第三章 凱歌


白色彗星帝国戦役・前 −土星宙域海戦−


一式一一型空間艦上攻撃機 "雷撃機型"
第三艦隊所属機



フェーベ沖海戦


 ガミラス戦役終結より1年、平和と繁栄を貪る地球に遙か宇宙の彼方から巨大な白色彗星が接近しつつあった。
 当初、これは単なる天体ショーまたは大宇宙の神秘程度にしか捉えられていなかったが、事態は極短期間の内に悪化、白色彗星帝国の主力艦隊であるバルゼー艦隊が太陽系外縁に迫りつつあった。

 接近するバルゼー艦隊は太陽系外縁惑星に設けられていた早期警戒用の観測基地に探知され、直ちに地球防衛艦隊司令部に第一報が通報されている。
 第一報後も各観測基地は有りとあらゆる手段を用いて観測を続けて司令部に続報を打電、これらの情報からバルゼー艦隊の戦力をある程度把握した土方龍地球防衛艦隊司令は重大な判断を行った。
 彼は彼我の位置と戦力差から見て、太陽系外縁でバルゼー艦隊を迎撃するのは不可能と判断したのである。
 この頃の地球防衛艦隊は基本的に外惑星軌道での迎撃戦を想定して、主力艦隊である太陽系外周艦隊(第一〜七艦隊(第三艦隊欠))と予備部隊である太陽系内周艦隊(第八・九艦隊)及び各惑星の基地所属艦隊で構成されており、これらの戦力は各地に分散配備されていた(その他にパトロール艦隊及び護衛艦隊が存在するが、これらは艦隊決戦用の戦力ではない)。
 しかし、この配備状況のままで遙かに数で勝るバルゼー艦隊を迎撃した場合、各個撃破されてしまうのは火を見るより明らかであった。

 そこで土方龍地球防衛艦隊司令は、各太陽系外周艦隊並びに冥王星、海王星、天王星などに配備されていた外惑星防衛艦隊を土星まで後退させると同時に、太陽系内周艦隊並びに内惑星所属艦隊は土星に進出し、これに合流するよう命令を下したのである。
 決戦場に地の利がある土星宙域が選ばれたため、防衛艦隊司令部の置かれている第六番衛星タイタンが艦隊の集結地に指定され、ここに地球防衛艦隊主力のほぼ全力が集結することになったのである。
 当然空母部隊にも出撃命令が下されており、地球防衛艦隊の全空母部隊全四個航空戦隊もガニメデ、カリスト、エウロパ、イオ各基地に配備されていた航空隊をその格納庫に納めると木星宙域へ急行している。
 航空隊が母艦に収容されたことで空になったこれらの基地には、外惑星各基地から後退してきた航空隊と内惑星各基地から進出してきた航空隊が配備されている。

 予想されていたことではあったが、バルゼー艦隊の太陽系侵攻と共に太陽系外惑星の地球側各基地は熾烈な攻撃を受け、海王星通過後のバルゼー艦隊の進路は不明となっていた。
 しかし地球防衛艦隊司令部は、戦力に勝る敵艦隊は必ず正面から決戦を挑んでくると予測。
 この予測に基づき、前衛(第六艦隊)はヒペリオン、後衛はレア(第二艦隊)、ディオネ(第四艦隊)、予備(第五艦隊)は土星本星のカッシーニの隙間に展開、そして主力艦隊(第一艦隊)はタイタンで待機することになった。

 更に、単艦でのテレザート星調査より帰還したヤマトから極めて重要な情報がもたらされた。
 バルゼー艦隊の艦隊編成である。
 それによると、彼らの艦隊は前衛−戦艦部隊、後衛−空母部隊という大きな二群に分かれた編成を採っており、しかも両部隊が相互支援が即時に行えないほど大きく距離を取っている事が判明したのである。

 今となっては、バルゼー艦隊がなぜこのように各個撃破の隙を与えかねない(事実その通りになった)編成を採っていたのかを知る術はない。
 そのため、この点に関してはあくまで想像に頼るしかないのだが、彼らは自分達の艦隊編成の全てが地球側に知られるとは考えていなかったのではないだろうか。
 ヤマトにしてもこの情報は偶然得たもので、それ以外の地球防衛軍の部隊はあまりにも大規模な前衛の戦艦部隊に目を奪われて、艦隊編成に関する情報、特に後方に位置していた空母部隊についての情報をほとんど得ていない事から考えると、この推定にはかなりの説得力があるといえるだろう。

