第一章 新たなる守護天使の降臨


一式一一型空間艦上戦闘機 "コスモタイガーU"



 ガミラス戦役終結後、ガミラスからの捕獲兵器の分析から得られた技術と地球独自の技術との融合による様々な分野における技術の爆発的な発達を原動力として、地球は僅かな期間で目覚ましい復興を遂げつつあり、そして復興の足取りに合わせ、新たな地球防衛艦隊が整備されつつあった。

 新たな艦隊の再建に着手する前に、地球防衛軍の参謀本部や艦政本部において戦備計画策定の情報収集の一環として行われた、イスカンダルより帰還したヤマトの戦闘詳報の分析は、この後の地球防衛軍の戦備計画に大きな影響を与えることになった。
 なぜなら、この分析を受けた地球防衛軍上層部における波動砲の有用性が実情以上に評価され、所謂「波動砲決戦思想」が生まれたからである。
 しかし、次元波動砲、即ちヤマトに搭載された「試製次元波動爆縮放射機」は、イスカンダルではかつての地球における核兵器に匹敵する忌まわしき兵器であることから、コスモリバースシステム供与の条件に次元波動砲の封印が挙げられ、イスカンダルで行われたコスモリバースシステム搭載改修と引き換えにヤマトの次元波動砲は運用不能になっていた。
 次元波動砲の起動には波動コアを用いた小型高出力波動エンジン、通称コア波動エンジンが必要だが、波動コアが希少である上に解析もほとんど進んでいないため、コア波動エンジンの量産の目処は立っておらず、必然的に次元波動砲の量産の目処も立っていなかった(波動防壁システムについては、システムそのものの量産は可能ではあるものの、波動防壁システム起動にはやはりコア波動エンジンの高出力が必要であり、次元波動砲同様、新造艦への搭載の見込みは全く立っていなかった)。
 技術本部ではコア波動エンジンを用いずに次元波動砲システムを起動するには戦艦級の数倍の規模を持つ波動エンジンで出力を確保しなければならないという結論を導き出していたが、これはガミラスであっても同様で、彼らは超大型大出力波動エンジンとオリジナル波動コアから次元波動砲制御に必要なシステムのみをコピーした擬似波動コアを搭載する大型戦艦に次元波動砲システムを搭載することでこの問題をとりあえず解決していたが、技術的な問題と多大な建造費の関係からガミラスの象徴として総統専用艦デウスーラU世、所謂デスラー艦のみの建造に留まっている。

