第二章 三座型・雷撃機型


一式一一型三座空間艦上戦闘機 "三座型"



 地球防衛軍航空隊の新鋭機、コスモタイガーUの運動性能や航続力は非凡なものであり、艦上戦闘機として傑出した性能を有していたが、対艦攻撃能力が欠けている点は否めなかった。
 そのため、対艦攻撃力の高い機体を欲していた航空本部は様々な対策を模索していたが、先述した理由から地球防衛軍航空隊には、最も単純で確実な対策である攻撃機の新規開発を行う余裕はなかった。
 そこで、一一型の開発が半ばまで進み、対艦攻撃力の不足が決定的になった時点で、航空本部はある提案を出した。
 それは次善の策として既存の機体をベースにして攻撃機を開発するというものであり、当然のことながらベース機の最有力候補として挙げられていたのは、開発中ながら機体やエンジンの性能に余裕のある一一型で、空戦性能を多少犠牲する代わりに対艦攻撃能力を付与すれば、比較的容易に専用攻撃機を開発できると考えたのである。

 この提案は直ぐに採用され、一一型との共通部分を可能な限り減らさず、対艦攻撃能力を付与しつつ空戦性能も可能な限り維持するというコンセプトのもとに、戦闘攻撃機型コスモタイガーUというべき「三座型」の試作が開始された。
 「三座型」というネーミングとは裏腹に、実は当初この機体は複座機として開発されている。
 パイロット養成の面から考えれば、複座の練習機型の必要性は極めて高く、どのみち開発しなければならない。
 ならば練習機型と攻撃機型の2機種を可能な限り共通部分を多くして設計すれば、迅速に実用化でき、更に生産効率を上昇させることで調達価格を抑える効果も期待できると考えられたのである。

 このため、まず先行して開発されていた単座型の一一型に、後席と操縦装置を追加した複座型が試作されている。
 後席を追加した分の重量の増加や機体スペースの減少を相殺するため、機首のパルスレーザー機銃と主翼の12.7o電磁投射機銃がそれぞれ2門/挺ずつ削減され、装備数はそれぞれ6門と8挺に減少している。
 火器の削減には調達価格を幾らかでも下げる効果が期待されていたが、2割以上減少したとは言え、練習機としては破格といえる大火力を有している。
 これには、練習機としては異常に高性能な複座型を多数保有しておき、有事の際にはこれを予備機として運用しようという航空本部の思惑が働いていたようである。

 ベースとなる機体の完成度が高かったこともあって複座型の開発は順調に進み、完成後直ちに「一式一一型空間練習戦闘機」として採用されている。
 この複座型は実戦機型と比較すると生産期数が少ない上に、識別点が少ないこともあって単座型と混同されやすく、「一式一一型空間練習用戦闘機」という制式名称も一般にはほとんど知られていない。
 しかし、単座型の一一型より火力と運動性能がやや劣る他は、コスモタイガーUの優れた飛行特性をほぼそのまま受け継いでおり、部隊配備後の評判も良好だった。

 次にこの複座型をベースにして、本命である戦闘攻撃機型が開発されている。
 探知距離や探査範囲を拡大するため、機首下部のL型指向性アンテナが形状を変更した上で2基に増設されているのが外見上の大きな変化である。
 勿論レーダー本体も改良を施した「FD-4型」に変更されており、戦闘攻撃機型では必要性の薄い後席の操縦系統を省略する代わりにレーダー管制装置が装備されている。
 L型指向性アンテナの増設はコスモファルコンと同様、指向性アンテナが発する指向性電波の共振現象を利用して探知距離の挺進を図ったものだが、装備位置が近すぎたため、当初は電波が共振せずに逆に干渉しあって電波障害を起こすことが多かったが、これは間もなく解決され、レーダー操作員がいることもあって探知距離や探査範囲が拡大しただけでなく、精密探知も可能になっている。

 探知能力の向上によって格段に増大した情報量に対して、当初搭載していた単座型と同じコンピューターの処理能力では不足していたため、より処理能力の高いコンピューターに変更する必要があったが、必要な性能を持ったコンピューターは遙かに重く、嵩張るものしかなかった。
 当然、従来の搭載スペースには入りきらないため、胴体燃料タンクを削減して確保したスペースに搭載している。
 これにより減ってしまった胴体燃料タンクの容量分は、12.7o電磁投射機銃を削減して空いていたスペースに翼内タンクを新設することで補われている。

