第四章 試練の時


白色彗星帝国戦役・後 −地球本土決戦−


一式一一型空間艦上攻撃機 "雷撃機型"
増加試作/極初期生産機



 木星宙域海戦において地球防衛艦隊は善戦したといえるであろう。
 地の利を生かした戦術と優れた戦技を発揮し、数の上で遙かに勝るバルゼー艦隊を艦隊決戦で退けたのだから。
 しかし、地球防衛艦隊主力は続いて挑んだ白色彗星帝国本土都市惑星との決戦に敗れ、壊滅状態に陥ってしまった。
 とはいえ、地球防衛艦隊は全滅したわけではなかった。

 特にA型空母群とヤマトを中核とする第三艦隊は、主力部隊から離れてフェーベ沖海戦に参加していたため決戦場到着が遅れたことが幸いし、艦隊後方に突如出現した白色彗星に飲み込まれた艦も少なからずあったものの、重力波に弾き飛ばされて損傷、戦場離脱を余儀なくされたものの、難を逃れた艦も相当数いたのである。
 これらの艦艇は重力波によってバラバラに分断されてしまったが、各自で土星や木星、火星の基地に落ち延びて修理・補給を受けている間に密かに連絡を取り合っている。
 更には艦隊決戦に向かないと判断されて、民間船と共に各基地で待機・避難していたパトロール艦隊や船団護衛用の護衛艦隊の中から戦闘力を有する艦艇を掻き集めて艦隊を再編し、雌伏の機会を狙っていた。
 しかし、その戦力は以下のような極めてささやかで、都市惑星は疎かバルゼー艦隊より遙かに規模の小さい都市惑星直衛艦隊と互角に戦えるかどうかすら危ぶまれるものでしかなかったのである。


地球残存艦隊
 第一空母戦隊(臨時編成)
   A1型航空母艦(改) 天城
   改A1型航空母艦 グロリアス
   A2型航空母艦 レキシントン
   A1型主力戦艦 ボロディノ
 第二〇巡洋艦戦隊(臨時編成)
   A1型巡洋艦 デイトン
   改A2型巡洋艦(パトロール艦) ローレイ 和泉
 第三三駆逐隊
   A型駆逐艦  スチュアート ワーデン
  第三四駆逐隊
   A型駆逐艦  カッシング ラッセル ベンハム
 第三護衛戦隊
  第九護衛隊(一部)
   B2型護衛駆逐艦  サウスダウン エグリントン ブレコン
  第一〇護衛隊
   B2型護衛駆逐艦  樺 榊 梅 杉
  第一一護衛隊(一部)
   B2型護衛駆逐艦  マーティン ラヴァリーング


 これらの艦艇は修理・補給が完了すると秘密裏に各基地から単艦で出航、地球軌道を通り過ぎて艦隊集結地点である金星宙域に向かった。
 金星宙域が選ばれたのは、白色彗星帝国の目的が地球本星の攻略である以上、地球軌道より内側にまで侵攻して来る可能性は低く、安全に艦隊集結を行うにはうってつけと予測されたためである。
 この予測は見事に的中し、地球側の各残存艦艇は白色彗星帝国側の妨害をほとんど受けることなく合流を果たしている。

 こうして金星軌道上で無事に集結を果たした地球残存艦隊ではあったが、首脳部は白色彗星帝国軍撃滅作戦の方針を決めかねていた。
 この状況下で勝利を得るには、都市惑星と直衛艦隊を各個撃破するしか方法はない。

 この時点において、都市惑星は既に地球まで侵攻しており、太平洋上に着水していた。
 この状態の都市惑星に対して波動砲を始めとする大威力兵器を使用すると、周囲を焼け野原にしかねない。
 しかし、着水した都市惑星は彗星状防御スクリーンを展開しておらず、これをなんとかして宇宙空間に追い上げ、防御スクリーン奥深くに身を隠す前に波動砲編隊射撃を行えば、残存艦隊でも都市惑星を殲滅できる可能性は高いと彼らは考えた。

 だが、この想定には重大な問題があった。
 都市惑星に対し確実に波動砲編隊射撃を行うためには、全力を挙げて妨害してくることが予想される直衛艦隊を予め無力化する必要があったのである。