 とはいえ、ヤマトからガミラスと比較しても遥かに高い侵略的傾向を持つガトランティスと呼ばれる星系国家についての報告を受けていた地球防衛軍参謀本部は、これまで以上に太陽系の防衛体制を整える必要性に駆られ、防衛施策の一環として次元波動砲の代替砲の開発を技術本部に指示している。
 これにはヤマト乗組員を中心に「イスカンダルへの背信行為に当たるのではないか」という疑問が寄せられているが、コスモリバースシステム供与の条件である「波動エネルギーの軍事転用」には細かい定義がなく、厳密に考えれば波動エンジン搭載の戦闘艦の建造自体が「波動エネルギーの軍事転用」にあたる可能性もある。
 そもそも地球初の波動エンジン搭載戦艦であるヤマトはイスカンダルの技術供与によって完成したものであり、またイスカンダルに到着したヤマトの(次元波動砲を除く)兵装には特に指摘されていない、ということを検討した結果、「波動エネルギーの軍事転用=次元波動砲」と定義され、技術本部への要求書には「波動エネルギーそのものを利用しない砲」と明記されている。
 これを受けた技術本部は、次元波動砲の技術を応用し、「波動エンジン出力の波動エネルギーの大半を増幅した上で圧力薬室に注入、艦首から収集したタキオン粒子を充填したシリンダーへ圧力薬室を挿入して波動エネルギーとタキオン粒子を反応させ、波動エネルギーと反応により高エネルギー化したタキオン粒子、そしてタキオン粒子の高エネルギー化時に発生する時空震に指向性を与え、目標に向かって撃ち出す」砲を比較的短期間で開発することに成功した。
 この試作砲は参考になった次元波動砲とほぼ同じ構造を採用しているが、同規模艦で比較した場合、理想的条件でも破壊力はマイクロブラックホール生成とそのホーキング輻射を用いる次元波動砲(放射されるエネルギーが極めて大きいため、副次的に時空震も発生する)の二割程度に過ぎず、タキオン粒子の収束技術が不完全であるため長距離精密射撃に不向き、次元波動砲以上にエネルギー充填に時間がかかる、といった欠点があった。
 しかし、次元波動砲の様にコア波動エンジンを必要としない分、量産が容易に行える上、巡洋艦クラスの通常型波動エンジンでも運用可能という利点があり、しかもエネルギー充填時間の短縮を可能にするエネルギー増幅装置と波動エネルギーを散弾のように「拡散」させる技術と多連装化による時空震の共振・増幅技術が確立されたことから、参謀本部はこれを正式採用して決戦兵器に位置づけることを決定、「タキオン波動砲」という正式名称を付与している。
 タキオン波動砲の実用化により波動砲決戦思想は一気に実現性を帯び、この思想を全面的に取り入れた当時の地球防衛艦隊の戦備計画は、必然的にタキオン波動砲装備艦、特に戦艦の建造に重点を置いたものになり、A型戦艦の大量建造に留まらず、強力な連装タキオン波動砲を持つアンドロメダの建造へと突き進んでいく。
 この戦備計画の影響でガミラス戦役後の地球では、「波動砲」と言えば次元波動砲こと「次元波動爆縮機」ではなく、「タキオン波動砲」のことを指す方が一般的であり、以後、本稿でも特に断りがない限り「タキオン波動砲」を示す場合に用いる。
 タキオン波動砲の実用化により波動砲決戦思想は一気に実現性を帯び、この思想を全面的に取り入れた当時の地球防衛艦隊の戦備計画は、必然的にタキオン波動砲装備艦、特に戦艦の建造に重点を置いたものになり、A型戦艦の大量建造に留まらず、強力な連装タキオン波動砲を持つアンドロメダの建造へと突き進んでいく。
 この戦備計画の影響でガミラス戦役後の地球では、「波動砲」と言えば次元波動砲こと「次元波動爆縮機」ではなく、「タキオン波動砲」のことを指すのが一般的であり、以後、本稿でも特に断りがない限り「タキオン波動砲」を示す場合に用いる。
 余談ではあるが、ガミラス戦時よりも遙か以前に、ガミラスでもタキオン波動砲とほぼ同構造の「タキオン砲」を実用化・運用している。
 しかし、ガミラスにおいても上記の様な欠点は同様であり、その後より使い勝手の良い空母及び水雷戦隊が主戦力として整備されたため、ガミラス戦役の頃には実用性のない兵器として忘れ去られた存在になっていたが、その後ガルマン・ガミラス建国時頃から「デスラー砲」の名称で一部の部隊に搭載艦が配備されている。

 とはいえ、七色星団の戦いの戦訓もあり、地球防衛軍が航空戦力の整備を忘れていたわけではなかった。
 ガミラス戦役時の主力戦闘機であるコスモファルコンこと九九式空間戦闘攻撃機は、戦役後に施されたアップデートにも関わらず、急激な技術の進歩に取り残されて急速に陳腐化しつつあり、後継機であるはずの零式五二丙型空間艦上戦闘機、つまりコスモゼロは最高級の空戦性能を有するものの、様々な要因により量産・配備は遅々として進んでおらず(というより、生産効率の悪さからほとんど量産されていなかった)、新型艦上戦闘機の一刻も早い開発・配備が切望されていた。

 しかし、先に述べたような理由から、予算、資材、人員のいずれも湯水のように必要とする波動砲搭載戦艦の建造が最優先となっていたため、結果として航空戦力の整備は遅れがちになっていた(特に予算不足が深刻だった)。

 当時、航空戦力を有効に活用するには航空母艦を整備し、機動部隊を編成する必要があると考えられており、A型航空母艦の建造が進められていたが、この空母にも大きな問題があった。
 A型航空母艦は、基本的に同時期に建造されていたA型主力戦艦の後甲板の武装を全て撤去し、飛行甲板と格納甲板を設けた艦で、艦首波動砲を含む艦前半部の武装と艦全体の装甲はA型主力戦艦と同じである。
 そのため、飛行甲板は短く、格納庫は(後部砲塔の廃止とエンジン取付位置の変更によって、ヤマトに比べれば随分マシになっているが)狭隘なものになってしまい、搭載スペースを少しでも有効に使うため、ヤマトのシリンダー式格納庫の改良型が採用されているが、それでも格納庫のスペース不足を補うことは出来ず、十分な搭載機数を確保することは出来なかった。

