。
 ブラックタイガー/コスモファルコンと異なる点として、試験飛行開始直後は操縦席後方に各種計測装置が搭載されていたが、間もなくそれらは取り外され、簡易操縦装置付きの後部座席が取り付けられている点が挙げられる。
 これは単座型とは別に複座型を開発する余裕がなかったために採られた手段であり、後部座席とそのコンソールに容易に着脱できるアタッチメント式を採用することで単座時の重量増加を最小限に抑えていることからも分かる様に、試製零式の後部座席は緊急用のものであり、そのせいもあってかなり窮屈で乗り心地の悪いものになっている。
 なお、初期試作機の風防にはフレームがなかったが、その後の試験飛行において微少デブリとの衝突による風防の破損事故が発生し、風防の強化が求められた。
 しかし、既に増加試作機の生産が進みつつあることから大幅な設計変更が難しかったため、風防の側面部は変更を加えず、風防正面のみより強度の高い材質のものと交換し、強度を考慮してその境目にやや太いフレームを追加している。
 このフレームの追加によって視界がやや悪化したことから、テストパイロットから改善要望が出され、後にHMDにフレーム部分の補正画像を投影して視界を補う改修が行われている。

 主翼下面には増槽/ミサイル兼用のハードポイントが各2基(Sta.1,2,5,6)、主翼付根上面には増槽専用のハードポイントが各1基ずつ(Sta.3,4)設けられている。
 ハードポイントの装備数はコスモファルコンと同じだが、コスモファルコンが機体内部に兵装庫を内蔵するのに対し、仮称零式では主翼にハードポイントが設けられており、大推力のFRE-112Aを搭載していることもあって、ハードポイントとパイロンにも空戦機動に耐えられる強度が与えられている。
 尤も機体内燃料タンク容量がコスモファルコンより減少していることから、試製五二型試作機完成と前後して実用化された増槽に高機動スラスターを多数内蔵した零式高機動ポッドを標準装備することになり、航続力の延伸と同時に更なる機動性の向上が図られている。
 通常この高機動ポットは、主翼翼端に近く少ない推力でも大きなモーメントを生むことの出来る主翼下面に各1基懸吊するが、各種誘導弾を装備する場合は主翼上面に各1基装備することになっている。
 これは、高機動ポットの主翼上面への装備により、主翼下面懸吊時よりやや機動性が低下する代わりに、誘導弾装備による重心変化の影響を最小限に留めることが出来るためである。
 また、高機動ポッドは緊急投棄が可能となっているが、投棄する前に予め内蔵されているスラスターにAIによる自動プログラミングを行うことで、簡易大型ミサイル(但し自動追尾能力は皆無)として使用する機能の追加と、スラスターを全て後方に向けて噴射すれば、簡易ブースターとして緊急加速に利用可能であることが判明したことから、より推力の高いスラスターへの変更を加えた零式二型高機動ポットが開発されている。
 このため、高機動ポットは既存戦闘機の中で航続力と機動性にやや難のあるホワイトジャガーやブラックタイガーにもレトロフィットされた他、仮称零式以後に開発される地球防衛軍戦闘機の標準装備まで発展していくことになる。
 なお、仮称零式はこの高機動ポットを装備することで、航続力を4割以上も延伸することが可能であることが飛行試験により確認されており、実戦配備後はこの長大な航続力を活かし、コスモファルコンでは難しい長距離強行偵察等にも投入されている。
 ハードポイントに各種誘導弾を搭載する場合、大型誘導弾の搭載時はバイロンに直接搭載し、中型及び小型誘導弾の搭載時はアタッチメントを使用することでハードポイント1基につき3発の搭載が可能だが、高機動ポット2基を主翼付根上面のSta.3,4に搭載した上に残りのハードポイント4基に中型及び小型誘導弾を3発ずつ満載することは、主翼強度の関係で推奨されていないため、最大搭載数は6発になっている。