 懊悩の末に彼らは決断した。
 衛星軌道上の直衛艦隊を撃滅した後、帝国本土と雌雄を決する、と。

 しかし、この作戦方針の下では、残存艦隊が直衛艦隊を撃滅する間、都市惑星を釘付けにし、可能であればこれを宇宙空間まで追いやる存在が絶対に必要である。
 地球残存艦隊にはこの囮と言っても過言ではない部隊にそれほどの戦力を割く余裕はないため、この部隊は圧倒的に不利な状況下で戦わなくてはならず、凄まじい損害がでることは避けられない。
 つまり、この任務に当たる部隊はそれなりに強力かつ頑強でありながら、喪失しても都市帝国との決戦に影響しない戦力でなくてはならない。

 残存艦隊首脳部がヤマトとヤマトを含む各母艦に僅かながら残存していた戦闘機隊に目を向けるのは、ある意味当然の成り行きだった。

 なぜなら、ヤマトは他艦との艦隊運動訓練をまともに受けたことがないため艦隊運動に不安があり、その上土星宙域海戦における味方艦との衝突事故により機関を損傷、更にその後の戦闘での損傷によって波動砲と主砲の半数が使用不能になっていたため、艦隊決戦時の戦力としてもあまり期待できそうになかったからである。

 しかし、海面上に浮遊している都市惑星を海中から攻撃するのであれば、まともに使える武器が魚雷ぐらいしかないヤマトでも損害を与えられるかもしれない。
 また、自動化・省力化を追求して建造されたアンドロメダ等とは異なり、ヤマトにはガミラス戦役以来の熟練した応急要員が多数乗り組んでおり、撃たれ強さに定評があったことも見逃せない。
 更に、太平洋上に着水している都市惑星の戦闘機発進口は海面下にあるため、戦闘機による速やかな迎撃は不可能である。
 ヤマトの魚雷攻撃で牽制しつつ、同時に艦載機隊が都市衛星直上から攻撃を加えれば、都市惑星をかなり苦しめ、上手くいけば宇宙空間に追い上げる事も可能なのではないかと考えられたのである。

 こうして、非情な決断が下された。
 地球残存艦隊が直衛艦隊を殲滅する時間を稼ぐために、ヤマトと艦載機隊が都市惑星に対して攻撃を仕掛けることになったのである。

 まず、ヤマトの搭載機は先のデスラー艦隊との交戦でほとんど失われていた(搭乗員の大半は無事だった)ため、残存艦隊各艦の健在な機体はおろか、各基地に僅かに残っていた予備機すら搭乗員込みで掻き集められてヤマトに搭載され、ヤマト搭載の艦載機隊である第六四飛行隊は定数を回復(fc×32)している(木星衛星基地に不時着した雷撃機型の多くは、至近距離を通過した白色彗星の防御スクリーンが発する重力波により基地ごと破壊されている)。
 また単座型のみならず、空戦ではほとんど役に立たない三座型が多数搭載され、第九九飛行隊(fr×18)が臨時編成されている。
 これには理由があるのだが、それは後述する。

 因みにこの時、ヤマトからはこの後の戦闘において出番がほぼ確実に無い上陸用舟艇中型雷撃艇が降ろされ、その搭載スペースにも戦闘機が詰め込まれている。
 当初は救命艇も降ろすことも考えられていたが、それでは負傷者を移送したり、いざという時に乗組員をヤマトから退艦させる方法が無くなってしまう。
 激戦に赴く以上それは許されないとして、救命艇だけは残されることになっている。
 これらの処置によりヤマトの搭載機数は定数を遙かに超えているが、戦場までの距離が短いことから艦隊司令部やヤマト幹部乗組員は特に問題はないと考えた様である。

 艦隊首脳部内では、残存艦隊主力の防空を放り出して、残存する総ての戦闘機を都市衛星に対する攻撃に投入する事に対して異論もあった。
 しかし、事前の偵察から都市衛星直衛艦隊には空母は含まれていないと判断されており、エアカバーなしでも大きな問題はないと考えられ、また地球上の各基地に残存している航空部隊の援護に仄かな期待を寄せていたこともあり、あえてこのような配置がとられたのである。