 つまり、このA型航空母艦は搭載機数や同時発艦能力がかなり限定されており、現実的には航空母艦と言うより艦載機運用能力を持つ戦艦、即ち航空戦艦と言った方が良い艦だったのである。
 こういったA型航空母艦の欠点のほとんどは地球防衛軍に本格的航空母艦を建造/運用した経験がなく、参考になりそうな事例としてはヤマトにおける艦載機運用と七色星団で交戦したガイペロン級多層式空母やケルバデス級戦闘空母等のガミラス製空母のデータぐらいしかないという手探りの状態で航空母艦の建造に着手したために発生したものであり、A型航空母艦の一番艦が完成し、公試から実際の部隊運用を始めると、艦政本部もA型航空母艦の欠点を正確に理解し始めている。

 三番艦の完成が目前となった時点で、艦政本部は建造途中のA型航空母艦に斜め飛行甲板の追加による艦橋側面付近までの飛行甲板の延長、艦体装甲の削減と格納甲板の拡大といった改設計が順次行うことを決定、これらの改設計によって大幅に航空機運用能力を向上させたA型航空母艦はA2型航空母艦と名付けられ、それに伴って原型のA型航空母艦はA1型航空母艦と名称変更されている。
 純粋なA2型航空母艦に分類されるのは、改設計が全て盛り込まれた七番艦以降の艦であるが、改設計が決まった時点で工事がかなり進捗していた五・六番艦にも一部ではあるが装甲の削減と格納甲板の拡大が行われている(一般に改A1型航空母艦と呼ばれる)。
 改A1型航空母艦への改装が比較的短期間で行えたため、この改装を参考に一〜四番艦に改A1型よりも大規模な装甲の削減と格納甲板の拡大、更に一部ではあるが飛行甲板の拡張を施す計画が立てられ、五・六番艦の就役と交代で一・二番艦が順次ドック入りし、改A1型航空母艦を上回る搭載機数と航空機運用能力を得ている(三・四番艦の改装は未着手。改A1型航空母艦とは艤装が異なるため、一般にA1型航空母艦(改)と呼ばれる)。
 更に、十二番艦(A2型航空母艦としては六番艦)が完成し、母艦がある程度揃った時点でA1型航空母艦の一〜六番艦にも本格的な改装を行い、A2型航空母艦に準じた装備を施す計画が立てられ、A1及びA2型航空母艦の経験を元に、根本的に航空母艦としての改設計を施した「仮称A3型航空母艦」の設計も着手されている。

 しかし、決戦時の主力とされる戦艦数の減少を嫌う参謀本部が、建造計画にA型航空母艦をそれほど加えなかったため、整備中の地球防衛艦隊の母艦航空戦力は数の上でかなり限定されたものになった。
 にも関わらず、地球防衛軍では母艦航空戦力を艦隊防空だけでなく、好機があれば敵艦隊への航空攻撃を行うことを想定していた。
 これは、なによりも優先して整備されていた戦艦部隊ですら、他の星系国家の戦艦部隊と比較した場合、数的には劣勢と想定されていた(不幸なことにこの予測は正確だった)ことから、その劣勢を少しでも埋める方法が模索されており、その一つとして考えられたのが敵艦隊への積極的な航空攻撃であったためである。
 それにはガミラス機動部隊のように制空用の艦上戦闘機、攻撃用の艦上爆撃機並びに艦上攻撃機の三機種をそれぞれ開発・配備する方が理想的であることは地球防衛軍も理解していたが、先に挙げたように、主として予算面の問題からこれを実現するのはほぼ不可能だった。
 そのため、航空隊が一定の機数を確保するためには、保有機種の限定などにより量産効率を上げ、開発予算を削減しなければならず、必然的に高い対艦攻撃力を備えた艦上戦闘機が求められることになっている。

 とはいっても、建造される航空母艦の数が少ないため、艦隊決戦時に投入可能な母艦航空戦力が不足していることは明らかであり、参謀本部は航空戦力の不足を補うために基地航空隊を艦隊決戦に投入することを構想していたのである。
 この構想を実現するため、参謀本部は航空本部に対して新型戦闘機に太陽系の各基地からの長距離攻撃を可能とする長大な航続距離を要求している。

 一方、ガミラス戦役において苦戦を強いられた航空隊は、その反動から高い空戦性能を有する戦闘機を欲しており、新型艦上戦闘機には地球防衛軍航空隊最強の格闘戦闘機であるコスモゼロと同等、またはそれ以上の高い空戦性能が絶対に必要と主張していた。

 またこの頃、艦政本部は、建造中のA1型航空母艦の飛行甲板が短いため、それに搭載する艦載機には発着艦時、特に着艦時に高い安定性と短距離離着陸能力が必須であると航空本部に伝えている。
 そして航空母艦の格納庫がシリンダー式であるため、機体をより小型にする必要があることも加えて伝えている。