 主翼端及び垂直尾翼端には、姿勢制御用の小型スラスターだけではなく、これもまた地球防衛軍空間戦闘機として初めて総合通信アンテナが取り付けられている。
 通信やデータリンクなどに使用されるこのアンテナは、悪化しつつあった当時の地球防衛軍の通信状態と戦闘機の性能向上に伴う空戦空域の拡大により、地上からの管制が適切に行えなくなりつつあったこと(基地と空戦空域の距離が大きくなりすぎて、超光速通信を使用しても基地からの情報が戦闘機部隊に達する頃には戦況が変化し、役に立たないことが多くなっていた)を考慮して、空戦空域においてこの戦闘機から限定的ながら空中管制が行えるように送受信能力の高い大型のアンテナが選択され、更に通常であれば送受信用のものが1基ずつあれば十分であるところを、余裕を持たせて送受信用とも2基ずつ装備されている(垂直尾翼のアンテナが受信用、主翼のアンテナが送信用)。
 なお、ECMモードでは受信用アンテナで敵性レーダー波を探知し、搭載コンピューターでその特性を解析、送信用アンテナから敵性レーダー波を相殺する波長を発信するというアクティブサイレント機能が付与されている(基本的には主翼と尾翼のアンテナが用いられるが、状況によってはL型指向性アンテナやパルスレーザー機銃のニードル型放熱部兼レーダーアンテナも使用される)。
 アクティブサイレントモードは、高い処理能力を持つコンピューターを搭載する試製零式ならではの機能で、敵レーダー波の解析とその同調は搭載コンピューターへ大きな負荷をかけ、激しい機動を行うとコンピューターの処理が追い付かなくなるため、この機能を使用している間は戦闘が不可能になるものの、ガミラスの濃密な早期警戒網をかいくぐることも可能なアクティブステルス能力を仮称零式に付与することに成功しており、戦術戦闘偵察機的な運用も可能にしている。
 試製零式が、ブラックタイガー/コスモファルコンの様な機体形状によるステルス性を考慮した機体形状や内蔵式兵装庫を採用せず、主翼へ多数のハードポイントを装備しているのは、この優れたアクティブサイレントモードが実装されているためである。

 これらの改良によって、実用戦闘機としての能力を獲得しつつあった改良型に、更に艦上機用の装備を追加した機体を「零式五二型空間艦上戦闘機『コスモゼロ』」として制式採用する内示が航空本部から通達され、増加試作機の製作と量産準備の命令が下された。
 とはいえ、この時点でコスモゼロは未だ試作段階を脱しておらず、細々した改良も引き続き行われている。
 その一つが武装の変更である。
 九九式一号三型30oパルスレーザー機銃の威力に不安を覚えた航空本部が、門数は半減するもののニードル型放熱部を砲身兼用としてレーザーの出力向上を図った「九九式二号三型30o固定パルスレーザー機銃」を試験的にコスモゼロに搭載することにしたのである。
 九九式二号二型パルスレーザー機銃搭載型のコスモゼロは「零式五二乙型空間艦上戦闘機」(または「乙装備機」)と名付けられ、それに伴って先に完成した九九式一号三型パルスレーザー機銃搭載型は「零式五二甲型空間艦上戦闘機」(または「甲装備機」)と改称されている。
 五二甲型の試験飛行を始めて間もなく、テストパイロットから五二甲型の機首側面に装備した九九式一号三型パルスレーザー機銃を発砲すると、その発砲光で眼が幻惑されるという指摘がされ、パルスレーザー機銃の取付位置を機首下面とし、パルスレーザー機銃自体も取付位置の変更に伴って発射装置やエネルギー伝導装置に小変更を加えた「九九式一号四型30o固定パルスレーザー機銃」に変更した機体が開発され、「零式五二丙型空間艦上戦闘機」(または「丙装備機」)と名付けられている。
 パルスレーザー機銃の取付位置変更によって、発砲光によるパイロットの眼への影響がほぼ無くなり、この対策が有効であることが確認されたことから、コスモゼロの開発と並行する形で行われていたコスモファルコンの改修設計にも同様の改修が盛り込まれている。