 この情報を得た地球防衛艦隊司令部は、バルゼー艦隊の艦隊編成を逆手にとって敵艦隊を各個撃破することを企図した。
 敵機動部隊を撃滅して制空権を奪取すれば、味方主力艦を敵艦載機から守るだけでなく敵主力艦を自軍の艦載機で自由に叩くことが可能になり、主力艦の数的劣勢を補い、艦隊決戦を有利に運ぶことが出来ると考えられたためである。
 しかし、多くの部隊は既に作戦予定宙域に展開を始めており、この作戦に投入出来る部隊は限られていた。
 そこで、主力艦隊の各戦隊に分散配備されていた空母戦隊を引き抜き、これに従来型波動砲装備艦であるため、より長射程の拡散波動砲を装備するアンドロメダとA型主力戦艦で統一されていた主力艦隊戦艦部隊との共同運用に難点がある(巡航速度や加速能力、運動性能もかなり異なる)ものの、比較的高い航空機運用能力と指揮通信機能を有するヤマトを加えて機動部隊を臨時編成し、これに旗艦であるヤマトの不在により解体、欠番となっていた「第三艦隊」の名称を与え、敵機動部隊の殲滅を命じたのである(空母護衛用の巡洋艦と駆逐艦も、苦しい台所事情の中から可能な限り準備されている)。

 当初、艦隊各方面のみならず艦隊司令部内からも戦力に劣るのであれば空母を主力艦隊に張り付かせ、艦隊決戦時に防空戦闘に専念させるべきではないかという意見も寄せられているが、それに対し土方司令は以下のように述べている。
 「母艦戦力に絶望的な格差がある以上、例え艦隊決戦時の防空戦闘に徹しても敵艦載機に味方空母が殲滅されるのは時間の問題である。つまり味方空母がいてもいなくても我が艦隊が不利である状況は変わらない。であるなら、可能性は僅かであっても積極的攻勢を採って敵戦力の殲滅を図るべきである」
 臨時とはいえ、地球防衛軍史上初めて編成された空母を集中配備した本格的空母機動部隊である「新生」第三艦隊の編成は以下のようなものとされている。

第三艦隊
 第一空母戦隊
   A1型航空母艦(改) 天城 赤城 (各母艦の搭載定数:fc×24 fo×42 fr×3)
 第二空母戦隊
   改A1型航空母艦 カレイジャス グロリアス (各母艦の搭載定数:fc×21 fo×36 fr×3)
 第三空母戦隊
   A2型航空母艦 レキシントン サラトガ (各母艦の搭載定数:fc×27 fo×42 fr×3)
 内惑星空母戦隊
   A1型航空母艦 ベアルン グラーフ・ツェッペリン (各母艦の搭載定数:fc×18 fo×32 fr×3)
 第七水雷戦隊(第三五、三六駆逐隊欠)
  第二〇巡洋艦戦隊
   A2型巡洋艦  ジュノー ヘレナ デイトン
  第三三駆逐隊
   A型駆逐艦   スチュアート クレイブン サンプソン ワーデン
  第三四駆逐隊
   A型駆逐艦   カッシング タッカー ラッセル ベンハム
 第一独立遊撃部隊
   戦艦 ヤマト (搭載定数:fc×38 fr×4)

  注:この他にガニメデ、カリスト、エウロパ、イオの各基地に展開していた四個飛行戦隊(各隊の定数 fc×72 fo×96 fr×12)も第三艦隊の指揮下にあった。

 空母の数に比して護衛艦が少ないのは、奇襲を成功させるため艦隊の規模をなるべく小さくしたこと、これ以上護衛用艦艇を割く余裕が主力艦隊になかったこと、空母自体の火力・防御力が比較的高いことなどが影響したためである。
 またヤマトが単艦で独立部隊を編制しているのは、前述したように他の空母や巡洋艦、駆逐艦とまともに艦隊運動の訓練を行ったことがないことが問題視される一方、当艦が第三艦隊の中で最大の火力と装甲を持つ艦であることが考慮された結果、自らの艦載機によって索敵と制空を行うことを主目的に単艦で機動部隊本隊前面に配置されている。
 ただし戦況が許せば突出して敵機動部隊を急襲すること、そして本作戦は奇襲が大前提ではあるものの、これに失敗した場合、敵艦載機の攻撃を吸収する被害担当艦としての役割も期待されていた。