 これらの要求性能は全て新型戦闘機に必要な性能と認められたため、ほぼそのまま新型艦上戦闘機への要求性能に盛り込まれ、その結果、新型戦闘機の要求性能は「小型・高機動・重武装・大航続力」という相反する条件を高水準で求めるという無理難題を絵に描いたようなものになっている。

 なお、このときに提示された計画要求書は以下のようなものである。


試製一式空間艦上戦闘機計画要求書

目的

 優秀な空間艦上戦闘機を得ること
型式
 単発デルタ翼型
主要寸度
 可能な限り小型であること
 なお格納時の寸度は下記を超過しないこと
  全幅  9.0m
  全長 17.5m
  全高  5.0m
エンジン
 西暦2200年3月末日までに審査合格のもの
搭乗員
 1名
飛行性能
 加速力 350宇宙ノットまで10秒以内(静止状態より)
 上昇力 大気圏外まで6分以内
 航続力
  正規 最大出力/0.5時間+巡航0.25光秒
  過荷重 最大出力/0.5時間+巡航0.5光秒
離陸滑走距離
 過荷重にて200m以内(1G・大気圏内)
 試製電磁制動装置使用時10m
空戦性能
 零式空間艦上戦闘機に劣らない空戦性能を有すること
射撃兵装
 試製一式30o固定パルスレーザー機銃(300発)×6
 試製一式12.7o固定電磁投射機関砲(300発)×10
爆撃兵装
 状況に応じ、試製一式一号空対艦誘導弾または試製一式二号空対地誘導弾の装備が可能なこと
電子装備
 試製FD-3レーダー、各種無線装置、データリンクシステムを装備すること
その他
 標準的空戦距離からの試製一式30oパルスレーザー機銃の直撃に耐えうる防弾装備を付与すること
 (以下略)


 試製一式の計画要求書の内容を読んだ開発陣は頭を抱えた。
 いくら大幅な技術革新が進んでいるといっても、技術的に考えてこの要求性能を実現するのは困難、というより不可能に近い。
 そこで、彼らはすぐに航空本部に駆け込むと、要求性能をどれか一つで良いから緩和して欲しい、と担当官に頼み込んでいるが、それはあっさりと拒否されている(実際の所、頼み込まれた担当官は要求性能の変更のために尽力しているので「あっさり」拒否した訳ではない)。

 地球防衛軍も役所であり、そして役所が一度決定したことはなかなか覆らない(役所の決定にはそれなりの根拠があり、その根拠を覆さない限り決定が覆らないため)。
 また先にも述べたように、要求性能の決定に航空本部だけではなく、艦政本部や参謀本部も関わっていたため、航空本部の一存で要求性能を変更することが出来なくなっていたことも事態をより複雑にしていた。
 つまり、要求性能の内容を変更するには、航空本部、艦政本部、参謀本部それぞれの代表者が一カ所に集まって意見交換を行い、その結果をそれぞれの部署に持ち帰って部内の意見を再統一し、再び会合を持って意見交換、という非常に面倒かつ時間のかかる調整を繰り返し行わなければならないのである(しかも調整できるとは限らない)。
 つまり、短期間での要求性能の変更・引き下げは事実上不可能といって良く、開発陣はこの困難な課題に正面から取り組まざるを得なかったのである。

 このような状況の中、後に「コスモタイガーU」と名付けられることになる新型艦上戦闘機の開発は始まった。
 なお、「コスモタイガー」とはガミラス戦役末期に提案された次期主力空間艦上戦闘機案の仮称で、この時は新型大推力エンジンの開発遅延と物資不足のためペーパープランで終わっている。
 その際に試算された数値や計画要求書案が試製一式の計画要求書作成時に流用されたことから、開発が始まるとすぐに半ば公式名称として「コスモタイガーU」が各種文書に用いられており、特に何の問題もなかったことから制式化に至っている。

 さて、開発陣はこれまでの経験から、戦闘機の基本的性格を後になって変更することが困難と考えていた。
 武装や航続距離は後で装備を追加することである程度補うことは比較的容易だが、劣悪な運動性能の戦闘機を後になってから改善することは難しい。
 そのため、彼らはまず新型戦闘機に可能な限り高い運動性能を与えることにした。

 開発陣はまずエンジンの選定を始めた。
 とは言っても、この当時、地球には空間戦闘機用エンジンは2系統しか存在していなかった。
 一つはコスモゼロに搭載された「FRE-112A『彗星五型二号』」、もう一つはコスモファルコンに搭載された「FRE-111A『流星三五型』」である。