 これらの改修は比較的順調に進んだが、それと共に大きな問題が発生している。
 レーダーやコンピューターの換装によって機体重量が大幅に増大してしまい、複座型より運動性能や加速性能が低下することが確実になったのである。
 慌てて高機動スラスターの増設や出力強化が検討されたが、重量が増加する割にはさほどの効果が得られないと推算されたため、ならばいっそのことと機体背面後部に中・大型機用として開発されていた「一式二号20o連装パルスレーザー旋回銃座」を搭載することで、後方から襲撃してくる敵機に対してある程度対抗出来るようになっている。
 これによって幾らか運動性能の低下を補なうことが出来たが、銃座を設けるために胴体背面部の高機動スラスター並びにエアブレーキが撤去されてしまい、また機体重量も増加したため、更に運動性能が低下するという悪循環に陥っている。

 三座型のエンジンは単座型と同じFRE-115Aだが、機体重量はこちらの方が重く、それでいて燃料タンクの容量は単座型よりやや多いという程度であるため、航続距離を確保するためには、単座型と同様に増槽を多数装備する必要があったため、現実的には対艦ミサイルを装備できるハードポイントが単座型と同じ2基しか取れないのである。
 これでは単座型に対する優位点が無いに等しく、運動性能が高い分だけ単座型の方が有利であるとさえ言える。
 三座型の開発は行き詰まってしまった。

 しかし、航空本部は諦めなかった。
 三座型を原型にして、空戦性能を全く考慮しない純然たる攻撃機の開発を始めたのである。

 まず、この機体では空戦を行わないことが前提とされたため、機首の30oパルスレーザー機銃と主翼の12.7o電磁投射機銃は全て撤去され、レーダーとFCSも空戦に必要な部分を省略して対艦攻撃用に特化した「AD-1型」に換装、コスモタイガーUの特徴である機首下部のL型アンテナも廃止されて、アンテナは機首内蔵型にされている。
 これにより機首のスペースに余裕が出来たため、その分機首を切りつめて小型化と軽量化を図っている。

 任務上、雷撃機型はハードポイントには対艦ミサイルを搭載しなければならないため、増槽を搭載することが困難である。
 そこで、機体燃料タンクだけで必要とされる航続距離を確保するために、搭載エンジンをFRE-115Aから最大推力では劣るものの巡航推力が大きく燃焼効率のよい「ARE-102B」に換装され、また機首の30oパルスレーザー機銃と主翼の12.7o電磁投射機銃を撤去することで空いたスペースには、燃料タンクが追加されている。

 これにより航続距離は確保されたが、エンジンの最大推力が低下している上に、重い対艦ミサイルを装備しなければならない以上、加速が鈍くなることは避けられなかった。
 雷撃機型は熾烈な対空砲火を衝いて敵艦隊に突撃しなければならないが、加速が鈍いということは対空砲火に曝される時間が長くなるということであり、これは攻撃前に撃墜される可能性が高くなってしまうというを意味している。

 そこで、少しでも加速力を向上させるため、機体構造を見直し、戦闘機としてならともかく攻撃機としては過剰な強度を持つ部分の強度を落としたり、構造そのものを簡略化するなど、可能な限りの軽量化が施されている。
 その他に、機首のパルスレーザー機銃が撤去されたことによって、本来必要がなくなったはずの機首の重力レンズ形成装置が残されていた。
 これは、自らの射線を調整する為のものではなく、敵艦隊への突入時に機首正面に重力レンズを形成し、機首正面から浴びせられる敵艦隊の対空砲火の射線をねじ曲げて、被弾率を少しでも減らすことを目的としたものである。
 このため、単座型や三座型に装備されているものとは異なり、FCSとの連動機能は省略されており、その代わりに装置の出力強化やレンズの有効範囲の拡大、稼働時間の延長といった改良が施されている。

 機体の開発が進められる一方、搭載するミサイルの開発も進められている。
 単座型用に開発されたミサイルの最大の問題は威力不足であった。
 この問題に対して、開発陣が出した解答は
 「ミサイルを機載可能なギリギリのサイズまで大型化して大威力化する」
という単純極まりないものであった。

 当初、雷撃機型にはミサイルを懸吊出来るハードポイントが4基装備されていた。
 しかし、単座型や三座型の開発における経験から、雷撃機型に4基搭載できるサイズのミサイルでは、威力や射程が不足することが予想されたため、雷撃機型では搭載ミサイル数を2発に減らす代わりに、大威力並びに長射程化が計られている。