 空母機動部隊に変貌した第三艦隊はタイタンから出撃すると、小ワープを行ってヤペトウスを大きく迂回、敵艦隊の予想進路側方に位置するフェーベ宙域に接近すると直ちに索敵を開始している。
 各母艦から索敵機(fr×12ずつの二波)が放たれる一方、前衛のヤマトからは索敵機(fr×4)の発艦後、索敵と制空を兼ねた第一次攻撃隊(fc×24。12機ずつの二隊に分かれて別方位に進撃)が発艦したが、これらは艦隊の位置を秘匿するため、無線やレーダーは厳重に封止していた。
 予想進路とはいっても「敵艦隊が正面から決戦を挑んでくる」という予測に、失探前の航路から推定される予測航路を重ねたものであったため信頼性に乏しく、第三艦隊がいかに多数の艦載機を保有していたとはいえ、この時点で多数の索敵機と索敵攻撃隊を発艦させたのは大きな賭であった。
 勿論、索敵機と索敵攻撃隊の発艦後、各空母の格納甲板では第二次攻撃隊の発艦準備が行われており、出撃準備の終えた機体が次々と飛行甲板に並べられていた。

 奇襲の恐怖に脅えながら、焦燥の時を過ごしていた第三艦隊に朗報がもたらされたのは、それから3時間ほど後のことである。
 フェーベ近郊に向かったレーダーポット装備のヤマト四号機が敵の交信らしきものを傍受、それを頼りに敵機動部隊の発見に成功したのである。
 敵艦隊発見の方は直ちに全地球艦隊に通報され、進撃中の第一次攻撃隊は針路を変更して敵機動部隊に向かい、作戦の成功を確信した第三艦隊司令部は直ちに各母艦に第二次攻撃隊(第三艦隊本隊よりfc×76 fo×168、ヤマトよりfc×9)の発艦と第三次攻撃隊(fc×66 fo×132)の発艦準備、そして各衛星基地で待機していた航空隊に全力出撃を命令している。
 基地からの攻撃隊は経済巡航ではなく戦闘巡航を超える速度で戦場に最も近い第三艦隊本隊まで飛行し、直掩機・故障機を除く全ての艦載機を発艦させて空になっている空母に着艦、そこで燃料補給を受けると直ちに敵艦隊に向けて飛び立っている。
 こうして第三艦隊が放った攻撃隊は最終的に計七次にも及んでいる(全ての攻撃隊は戦闘巡航以上の速度で向かうことになっており、航続距離の関係上艦隊への帰還が不可能になる雷撃機型各機は近傍の各衛星基地に不時着するように指示されている)。
 なおこの時、空母天城にて航空戦全体の指揮を執っていた第一空母戦隊司令山田忠治准将は、出撃する第二次攻撃隊の搭乗員に以下のように訓辞して檄を飛ばしたと言われている。
 「第一目標空母、第二目標空母、第三目標も空母だ!戦艦、巡洋艦に目を奪われるな。こんなものは雑魚だ。忘れるな、攻撃目標は空母だぞ!」

 第一次攻撃隊第一波が戦場に到着したのは、敵機動部隊から地球防衛艦隊主力部隊への攻撃隊が発艦する直前(これより前に地球防衛艦隊主力は敵索敵機によって発見されていた)だったとされる。
 ヤマトから放たれたこの攻撃隊は対艦攻撃力の低い単座型のみで構成されており、敵空母を撃沈破することは不可能だった。
 そのことをよく知る第一次攻撃隊指揮官(第六四飛行隊飛行隊長 加藤三郎三佐)は敵空母の飛行甲板の状況と直掩機が皆無であることを確認した後、各機に対して敵空母の飛行甲板の掃射を命じ、自らも僚機を率いて突撃している。
 この時、敵空母の飛行甲板は発艦直前の攻撃隊で埋め尽くされているため、迎撃機の急速発艦が不可能、しかも上空には直衛戦闘機もおらず、攻撃隊を阻むものは対空砲火以外存在してなかった。
 甲板に並んだ攻撃機に火を付けるだけであれば対艦ミサイルなど必要なく、パルスレーザー機銃による掃射で充分敵空母を発艦不能に陥れることが出来ると判断したのである。
 こうして、間もなく到着した第一次攻撃隊第二波(指揮官 第六四飛行隊副長 篠原弘樹一尉)と共に、飛行甲板への掃射が執拗なまでに行われることになった。