 コスモゼロのエンジンは、本来艦上戦闘機より一回り以上大型の機体用に開発された「ARE-101A」中型雷撃艇に搭載)の試作エンジンを小型化して単座戦闘機用に改良したものである。
 このため、出力には全く問題がなかったのだが、このエンジンにはとても実用戦闘機用エンジンとは思えないほどのハイチューンが施されていたのである。
 コスモゼロの開発目的や開発時の戦況がこのような無理なチューンを強いたのだが、いくら要求性能を実現する為に大推力が必要とはいえ、地球防衛軍の次期主力艦上戦闘機に高性能を追求するあまり、量産性や整備性を無視したエンジンを採用する訳にはいかなかった。

 結局、より信頼性の高いFRE-111Aの改良型を搭載するという決定が下されている。
 ただ、このエンジンの推力では試製一式用としては不足であるため、高出力化を図る必要があったが、普通にエンジン本体を改良して推力強化を行った場合、無理な調整を施して性能が不安定になることが多く、コスモゼロの様にエンジンの過熱問題等が発生して開発陣の悩みの種になることが多い。
 そこで、エンジン本体の改良は最小限に止め、高機動ノズルの後側方に推力増加装置を追加装備して推力強化を図っている。

 この推力増加装置もまた、波動エンジンにも使われているタキオン粒子制御技術を応用することで実用化されたものであるが、実はこの装置にも原型が存在する。
 ガミラス戦役末期の冥王星沖海戦の流れ弾による被弾で火星に墜落した、所謂「サーシャ・シップ」である。
 この船が極めて高速(代償として小型・非武装だが)であることは、当時の地球防衛軍第一艦隊や火星で待機していた回収要員の観測で確認されており、「スターシャ・メッセージ」により波動エンジンが実用化された後も、貴重な技術サンプルになり得ると考えられていた。
 回収要員は「スターシャ・メッセージ」の回収と同時に地球に帰還してしまい、戦況の悪化から調査要員も送れなかったため、「サーシャ・シップ」は調査も行われないまま放置されていたが、第二次タイタン急行時に急遽派遣された調査隊が残骸の回収に成功した(当時、ガミラスが「サーシャ・シップ」に全く手を出していなかったことは大きな謎だったが、後にガミラス側が微妙な外交関係にあるイスカンダルの感情を悪化させないために意図的に放置したことが判明している)。
 「サーシャ・シップ」の調査・研究は比較的原形を留めていたエンジン部が優先して行われ、イスカンダルから送られてきた波動エンジンの設計図にはなかった推力増加装置に注目が集まった(エンジン本体は「スターシャ・メッセージ」の設計図のものと規模以外は大きく変わらなかった)が、その後物資や電力の不足が深刻化したため、「サーシャ・シップ」の調査・研究は一時中断されていた。
 戦後に再開された推力増加装置の調査・研究はその他の部門の技術革新も手伝って急速に進み、構造や作動原理の解明はおろか、ガミラスの技術や地球独自の技術との融合によって、装置の大幅な小型化にも成功したのである。

 推力増強装置の仕組みは以下の様なものである。
 エンジンノズル後側方に取り付けられた推力増加装置は、ノズル直後にタキオン粒子制御フィールドを形成する。
 制御フィールドは反射衛星砲をヒントに波動エンジンや波動砲の技術を応用して開発された「波動防壁」を応用したもので、波動防壁の様に波動エネルギーを制御することは不可能だが、高エネルギー化したタキオン粒子を制御するフィールドを任意の空間に発生させることが可能である。
 この装置により形成されるフィールドは、機体後方に向かって絞り込まれた円錐状(先端部が完全に絞り込まれていないので、フィールドの側面形は台形に見える)になっている。
 つまり、エンジンノズルから噴出するタキオン粒子の流れを再度絞り込むことで、あたかも水撒きホースの先端を絞って水の勢いを増す様に大きな推力を得ているのである。
 更に推力増強装置内側両面に設置された再点火装置によって、熱量不足でイオン化しないままエンジンノズルから噴出したタキオン粒子の再イオン化が可能になっており、推力増強装置との併用によってより推力を上げる工夫が成されている。
 また、この推力増加装置はフィールドを上下方向に偏向させることも可能で、これによって高機動ノズルの機能をある程度補完させている。