 これらの武装バリエーションは増加試作機の生産と同時並行で次々と追加されたため、どのパルスレーザー機銃が搭載されたかは生産時期によって異なり、武装が異なることによる整備の手間を省くため、容易に武装を変更出来るよう全ての機体にパルスレーザー機銃の取付部をパッケージ化する改造が施されている。
 先述した様に、五二甲型の九九式一号三型は発砲時の閃光によってパイロットの眼が幻惑されるという欠点が判明し、五二乙型に搭載された九九式二号二型についても破壊力は大きいものの投射弾量が少なく、また長い砲身が激しい空戦機動のGによって捻れて弾道が安定しないということが徐々に明らかになり、最終的に九九式一号四型を機首下面に装備する五二丙型が標準になっている。
 尤もこの時点では、どのパルスレーザー機銃も目標としていた「九九式一号二型の1.5倍」の発射速度を実現していなかったが。
 ガミラス戦役後に製作されたTVドラマ「宇宙戦艦ヤマト」やその他のドキュメンタリー、再現ドラマなどに登場するコスモゼロのパルスレーザー機銃の取付位置が場面場面で異なることが多いのは、撮影用にその時々航空隊から借用した機体の武装が異なっていたり、番組製作会社が五二型の武装の変遷を十分に調査せずに模型やCGを製作したためのようである。

 制式採用の内示がでたとはいえ、機体の強度不足、FRE-112Aの運転制限、パルスレーザー機銃の発射速度不足などコスモゼロの性能は未だ不安定なものであった。
 これらの不具合の改善に必死の努力をしていた開発陣にある話が舞い込んだ。
 「コスモリバースシステム」を受け取るため、遙かイスカンダルまで往復33万6千光年という長い航海に出ることになったヤマトの主力艦上戦闘機の候補に、その高性能を買われてコスモゼロが挙がったのである。
 しかし、この時点で完成していたコスモゼロは全部合わせても20機余り、しかもその半数近くは実験機といってもいい仮称一一型や仮称二二型、仮称三二型及び仮称四一型であり、実用戦闘機型である五二型は10機前後しか存在しておらず、また性能が安定しないため信頼性に欠け、大規模な艦内工場を持つヤマトといえども稼働率を保てるか疑わしく、航海中の補充も難しいこともあって主力艦上戦闘機の候補から外されている。
 結局、ヤマトの主力艦上戦闘機にはコスモファルコンが選定されたが、実戦データの収集を主目的として試作機の中から最も状態の良い五二丙型が選び出され、設計図のコピーと大量の予備部品とともにヤマトに積み込まれてイスカンダルへ旅立っている。
 ヤマトに搭載された正確な機数は記録が残っていないためはっきりしていないが、残された記録写真やヤマト乗組員の証言から地球出撃時2機搭載とする説が最も有力で、指揮官機の予備機(兼部品取り用)または指揮官機を援護する僚機として使用するためだったのではないかと推定されている。
 かつては、出撃時に搭載されたのは1機のみで、出撃後のヤマト艦内工場において予備部品を使用して1機製作された、とする説も有力視されていたが、近年は2機搭載説が優勢である。
 またヤマト搭載機として最も有名な機体番号「0-5201」号機が、天の川銀河離脱からイスカンダル到着までの間に中破していたとの未確認情報があり、研究者の間で議論となっていたが、ヤマト艦内で修理中の「0-5201」号機の写真が発見されたことで事実と確認されている(但し、いつどのようにして破損したのかは判明していない)。
 なお、この「0-5201」号機は、製作途中の仮称三二型試作7号機を五二型試作6号機に変更して完成した機体に、ヤマト搭載機とするため量産型と同じ仕様に改修された事実上の量産1号機であり、もう1機の「0-5202」号機は、製作途中の仮称三二型試作8号機を五二型試作7号機に変更して完成した機体に「0-5201」号機と同じ仕様を施した事実上の量産2号機であることが、近年の研究によって判明している。
 またヤマト搭載機として当時地球に存在したコスモファルコンの1/3を引き抜いたことで空いた地球防空網の穴を埋めるため、ヤマト出撃と相前後して残りの五二型増加試作機のうち調子の良い機体が少しずつ地球本土防空任務に回された他、仮称三二型はおろか仮称一一型、仮称二二型、仮称四一型の各試作機の五二型仕様への改修が本格的に開始されている。
 主翼折畳機構等を除いて量産機とほぼ同じ仕様を施されていた五二型試作2号機(仮称三二型試作5号機から改修)が、非武装のテスト用装備のまま緊急出撃してしまい、エンジントラブルを引き起こして九州地区近郊に不時着、大破するという事故が発生したのはこの頃の事である。
 この事故は、エンジン制御プログラムの一部にあったバグによって発生したことが判明しており、ヤマト搭載機を始めとする五二型全機に対して、急遽作成された修正プログラムがインストールされている。