 大兵力を擁する敵機動艦隊から見れば第一次攻撃隊の戦力は僅かなものであり、回避運動と対空砲火のみでこの危機を回避できると読んだのか、彼らは防空戦闘を行うだけで積極的に攻撃も待避も行わず、前衛の主力部隊から救援部隊が向かって来ることもなかった。
 しかし、直衛戦闘機が存在しないこともあって、第一次攻撃隊は易々と敵機動艦隊の内懐に飛び込むことに成功、味方撃ちを恐れて思うように弾幕を張ることが出来ない対空砲火の隙を突き、次々と敵空母飛行甲板の掃射に成功している。
 第一次攻撃隊指揮官が狙った通り、小隊単位による重力レンズを効かせたパルスレーザー機銃の掃射を2〜3度受けると敵空母の飛行甲板に並んでいた攻撃機は次々と爆発、そして爆発が爆発を喚び、瞬く間に敵空母の飛行甲板上は紅蓮の炎に包まれていく。
 火災により落後する空母を見て恐慌に駆られたのか、敵空母の何隻かは味方艦に当たるのも構わず激しい対空砲火を撃ち上げるだけでなく、更に好き勝手に回避運動まで始める艦が出た(この時点で落後を始めた空母もいた)ため艦隊の陣形は大きく乱れてしまい、第一次攻撃隊はそこにつけ込んで更に戦果を拡大している。
 こうして、僅かの間に半数以上の空母から発着艦能力が失われてしまった敵機動部隊は大混乱に陥っていた。

 この頃になって木星方面から敵戦闘機隊(約100機)が来襲してきたため、第一次攻撃隊の各機は空母掃射を切り上げて編隊を組み直すと、これに立ち向かっている。
 実はこの戦闘機隊は第三艦隊が敵機動艦隊を発見した頃、上空直衛のために機動艦隊から発艦して主力艦隊に向かっていたものである(ヤマト四号機が傍受した通信は、この戦闘機隊と母艦の間で交わされたものと推定されている)。
 事態に気づいて慌てて引き返して来た頃には大半の空母から発艦能力が失われており、復讐の念に駆られたであろう彼らは既に空母掃射を終えて編隊を整えつつあった第一次攻撃隊と激しい空戦を開始した。

 第一次攻撃隊と敵直衛機との空戦が開始されて間もなく、戦爆連合253機からなる第二次攻撃隊が到着した。
 ヤマト隊の9機と第一〜三空母戦隊の戦闘機隊64機は雷撃機隊の安全を確保するため、第一次攻撃隊と空戦を繰り広げている敵直衛機の排除に向かい、雷撃機隊は内惑星空母戦隊の戦闘機隊12機の援護を受けつつ、敵艦隊へと突入している。
 山田少将の訓辞通り空母を集中的に狙うために、炎上している敵空母に編隊を向けようと列機に命令を下そうとした雷撃機隊指揮官機の通信機スピーカーに銅鑼声が響いた。
 「待て、そいつらは囮だ!輪形陣中央にまだ無傷の空母がいる。そっちを狙えっ!」
 それは燃料不足のため帰投したヤマト四号機と交代して、味方機の誘導を行いつつ敵艦隊の動向を観察していたレキシントン三号機からの通信だった。

 敵機動艦隊は無傷の空母を輪形陣の中央に集め、そのすぐ外側に掃射を受けて炎上している空母を配置、空母から上がる火炎に攻撃隊の目を引きつけ、その間に無事な空母から艦載機を発艦させようとしていたのである。
 これに気づいたのはやや離れた空域から戦場を観察していたレキシントン三号機だけで、味方の雷撃機隊が敵の思惑通りに被弾した空母に誘引されつつあるのに気付くと、攻撃隊を誘導するために全速で追い掛けてきたのである。
 「我誘導ス」の信号を灯すレキシントン三号機に従って炎上する空母群を飛び越え、無傷の空母を捉えた雷撃機隊は猛烈な対空砲火に怯むことなく突撃、雷撃位置に辿り着いた各機は次々と対艦ミサイルを発射した。
 こうして第二次攻撃隊の集中攻撃を受けた敵空母の多くは多数の命中を受け、飛行甲板のみならず格納庫内で発艦準備中の艦載機も引火・爆発が発生、更に燃料庫、弾薬庫でも誘爆を引き起こして更なる大火災となり、無傷だった敵空母の半数以上が爆沈、残りも大きく損傷していた。