 推力増加装置の装備により完成した「FRE-115A『惑星三型三号』」は地上試験と空中実験(実験機には余剰となっていたコスモファルコンの改修機が用いられた)により推力の大幅な向上が確認されたものの、その代償として排熱も大きくなる事も確認された。
 しかし、後述する強制冷却装置が同時に実用化されたこともあって、エンジンの過熱事故がほとんど発生しないという極めて満足度の高いものとなっている(尤も、この装置の作動にはかなりの電力を必要とするため、ジェネレーター出力の大きい新型機でなければ装備できず、またその特性から中型機以上に装備される大型エンジンでは重量に見合った推力が得られないという欠点も有しており、戦闘機用の小型エンジンにしか採用されていない)。

 搭載エンジンが決定すると、開発陣は本格的に機体の設計を開始している。

 全体のシルエットは、長い機首と水平尾翼のない平たい胴体にデルタ型の主翼を組み合わせるという、それまでに開発された地球製宇宙航空機と同様のものに決定されたが、機体構造は先に開発されたコスモゼロを参考にして斬新な構造を導入、更に新素材を採用することで、やや量産性に難がある(とはいってもコスモゼロより遙かに良好)ものの、軽量化と強度の確保の両方を実現した。

 主翼はガル翼とダブルデルタ翼を組み合わせたかなり大型のものが採用されている。
 地球製宇宙戦闘機の多くに共通する特徴として、他の星系国家が配備している宇宙戦闘機と比較して、かなり大型の主翼を装備していることが挙げられるが、その理由として、地球のエンジン技術者がエンジンの冷却技術にあまり自信を持っていなかったため、宇宙航空機にやや過剰なほどの放熱板を装備させる傾向があったためとされる。
 そのため、前々から放熱板として大型の主翼が設けられる傾向があったのだが、戦闘機の場合、主翼はハードポイントの取り付け場所としても使われるため、充分な面積の放熱部を主翼に設けることが出来ないことが多かった。

 試製一式もその例に漏れず、主翼に充分な面積の放熱部を設けることができなかった。
 コスモファルコンやコスモゼロでは垂直尾翼にも大面積の放熱部を設けることでこの問題を解決しているが、このため垂直尾翼が大型化してしまい、機体の全高を大きくしている。
 この方法は機体スペースを有効に使うには良い方法なのだが、格納庫がシリンダー式である場合、艦載機の全高を抑えた方が限られた格納甲板容積を有効に使えることがヤマトの運用実績から判明しており、少しでも全高を低くしようという努力が行われている。

 そこで、垂直尾翼の面積を大気圏内飛行に必要最小限な大きさまで縮小、さらに機体上面に比較的大型の垂直尾翼を2枚、下面にもやや小型の垂直尾翼を2枚設け、また垂直尾翼の形状を前後に長くすることで垂直尾翼の高さを最小限とし、全高をコスモファルコンの半分程度にまで抑えることに成功したのである。
 勿論、これほど垂直尾翼が小さくては、放熱板として利用することはできない。

 そこで、不足する冷却能力を補うために主翼付け根付近に強制冷却装置を装備している(この部分に用いられている特殊素材は通常半透明であるが、光の当たり具合や放熱温度によって色が変わって見えるという特性を持っている)。
 この強制冷却装置は非常に有効だったが、被弾等によって機能停止に陥った場合、直ちにスロットルをアイドリングまで戻さなければ、エンジンがオーバーヒートしてしまう危険性が高くなっているが、コスモファルコンやコスモゼロも主翼や垂直尾翼の放熱部を破壊されれば同じ状態に陥ることから、開発陣はこれを大きな問題とは考えず、放熱部が小さくなれば冷却関係装置に被弾する可能性が低くなり、むしろ被害極限の面から見れば有利であると考えたようである。
 コスモファルコン、コスモタイガーに続き、大気圏内でのエンジン冷却に空気も利用することになったが、技術革新により冷却装置の性能が大幅に向上したことから、冷却用空気取入口は胴体後部の上面垂直尾翼の間にやや小型のものを装備するだけで充分な冷却性能を得ている。

 地球防衛軍には大気圏内専用の航空機も配備されているが、数的には余り多くなく、空間航空機の大気圏内運用が日常的に行われている。
 これは、宇宙用と大気圏内用の専用機をそれぞれ配備する余裕が地球防衛軍になく、高価な空間航空機に汎用性を持たせて柔軟な運用を可能にすることで、大気圏内用専用機の配備によるコスト増を最小限に留める方針を持っていたためである。
 そのため、この機体にも主翼に大気圏内飛行用の動翼部が、またコクピット後方にはエアブレーキが装備されている。
 これらの装備は機内スペース等の制限もあって大気圏内専用機の装備ほど本格的なものではないが、宇宙空間飛行用として機体各所に設けられている高機動スラスターを併用することで、大気圏内でも専用機と互角以上の運動性能を発揮することが出来た。