 この一件でも判る様に、まだテストも十分終わっていない機体をヤマトに搭載するのは少々強引な様に思えるが、当時の防衛軍司令部においては、ガミラスによる妨害は太陽系を出るまでが最も激しく、天の川銀河を離れればガミラスの追撃はなくなる可能性が高いと考えられており、最悪コスモゼロも太陽系を脱出するまでの作戦行動で使用できるだけでもよいと判断されていたためである。
 一見不思議に思えるこの判断は、イスカンダルとガミラスが双子星であり、イスカンダルへの旅路は即ちガミラス本星に向けて進攻することと同義である、という現在では常識として知られていることが、全く知られていない状況で下されており、ヤマト計画の前に進められていたイズモ計画でも、ガミラスの攻撃は太陽系内、特に地球攻略の本拠地である冥王星周辺がピークで、冥王星通過後は少なくなっていく、と前提されていた。
 このため、太陽系を離れてイスカンダルに向けて進めば進むほどガミラスの攻撃が激しくなる(これはヤマトの天の川銀河離脱後、テラン方面部隊司令にドメル元帥(戦死後)を据える等、ガミラスのヤマト対策が本格化したためでもある)ことを訝しむヤマト乗組員は、イズモ計画賛同者に多かったヤマト計画に懐疑的だった者その多くは、イスカンダルからの救いの手がガミラスの欺瞞工作ではないかと疑っていた)を中心にかなり存在し、この影響でバラン星通過前から大マゼラン銀河到着までの時期のヤマト艦内の風紀はかなり乱れたと言われている。

 こうして、コスモゼロの実用化はヤマトと地球の両方で継続されることになり、交信可能な限り両者の間で情報交換が行われることになったが、最終的にコスモゼロの性能が安定したのは、ヤマトが太陽系を脱出して地球との交信が不能になる直前のことである。
 これには土星圏離脱直後にヤマト技術班が艦内工場で製作した多数の改造パーツに因るところが大きいのだが、これは一般にいわれている様にヤマト技術班の技術力が地球の開発陣より高かったことを示している訳ではない。
 ヤマトの地球出発以前にコスモゼロの性能安定、特にFRE-112A「彗星五型二号」と九九式一号四型30oパルスレーザー機銃の性能安定には硬度や耐熱性に優れた素材が必要で、地球ではこれ以上の改良が不可能であることが判明していた。
 そのため、地球の開発陣は主に機体強度の向上に関する改良を、新素材を入手できる可能性のあるヤマト技術班はFRE-112A「彗星五型二号」と九九式一号四型30oパルスレーザー機銃の性能安定を担当するという役割分担が行われていたのである。
 幸いこの役割分担は成功を納めた。
 エンケラドゥスにおいて、波動エンジンの補強用に採取したコスモナイト90の一部を用いて製作された改造パーツを組み込んだFRE-112A「彗星五型二号」と九九式一号四型30oパルスレーザー機銃は、設計時に想定された性能を安定して発揮することが確認されたのである。
 この情報はヤマトが交信可能圏内を脱出する最後の交信によって地球にもたらされ、後に完成したばかりのA1型駆逐艦を投入して行われた所謂「タイタン急行」(エンケラドゥスにおいて、ヤマトが小規模ではあるもののガミラス軍と交戦したことから、コスモナイト90を確実に入手するために、第一次及び第二次コスモナイト90採掘部隊が、未開発ではあるもののエンケラドゥスと同様にコスモナイト90の鉱脈があり、かつ付近を航行したヤマトの観測によりガミラス軍の存在が否定されていたタイタンを採掘場に選んだことに由来する名称。第三次以降は採掘部隊の護衛戦力が強化されたことと、それまでの観測でエンケラドゥスにガミラス軍の存在が確認されなかったことから、採掘しやすいエンケラドゥスでの採掘に切り替えている)によって入手されたコスモナイト90を使用した改造パーツが地球でも製作され、地球に残存したコスモゼロに組み込まれている。