 作戦は地球連邦政府の全面降伏文書を持った使節(時間稼ぎのための偽装とする説もあるが、真偽は不明)が都市惑星に向かって出発する時刻に発動されている。
 金星宙域から直衛艦隊が待機しているのとは地球を挟んで反対側の地球低軌道にワープアウトしたヤマトは、安全規定を遙かに超える降下角度で大気圏に突入、成層圏に入るやいなや待機させていた戦闘機隊を発艦させている。
 コスモタイガーUが単独での大気圏突入能力を有しているにも関わらず、敢えてこのような方法が採られたのは、奇襲を成立させるのに必要とされた地球半周以下という降下角が余りにも深すぎ、コスモタイガーUの能力を超えるためである。
 そして両者が都市帝国直上の成層圏と直下の太平洋の海底という攻撃ポジションに着くと、第六四飛行隊は遙か高度35,000mから垂直降下、都市惑星直上部に攻撃を始め、ヤマトもその直後に海中から魚雷攻撃を開始している。

 奇襲と速攻に次ぐ速攻によって、動力施設の一部を損傷する(通信傍受によって判明)などかなりの被害を被った都市惑星は一時パニック状態に陥り、慌てて対空砲火と防御スクリーンを展開しつつ浮上を始めている。

 このとき、都市惑星と直衛艦隊を合流させないために、ヤマト隊は意図的にある方向からの攻撃を行なっていない。
 攻撃のない方向に逃れようとする人間の自然な心理を突いたこの攻撃は、都市惑星側が冷静さを失っていたこともあり見事に成功、都市惑星は地球側の望む方向に上昇を開始している。
 当初の想定以上に奇襲は成功し、ヤマト隊は都市惑星を宇宙空間に追い上げるだけでなく、衛星軌道上の直衛艦隊と分断する事にも成功したのである。

 しかし、ここで思わぬ事態が発生した。
 都市惑星攻撃の主力になるはずの地球残存艦隊が来援しなかったのである。

 地球残存艦隊は予想以上の戦力を有していた直衛艦隊との戦闘に拘束され、ヤマト隊と地球を挟んでほぼ反対の衛星軌道で死闘を展開していたのである。
 このため、直衛艦隊がヤマトと都市衛星の間に割り込んでくる可能性は極めて低かったが、その代わりヤマト隊も都市惑星との決戦に単独で望まざるを得なくなっている。

 こうして、地球防衛軍航空隊史に残る勇戦と悲劇の幕は切って落とされた。


 このような最悪の事態における作戦も一応立案されてはいた。

 波動砲が使用不能な上に通常火力も半減しているヤマトでは、地球防衛艦隊主力の攻撃にもビクともしなかった都市惑星に決定的なダメージを与えることは不可能である。
 それならば、と言うことで「外からの攻撃がダメなら内側から」という考えが浮かび上がり、都市惑星の戦闘機射出口から逆に都市惑星内部に侵入し、内側から破壊するという作戦が立てられていたのである。

 ここで一つの疑問が浮かび上がってくる。
 当時、白色彗星の中に都市惑星があることは判明していたが、地球側にはそれがどのようなものか全く判っていなかった。
 まして戦闘機射出口が都市惑星の下部にあることなど、地球防衛軍首脳部はおろか地球人類の誰も知らなかったはずである。
 であるのに、地球残存艦隊首脳部はなぜこの作戦を着想することができたのだろうか?

 最も有力と考えられているのは、デスラー総統から情報がもたらされた、という説である。
 地球本土決戦の直前、金星沖に向かっていたヤマトとデスラー総統率いるガミラス艦隊が激しい戦闘を行っていることから、この説を疑問視する人は多いが、元ヤマト乗組員とガルマン・ガミラスのデスラー総統周辺の双方、しかも複数の情報源から同じ情報が出てきていることから、この説の信頼性は高いと考えられている。
 また、この時既にガミラスと白色彗星帝国の同盟関係が解消していたことも、この説の信頼性を補強している。

 とはいえ、この作戦がどう考えても無茶・無謀という言葉すら通り越したものであるのは明白で、作戦の名に値するものではない、という意見すら聞かれる。
 しかし、この方法以外に有効な手段らしきものが無かったもの事実であった。