 主翼翼端には総合通信アンテナが装備されている。
 右が発信用、左が受信用で、通信と同時に母艦や基地とのデータリンクやアクティブサイレントモード時の敵性レーダー波の受信と相殺波の発信にも使用される。

 主兵装である30oパルスレーザー機銃は、コスモファルコンとは異なり機首左右側面に装備されている。
 機首に装備されたのは、主翼付け根には強制冷却装置を搭載したためでもあるが、機首に集中装備することでパルスレーザー砲の命中率の向上を狙ったのと、後述する重力レンズ発生装置を有効に活用するためでもあった。

 因みにこの機体に装備されたパルスレーザー機銃は、ブラックタイガーやコスモファルコンに搭載された九九式一号一型よりやや大型である代わりに、37o級の陽電子機関砲に匹敵する威力を持つ「一式二型30o固定パルスレーザー機銃」であり、搭載数もコスモファルコンの4倍になる8門に強化されている。
 なお、この機銃にはレーザーの出力を調整することができるモード変更機能が追加されており、最低出力だとほとんど貫通力が無く射程がやや短くなるものの弾道特性は変化しないことから、主として実機を用いた空戦演習に多用されている。

 コスモゼロを参考に機首側面にも高機動スラスターが装備された他、機首には「FD-3型レーダー」を搭載、更に機首下部にコスモゼロと同様のL型指向性レーダーアンテナが装備されている。
 しかし、FD-3レーダーのアンテナはやや強引に小型化したため、機構的な無理がかかりがちで、また細めの機首に8門ものパルスレーザー機銃と高機動スラスターを詰め込んだため、レーダー本体を搭載する容積が制限されたこともあって、当初は不具合が続出している。
 最終的に、最大探知距離などを当初の予定から削減し、各部にかかる負荷を軽減することで一定の信頼性を確保することに成功したが、用兵側からはレーダー性能が不足であると指摘されることになる。

 仮称一式の機首はレーダー、パルスレーザー機銃及び高出力スラスターで埋め尽くされてしまい、着陸脚を装備するスペースが無くなったため、機首下部にバルジが設けられ、そこに着陸脚が設けられている。
 この着陸脚にはコスモファルコンやコスモゼロと同様、電磁制動装置が取り付けられている。
 電磁制動装置はヤマトに初めて装備されたもので、着陸脚の車輪内と母艦の甲板の両者に内蔵された装置同士を電磁的に引き合わせることで、着艦してくる艦載機を急制動させる装置である。
 因みに着陸脚の車輪に内蔵されているのは電磁波発生器だけで、装置本体は胴体中央部に搭載されている。
 なお、この装置は発艦時に艦載機加速用リニアカタパルトの代わりとして使用することも可能で、ヤマトのみならず地球防衛軍の各航空母艦にも標準装備されている。

 構造や素材の刷新により着陸脚が当初より小型・軽量に仕上がったことで、機首下部バルジの先端部に幾らかの余剰スペースが出来たため、そこに重力レンズ形成装置が装備されている。
 これはコスモゼロに初めて装備された装置で、機首前方に重力レンズを発生させ、通常機首正面に集弾するパルスレーザー機銃の弾道を任意の方向にねじ曲げるものである。
 重力レンズ形成装置は、当初敵艦や地上に対する機銃掃射を有効に行う事を目的に開発・採用された装置だが、後に格闘戦時にこの装置を使用すると射撃チャンスが増え、また命中率も高くなることが判明したことから、FCS連動機能追加、稼働時間延長、スイッチ操作の簡易化といった改良が施され、地球防衛軍戦闘機隊にとって無くてはならない装備になっている。

 副兵装として、新規に開発された一式12.7o電磁投射機銃が主翼に5挺ずつ装備されている。
 搭載スペースや重量軽減の問題もあるとはいえ、コスモファルコンやコスモゼロでは標準的な武装だった大口径陽電子機関砲の搭載を見送ったほど強力な威力を持つパルスレーザー機銃を多数搭載する以上、無駄の様に思えるこの兵装が装備されたのには、仮称一式の機体外板に施されたレーザー反射加工が深く関係している。
 このレーザー反射加工はミラーコーティングの一種で、カタログスペック上、空戦時における平均的な射撃距離であれば、パルスレーザー機銃の射弾を8割以上の確率で反射し、被害を軽減できるとされていた。
 航空本部はこの反射加工が開発されるとすぐに制式装備として採用したが、その一方で「自分達が開発できた以上、他の星系国家でも同様なものを開発・配備しているのではないか?」という疑心暗鬼に取り憑かれ(これにはデスラー砲との遭遇も影響している)、そのような事態が起こった時の保険として、地上装甲車両や空間騎兵隊の支援火器として開発されていた一式12.7o電磁投射機銃が小改造の上で装備されている。