 コスモタイガーUをベースに開発された雷撃機型に搭載可能なのは、寸度的に胴体下に懸吊する大型増槽が限界であるため、まず全長を大型増槽と同程度まで延長し、弾頭炸薬量を増やし射程を延ばした対艦ミサイルが試作されている。
 この試作型ミサイルが完成すると、早速実弾を用いた試射が行われているが、その結果、ギリギリまで大型化したミサイルでも航空本部が求める威力と射程に届かないことが判明している。
 ここで新型ミサイルの開発は行き詰まるかと思われた。
 しかし、開発陣は知恵を絞り、全長を延ばせるだけ延ばしたミサイルを、今度は直径をギリギリまで拡大して、威力と射程を向上させることが発案されたのである。

 早速このコンセプトに基づいて、新しい試作型ミサイルの開発が着手された。
 ミサイルの直径を原型よりなんと倍まで拡大(機載に支障のないギリギリの直径)することで、航空本部が要求する威力を持たせることが出来たが、射程については要求性能を大きく割ってしまった。
 しかし、当初航空本部が要求していた射程距離は現実離れした長距離で、その距離では目標まで誘導することが難しかったこともあって、これがあっさり「一式三号空対艦大型誘導弾」として採用されいる。
 全長、直径共にギリギリまで拡大されたこの対艦ミサイルは、その大威力と引き替えに重量が大幅に増えており、単座型や三座型と同じハードポイントでは懸吊することが出来なくなっている。
 そこで強度を上げる一方、懸吊方法も見直した専用ハードポイントが雷撃機型の胴体下に装備されている。
 また主翼下のハードポイント用に、一式二号空対地小型誘導弾をベースに開発された対対空砲用小型ミサイルの「一式四号空対艦小型誘導弾」が開発・採用されたものの、あまりにも射程が短く、また威力も極めて限定されたものであったため、実戦部隊での使用例は極めて少ない。

 制式採用に向けた最終的な試験として、雷撃機型の試作機を用いたミサイルの試射が行われている。
 そこで新たな問題が発生した。
 あまりにミサイルの重量が重いために、ミサイルを発射すると機体の重量バランスが崩れることが多く、離脱時に危険なばかりか、照準にも微妙に影響することが判明したのである。
 当時は知られていなかったことだが、搭載方法は異なるものの雷撃機型と同様大型の対艦ミサイルを搭載するガミラス帝国のDMT-97艦上雷撃機も開発時に同様の問題に悩まされていることから、この問題は同様のコンセプトで開発された攻撃機に多発するものと推定されている。
 ガミラスでは、絶妙に設計された機体自動安定装置を開発し、更に機体前後に搭載した2発の対艦ミサイルの発射タイミングを微妙にずらすことで、機体の重量バランスが崩れることを最小限にすることで、この問題を解決していた。
 しかし、当時の地球の技術力ではガミラスのような機体自動安定装置を開発できず、例え開発できても搭載位置の関係から発射タイミングをずらすことも出来なかった。
 そのため、発射時の機体安定を保つように訓練を徹底する他、対艦ミサイルの初速を低く、そしてその後の加速をやや鈍く設定し、発射後のミサイルの姿勢を崩れ難くするという解決法が選択されている。
 この処置によって命中率が改善された代わりに雷速が低下していまい、敵にミサイルを回避または阻止する余裕を与えるという欠点が生まれている。

 エンジンの最大推力が低下していることや、重量物である大型対艦ミサイルを2発搭載することから、ミサイル搭載時、雷撃機型の運動性能が大きく低下することは明らかであったため、多数の直援機を付けるか、敵戦闘機の妨害を受けない状態を作り出す必要があるという運用制限が付くものの、何とか実用可能な域まで完成度が高められた雷撃機型は、専用の対艦ミサイル共々制式採用され、「一式一一型空間艦上攻撃機」と名付けられているが、一般には開発時の通称である「雷撃機型」の方が通りが良かった。

 一方、雷撃機型のベースとなった三座型は戦闘機とも攻撃機とも言えない中途半端なものであったため、戦闘機隊と攻撃機隊の両方から見放されており、このまま不採用になると思われていたが、この三座型に目を付けた部隊があった。
 偵察機隊である。

 ガミラス戦役において偵察能力不足から何度も苦渋を飲まされ、偵察の成否が戦いの勝敗を左右することを熟知していた地球防衛軍は偵察能力の向上に熱心であったが、この頃の偵察機隊の主力機である百式探査艇はガミラス戦役においてすら性能不足であり、急速に技術革新が進んだガミラス戦役後の陳腐化は著しかった。
 このため、新型偵察機の配備が急務とされていたが、新規開発する余裕がないことに偵察機隊は深く悩んでいた。