 第二次攻撃隊が引き揚げにかかる頃、今度は第三次攻撃隊が到着した。
 敵機動艦隊の上空には第一・二次攻撃隊に散々叩かれて残り少なくなった直衛機と、母艦の被弾前に何とか発艦した機が僅かに滞空していたが、これらは護衛戦闘機隊によって瞬く間に撃墜破されている。
 こうして敵空母は発艦能力と戦闘機の傘を完全に失い、以後フェーベ沖は雷撃機隊の草刈り場と化した。
 第三艦隊からの攻撃隊は第三次攻撃隊の後も四次続いたが、元々の数が多いだけに全ての空母を撃沈することは出来ていない。
 これを見越して、第二次攻撃隊が発艦した時点で第三艦隊の全艦が敵機動艦隊に向かって突撃を開始しており、第七次攻撃隊の攻撃が終了する頃、まず機動部隊本隊の前衛を務めていたヤマトが戦場に到達、更に第三艦隊本隊も時を置かずして到着し、猛烈な砲雷撃を加えて残存空母全てを撃沈する事に成功したのである。
 第三艦隊は敵機動艦隊の1割強という寡兵であったにも関わらず、70隻前後いたと思われる敵空母を全て撃沈するという信じられない戦果を挙げたのである。

 この海戦は地球防衛軍の航空戦力整備に多大な影響を与えることになる。
 奇襲が成功したとはいえ、あれほど強大な機動部隊があっけなく全滅してしまったという事実から、参謀本部は機動部隊の整備にこれまで以上に後ろ向きになってしまったのである。
 言い換えると、彼らは自らの挙げた戦果に恐怖したのである。

 参謀本部がこの様な姿勢を取ったのには、この時点で地球は他の星系への植民をほとんど行っておらず、必然的に地球防衛軍も太陽系の守備しか考えていなかったという点も見逃せない。
 植民しようとする星系においてその星系の先住民族と戦闘となった場合、そこを完全に破壊してしまっては本末転倒である。
 波動砲は極めて強力な兵器であるが、その構造上破壊力を加減することは不可能であり、使用すると目標はおろかその周辺にある全てのものを破壊し尽くしてしまう可能性は極めて高い(ヤマトの波動砲初発射時など、この懸念を裏打ちする事例は多数存在する)。
 しかし、空母機動部隊の艦載機の攻撃であれば、破壊力の調節は比較的容易である。

 一方、太陽系を防衛するために侵攻してくる艦隊や移動要塞を撃滅する場合、戦場を選べさえすれば破壊力を調整する必要など無く、むしろ大きければ大きいほどよい。
 そして、敵の方が地球に向けて侵攻してくるのであるから、わざわざ機動部隊を編成しなくとも航続距離の長い攻撃機を太陽系の各基地に配備してこれを柔軟に運用すれば、機動力のない基地航空隊でも機動部隊と同じ事ができると参謀本部は考えたのである。

 この他にも様々な理由はあるのだが、白色彗星帝国戦役以後、地球防衛軍の航空戦力整備は基地航空隊を中心にしたものにシフトしていくため、航空母艦の建造は非常に低調なものとなっている。

 また、フェーベ沖海戦では地球側が想定したほぼ理想的な攻撃が行われたにも関わらず、攻撃の主力である雷撃機型の未帰還機が多数に登った。
 これは、雷撃機型の開発当初から懸念されていた通り、対艦攻撃力を求める余り機動力が不足していたこと、そして直接的な防弾処理が皆無に近いにも関わらず、戦前大いに期待されていたレーザー反射加工や防御用重力レンズ発生装置が思ったほどの効果を上げなかったことが重なり、僅かな損傷を受けただけで雷撃機型は撃墜されていったのである。
 あまりの物的・人的被害に耐えかねた地球防衛軍は、白色彗星帝国戦役終結後に航空戦力整備の方針が大きく変更されたことも手伝い、雷撃機型の生産・改良の全てを中止してしている。
 そしてこれ以後に雷撃機型に相当する純粋な艦上攻撃機を開発・配備することもなかったのである。


ヒペリオン沖海戦〜カッシーニの隙間海戦


 バルゼー艦隊と地球防衛艦隊の主力部隊同士の激突は、まずヒペリオン沖での地球防衛艦隊前衛部隊(第六艦隊)とバルゼー艦隊主力部隊との間で始まった。
 地球防衛艦隊前衛部隊は巡洋艦・駆逐艦を主力とする部隊で、決して無力ではない。
 彼らの目的は敵艦隊の戦力を分断することで、あわよくば敵艦隊主力に雷撃を行うつもりであった。
 しかし、迎撃してきたバルゼー艦隊第二艦隊の猛攻を支えきれず、彼らを短時間足止めさせることと引き替えに撃滅されてしまったのである。