 実際のところ、航空本部が心配したような事態は発生していない。
 これは、カタログスペック通りの性能を発揮するには機体表面を鏡面のような状態に保たなくてはならず、また入射角が小さいと効果が大きいのだが、入射角が大きいと効果が薄くなるいうレーザー反射加工の特性、更に新型の30oパルスレーザー機銃がそんな加工を問題にしないほど高い貫通力を持つことから、レーザー反射加工の有効性が薄いためである。
 しかし、最低出力に絞ったパルスレーザーは充分反射できるため、実機を用いた空戦訓練には非常に有用であり、この加工による重量増加はないことと、全くの無防御より防御装備は僅かでも有った方が生残率を上げられることから、現在でもこの加工は施されている。
 また一式12.7o電磁投射機銃は威力の面で30oパルスレーザー機銃に大きく劣り、しかも重力レンズ発生装置の有効範囲外の主翼に装備された関係で、弾道誘導できないこともあり、実戦部隊での使用頻度は極めて低いものだった。
 尤もレーザー反射加工を採用した事による最大の弊害は、少しでも機体を軽量化するために機体の防御はこのレーザー反射加工のみとし、それまでは標準装備されていた耐レーザー装甲や自動消火装置を廃止してしまったことで、後に航空隊は防御装備を欠如させてしまった代償をその血で購うことになる。

 仮称一式は機体寸度がコスモファルコンより一回りほど大型でしかないにも関わらず、出力向上と引き替えに燃費が悪化したエンジンを装備し、容積と重量の嵩む新型機器を多数搭載したため、機内スペースが不足し、要求された航続距離を達成するのに必要な燃料タンクを機内に設けることは出来なかったため、増槽もしくは一式高機動ポットの装備が必須となっている。
 このため、胴体直下の大型増槽専用ハードポイント1基に加えて、主翼下と主翼付け根にそれぞれ2基ずつ計4基のミサイル/高機動ポット兼用のハードポイントが設けられていたが、目標とする航続距離を達成するには、大型増槽または高機動ポットを最低でも3つ装備する必要があり、実質的な搭載兵器量は低下している。

 更に悪いことに、新たに開発された対艦ミサイルの試作弾を試射してみたところ、射程と貫通力が不足しており、このミサイルで命中弾を得るためには、危険なほどの近接戦闘を行わざるを得ず、しかも、たとえ多数の命中弾を得ることができても、戦艦は勿論、空母や巡洋艦ですら撃沈はほぼ不可能であり、現実的には駆逐艦や補給艦を撃沈するのがやっと、ということが判明している。
 様々な改良が行われたが、結局機載可能なサイズでこれ以上高性能なミサイルを開発出来なかったため、航空本部は妥協の結果、これを「一式一号空対艦誘導弾」として採用している。
 難航した一式一号空対艦誘導弾とは対照的に対地ミサイルの開発は順調に進んでいる。
 対地ミサイルは対艦ミサイルほどの威力は必要なく、むしろ必要とされるのは数量であることから、一式一号空対艦誘導弾より小型かつ軽量という方針の下に開発された「一式二号空対地誘導弾」が制式採用されている。
 この対地ミサイルは主翼下に計6発搭載することが可能である。

 搭載するエンジンの開発が比較的順調であったことと、開発陣が苦心惨憺して努力したこともあり、開発開始から比較的短期間で試作一号機が完成、直ちに試験飛行に供されている。
 試験飛行開始直後から、この試作機はコスモファルコンとは比較にならない運動性能と長大な航続距離を発揮し、威力不足ではあるがかなりの重量のある対艦ミサイル2発を装備しても、運動性能と航続距離はそれほど低下しないことが確認されている。
 これは要求性能をほぼ満たすものであったが、対艦攻撃力が不足していることに航空本部は少々不満であった。
 しかし、主力機材であるコスモファルコンの戦力低下が限界に達している以上、新型機の配備は急務であり、また派生型の攻撃機の開発が進められていることもあって、航空本部はこの試作機に幾らか改良を施した機体を「一式一一型空間艦上戦闘機『コスモタイガーU』」として制式採用している。

 地球防衛軍に新たなる守護天使が降臨した瞬間であった。


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