 偵察機隊は次期主力戦闘機を多座型に改造した機体(三座型)が開発されたものの、性能が中途半端であったため、不採用になりかけているという情報を得たのはこの頃である。
 これに興味を持ち、独自に行った調査から三座型の性能を知った偵察機隊は驚喜した。
 戦闘機隊からみれば運動性能や火力が不足しており、攻撃機隊からみれば搭載力が不足している三座型だが、偵察機隊からみると、大航続力と多座機故の高い通信、電子戦および航法能力、追撃してくる敵機を振り切れる加速力、いざとなれば自衛のための空戦もなんとかこなせる運動性能と火力、そして単座型より強力なレーダーを有した極めて魅力的な機体だったのである。

 こうして、三座型が戦闘機隊と攻撃機隊の双方から見放されるのと相前後して、偵察機隊から三座型の配備を希望する強い働きかけがあり(偵察能力の低下を懸念していた参謀本部からの援護射撃もあった)、雷撃機型の採用とほぼ同時期に三座型も「一式一一型三座空間艦上戦闘機」として制式採用されている。
 三座型の制式名称には一応「戦闘機」とあるが、この機体が戦闘機隊で戦闘機として運用されることは無く、先述したように偵察機隊で戦闘偵察機として運用され、地球防衛軍の偵察能力は大幅に向上している。
 因みに三座型も雷撃機型同様、制式名称で呼ばれることはほとんど無く、開発時の通称である「三座型」と呼ばれることが多かった。

 なお、三座型の採用に際し、機首のパルスレーザー機銃と12.7o電磁投射機銃のエネルギー/弾薬の搭載量が減らされ、偵察機隊から要望があった通信機器が追加装備されている。
 追加されたのは大出力指向性通信機で、三座型から発信された通信波は、太陽系の惑星及び衛星に設置された防衛軍基地の通信中継局に送られ、そこから自動的に各部隊へ向けて大出力で転送されるようになっていた。
 試作型では、機首レーダーのL型アンテナを使用して通信波の指向性を高めるように工夫されており、通信波の指向性は非常に高くなったが、発信時においてレーダーの探知能力が低下することと、機首前方に向けてしか通信波を発信できないという欠点があったため、結局この方式は試作だけに終わり、量産型では主翼翼端の通信アンテナに小改造を加えたものが装備されている。
 因みにこの通信機は通信波に指向性を持たせず、全方向に向けて大出力の通信波を発信することも可能である。

 こうして、地球防衛軍航空隊に新たな戦・偵・攻三種の艦載機が揃い、部隊配備が始まっている。
 これらの部隊は当然母艦航空隊のはずだが、全ての部隊は例外なく太陽系の各基地に配備され、母艦航空隊といえども母艦に常時搭載されることはなかった。
 この空地分離は地球防衛軍航空隊では、母艦航空隊と基地航空隊を分離して運用することが出来ないために考えられた、いわば苦肉の策であり、運用開始当初はかなりの混乱が発生している。
 しかし、この部隊運用法の採用は、部隊の柔軟な運用を可能にするという意外な結果を生むことになった。

 偵察機隊に配備された三座型の評判は概ね良好なものであったが、すぐにレーダーの探知能力、特に探知範囲が狭いという不満が聞かれるようになった。
 しかし、機首レーダーの探知能力をこれ以上強化するのは困難であったため、これを補うレーダーポットが開発されている。
 比較的短期間で開発されたレーダーポットは高い探知能力を持つ他、限定的ながら通信傍受能力も持っており、このポットが配備されると探知範囲に関する不満はすぐに聞かれなくなった。
 因みにポットの外見は増槽と酷似しており、三座型だけでなく単座型にも装備可能なものである。

 一方、雷撃機型が部隊配備され、訓練を通じて機首に装備された防御用重力レンズ発生装置の有用性が確認されると、敵艦隊から打ち上げられる猛烈な対空砲火の中に突入しなければならない搭乗員達に大きな安心感を与えている。
 特に真正面から飛来するレーザーが最もよく見える位置にいる操縦員達の間では
 「重力レンズを展開していれば、正面からのレーザーはよほど運が悪くない限り当たらない」
とまで言われ、実際にはそこまでの効果はなかったにも関わらず、絶大な信頼感を得ていたという。

 こうして、三座型と雷撃機型は配備された後も様々な改良が施され、その完成度を高めていったのである。
 間もなく白色彗星帝国との熾烈な戦いが始まろうとしていた。


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