 余談だが、コスモナイト90を使用した改造パーツを組み込まれたのは波動エンジンやコスモゼロだけではなく、ヤマトの対空パルスレーザー砲にも組み込まれ、発射速度向上が図られている。
 ヤマトに艦載された対空パルスレーザー砲が低発射速度であったのは、捕獲したガミラスデストロイヤーに装備されていたものをコピーしたものの、当時の地球の技術力ではガミラス製の砲と同じスペックを持たせることが出来なかった為、やむを得ず発射速度を犠牲にして射程を稼いでいたためである。
 この低発射速度を砲数で補うため、ヤマトには基本的に連装砲塔型の対空パルスレーザー砲が多数搭載されていたが、少しでも搭載門数を稼ぐため、当時はまだ試作段階だった四連装砲塔型も一部に搭載されている。
 やはり土星圏離脱直後に改良パーツを組み込まれた対空パルスレーザー砲は、改造前とは比較にならないほど高い発射速度を長時間継続することが可能となり、その圧倒的に高密度の対空火網により、その後ヤマトに襲いかかって来たガミラス軍機や魚雷等を多数返り討ちにしている。

 コスモナイト90製の改造パーツを組み込むことで各種運転制限が解除され、全力発揮が可能になったコスモゼロの内、ヤマトに搭載された機体が空戦性能、通信能力と処理能力を活かし、戦術長専用機として、そして戦闘機としてのみならず戦闘偵察機としても活躍したのはつとに有名である(因みに戦役による混乱のため事務手続きが非常に遅れ、書類上コスモゼロが制式採用されたのは内示から半年近く後のことである)。
 尤も「0-5201」号機は戦闘時の損傷によりイスカンダル到着時には中破状態で、損傷が激しく艦内での修理では戦線復帰は困難と判定され、戦力外として扱われていたが、「0-5201」号機を「運のいい」機体と考えるヤマト航空隊員らを中心とする有志が帰還中に細々とレストアを行っていたことから、スクラップにされることなくメーカーに引き取られた後、新造に匹敵する大修理を受けた結果、最新仕様機として再生されている(2年近くに及んだ修理の間、代替としてエンジン不調のため戦闘に参加せず、メーカーでテストに用いられていた五二型試作3号機が整備の上でヤマトに貸し出されている)。
 一方、地球に残存したコスモゼロは第四三飛行隊に集中配備され、地球本土防空任務に就いている。
 高い空戦能力を持つ最新鋭機と各航空隊から引き抜かれてきた熟練搭乗員を保有する第四三飛行隊は、当時の地球防衛軍航空隊にとって宝石より貴重な戦力であった。
 このため、当初防衛軍司令部では虎の子である第四三飛行隊の実戦投入に消極的な空気が支配的であったが、当の第四三飛行隊司令や隊員達は最新鋭機を保有している部隊がそんな消極的な戦法は採れないと大反対し、激論の末に第四三飛行隊が司令部の説得に成功、積極投入が決定された。
 こうして第四三飛行隊は、ヤマトの活躍により冥王星基地が壊滅した後も稀に襲ってくるガミラス艦隊や艦載機部隊との戦闘において常に先頭を切って敵戦闘機部隊に突入、彼らがこじ開けた穴に他の戦闘機隊が突入して戦果を拡大するという戦術によってこれらを撃退して、ヤマト帰還の時まで地球の空を護り通している。
 しかし、資材不足もあってガミラス戦役中にコスモゼロが本格的に量産されることはなく、生産された五二型は増加試作機と量産機を合わせても50機ほどで、熟練パイロット達が操っていたとはいえ激戦に投入されたこともあって最終的に戦役を生き残ったのは30機に満たなかった。

 ガミラス戦役後、地球の復興と共に開始された地球防衛軍の再建に伴い、航空隊では主力艦上戦闘機としてコスモゼロの名前が挙がったが、これが実現することはなかった。
 その最大の理由はコスモゼロ独特の機体形状にあった。
 ガミラス戦役後に空母機動部隊の整備を始めていた地球防衛軍は、航空母艦の狭い格納庫に多数格納できるコンパクトな機体を求めていたが、主翼に加えて機体上下の大型の垂直尾翼、更に機首の大型L型指向性アンテナに折畳機構を備えるというコスモゼロの構造は、地球防衛軍航空母艦のシリンダー式格納庫への格納にはある程度適していても、機体構造が複雑になるため量産に不向きであることがネックとなり、最終的に不採用へ繋がったとされている。