 これは土方地球防衛艦隊司令としては、珍しい作戦ミスだったといえよう。
 この時、前衛部隊と主力部隊の距離が離れて過ぎていたため、前衛部隊がその身と引き替えに稼いだ時間を活かすことが出来ず、各個撃破を狙った側が各個撃破されてしまったのだから。

 第二艦隊と再合流を果たしたバルゼー艦隊は、前衛部隊を蹴散らした余勢を駆って地球防衛艦隊主力部隊中央を突破すべく、地球側の拡散波動砲より長射程の火炎直撃砲でアウトレンジ攻撃を仕掛け、地球防衛艦隊に大打撃を与えた。
 この時の土方地球防衛艦隊司令の判断は早かった。
 彼は形勢不利と見るや直ちに艦隊を反転させ土星本星に後退するよう命令、更に第三艦隊に艦載機での援護を求めたのである。
 勿論、バルゼー艦隊は追撃を開始している。

 間もなく、土星に後退する地球防衛艦隊を追撃していたバルゼー艦隊の上空に攻撃隊の姿が現れている。
 恐らくバルゼー提督はこの直前に行われたフェーベ沖海戦で、自軍の機動部隊が雷撃機型のミサイル攻撃によって大打撃を受けたことを知っていたと考えられる。
 そして地球側の機動部隊が健在である以上、来襲してきた攻撃隊が高い対艦攻撃力を持つ雷撃機型で構成されていると考えるのが普通である。
 しかし、この時来襲した攻撃隊は対艦攻撃力に欠ける単座型のみで構成されていた。

 土方地球防衛艦隊司令からの要請を受けた第三艦隊は、直ちに攻撃隊を発艦させている。
 しかし、本来対艦攻撃の主力となるはずの雷撃機型は先のフェーベ沖海戦で多数の未帰還機が出ていた上に、生き残った雷撃機型のほぼ全ては母艦ではなく近くの基地に不時着していたため、第三艦隊には直ちに出撃可能な雷撃機型がほとんど存在しておらず、またフェーベ沖海戦において土星宙域に備蓄されていた雷撃機用の対艦ミサイルのほぼ全てを射耗していたこともあり、主力部隊援護のために発艦した攻撃隊は単座型のみで編成されていたのである。

 対艦攻撃力が不足している単座型が主力であるため、バルゼー艦隊に充分な打撃を与えることの出来ない攻撃隊の目的は時間稼ぎだった。
 つまり、彼らはバルゼー艦隊に対して襲撃を繰り返すことで、彼らを混乱させ、足を止め、主力部隊が体勢を整える時間を稼ぎ出そうとしていたのである。
 この目論見は成功した。
 攻撃隊はバルゼー艦隊に執拗な襲撃を繰り返して、バルゼー艦隊に足止めを強要したのである。
 そこで、エアカバーを持たないバルゼー艦隊は攻撃隊による執拗な攻撃から逃れるため、地球防衛艦隊に続いて土星の輪に突入したのである。

 しかし、バルゼー艦隊が攻撃隊を振り切るために土星の輪に突入した頃、既に輪を抜けてカッシーニの隙間に辿り着いた地球防衛艦隊主力部隊は、攻撃隊が稼いだ時間を使って待機していた予備隊と合流、体勢を整えることに成功していた。
 そして、地球防衛艦隊主力部隊は反転すると、逆襲に転じた。
 土星の輪の中で身動きのとれない上に火炎直撃砲を封じられたバルゼー艦隊は、地球防衛艦隊主力部隊からの攻撃に対応することが出来ず、大打撃を受けてしまった。
 更にこの頃にフェーベ宙域から急行して来た第三艦隊に退路を塞がれる形となったバルゼー艦隊は、地球防衛艦隊主力部隊の徹底した砲雷撃から逃れることが出来ず、最終的には全滅してしまったのである。

 地球防衛艦隊は凱歌を上げ、勝利の美酒に酔った。
 しかし、それはほんの僅かの間のことだった。
 バルゼー艦隊が壊滅したまさにその時、白色彗星が突如として出現したのである。

 そして、白色彗星は地球防衛艦隊主力部隊の編隊波動砲射撃を彗星状防御スクリーンで弾き返すと、地球艦隊主力に猛烈な砲撃を加えてこれを壊滅させてしまったのである。

 圧倒的な勝利の後に決定的な敗北を喫した地球は声もなかった。


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