 上記の様な事情と当初から航空母艦搭載を前提として開発された後継戦闘機の実用化によってコスモゼロの本格量産は見送られ、ガミラス戦役を生き残った数少ない機体は主としてテスト部隊である飛行実験隊やアグレッサー部隊である飛行教導隊に配備された。
 この際、部品供給等の関係から、九九式一号三型30oパルスレーザー機銃が新型機用パルスレーザー機銃をコスモゼロ用に発射速度等を再調整した「一式三型30o固定パルスレーザー機銃」への更新が行われ、これと並行して、軽量化のために取扱に難のある九七式二号57o固定陽電子機関砲は降ろされているが、この時期に撮影されたヤマト搭載機である「0-5201」号機の写真を見ると、この機体については搭載したままだった様である。
 なお、公式にはこの時点でコスモゼロは実戦機としての任を解かれ、実験機と同様に扱われることが決定されており、以後、改修が施されても新たな型式番号は付与されなくなっている。
 また、これらの部隊とは別に飛行戦技研究隊、所謂「ガーディアン・エンジェルズ」にも一部の機体が配備されている。
 「ガーディアン・エンジェルズ」初代使用機となったコスモゼロは、アクロチーム特有の色鮮やかな色彩の特別塗装が施され、復興中の地球各地で開催される航空祭に必ずと言っていいほど参加、見学にやって来る市民の前で見事なアクロバット飛行を何度も披露している。
 その後に生起した白色彗星帝国戦役の地球本土決戦において、これらの機体は地球残存艦隊の援護のため出撃、その空戦能力を活かして地球残存艦隊の勝利に貢献している(第二部第四章参照)。

 白色彗星帝国戦役終結からしばらくの間、これらの機体は、耐レーザー装甲の更新といった改良を受けつつ実戦部隊に配備されていたが、新型機の配備に伴って暗黒星団帝国戦役直前には再びテスト部隊に全機が集められ、実験用機材として各種新装備のテストなどに用いられている。
 これらのテストに供されて機体やエンジンに様々な改修が施された結果、機体形状だけでも白色彗星帝国戦役の頃とは細部がかなり異なるものとなっているが、更に機動プログラム開発にも使用されたため、機動性も大きく向上していた。
 再び地球本土攻撃を受けたディンギル戦役では、実戦部隊の機材が多大な被害を被ったのと対照的に、テスト部隊に配備されていたコスモゼロは攻撃を免れ、ほぼ無傷であった。
 深刻な機材不足を補うために急遽第一線に復帰したコスモゼロは冥王星海戦の艦隊防空戦に投入され、更にその一部は都市衛星ウルク攻防戦にも参加、多大な戦果を挙げている。
 その中でも、冥王星海戦においてヤマト搭載のコスモゼロが、アクティブサイレントモードを駆使した単機強行偵察により燃料補給中の敵艦隊を発見、その位置報告を受けたヤマトの波動カートリッジ弾の一斉射により補給基地ごと敵艦隊を撃滅することに成功し、地球を勝利に導いたことは広く知られている。

 このサイズの宇宙戦闘機としては極限に近い空戦性能を持つコスモゼロは、ガミラス戦役や白色彗星戦役、イスカンダル救援作戦、ディンギル戦役において大きな戦果を挙げているが、生産性・メンテナンス性・汎用性に欠け、コストパフォーマンスが悪いことは配備当初から指摘されており、戦闘機の性能不足に悩まされていたガミラス戦役中ですら、コスモゼロの開発・生産に必要な人員・資材・予算をコスモファルコンの量産に回した方が良いという批判が浴びせられている。
 しかし、その後の地球防衛軍空間戦闘機開発全体の流れで見ると、様々な新装備・新機構を備えたコスモゼロは後継戦闘機のテストベッド的役割を果たしたともいえる。
 その意味で、コスモゼロはこれ以後に開発された地球製空間艦上戦闘機にとって全ての原点、即ち「ゼロ」であったと言えるのではないだろうか。


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