 空戦能力に欠ける三座型がヤマトに多数搭載されたのは、この作戦を実施することを考えてのことだったのである。

 こうして、空間騎兵隊を含む戦闘要員が乗り込んだ三座型を主力とする特別攻撃隊(第九九飛行隊)が出撃している。
 既に数倍の敵直援戦闘機と交戦していた第六四飛行隊はかなりの戦果を挙げていたものの、それと引き替えに無視できない損害を被っていた。

 それでも、攻撃の主力である第九九航空戦隊機を一機でも多く突入させるため、再集結して護衛についた第六四飛行隊は鬼神の如き戦いぶりを見せ、第九九飛行隊の楯となり、生き残ったものは自らも都市惑星内部に突入している。
 この際、多数の突入部隊兵員が乗り組んだため、唯でさえ低い運動性が更に低下している三座型を庇って被弾する機、被弾するや都市惑星の砲台や手近な敵機に体当たりを敢行する機が後を絶たなかったという。

 第六四飛行隊の挺身は無駄ではなかった。
 なぜなら戦後に作成された戦闘詳報によると、目標とされた都市惑星動力部に到達できたのは、突入部隊隊員のうち僅か1名とされており、もし第六四飛行隊の奮闘があと僅かに及ばず、突入前に三座型があと1機撃墜されていたら、作戦は失敗に終わっていた可能性が極めて高いのである。

 しかし、戦いの女神はこの奇跡としか言いようのない戦果に相応しい代償を要求した。
 この時のヤマト乗組員の8割を超える戦死者数がよく取り上げられるが、第六四、第九九の両飛行隊の未帰還率は実に9割を超えており、加藤三郎篠原弘樹を始めとするガミラス戦役以来の名パイロット達の多くが還らなかったのである。

 戦いの女神は実に平等だった。




もう一つの地球本土決戦 −地球残存艦隊 vs 都市惑星直衛艦隊−


零式五二丙型空間艦上戦闘機 "コスモゼロ"
"ガーディアン・エンジェルズ"仕様



 先述した様に、地球上空における白色彗星帝国との決戦はヤマトと都市惑星との間だけではなく、地球残存艦隊と都市惑星直衛艦隊との間でも行われていた。

 ヤマト隊の奇襲により混乱に陥った都市惑星だったが、これと同じ頃、上空の直衛艦隊も大混乱に陥っていた。
 奇襲の報を聞いて急遽地球に降下しようとしていた直衛艦隊の目前に、突如として多数の戦闘艦艇が出現したのである。
 それは金星宙域から一気に地球軌道上へ小ワープしてきた地球残存艦隊だった。

 一方、地球残存艦隊もまた混乱していた。
 地球残存艦隊は事前に可能な限り手を尽くして偵察情報を収集し、直衛艦隊の戦力を綿密に予測していた。
 にも関わらず、直衛艦隊の戦力は残存艦隊首脳部が内心悲観的過ぎると考えていた予測すら超えるものだったのである。

 彼らはあるファクター、即ちバルゼー艦隊機動部隊の護衛艦艇を見落としていた。
 フェーベ沖海戦における第三艦隊の主要攻撃目標は空母であったため、護衛艦までは充分攻撃の手が及んでおらず、大型艦を含むかなりの艦艇が生き残っており、その中から修理の成った艦が戦列に加わっていたのである。

 いや、彼らを愕然とさせたのはこれらの艦艇群ではなかった。
 円錐と板状のブロックを組み合わせた遠目にも特徴的な平たい艦影。
 フェーベ沖海戦で全滅させたはずの空母が一隻だけとはいえ直衛艦隊に含まれていたのである。

 後に判明したことだが、この空母はバルゼー艦隊機動部隊の所属艦で、機関の不調によりバルゼー艦隊本隊から大きく遅れ、単艦で太陽系まで航行して来たらしい。
 そして木星宙域海戦終了後に太陽系に侵入、木星宙域から地球軌道上までワープして直衛艦隊と合流していたのである。

 バルゼー艦隊の熾烈な攻撃から生き残った太陽系各基地の中にはこの艦を探知した基地もあり、「敵に空母あり」という複数の通信文が全地球軍に向けて発信されている。
 しかし、この通信文は地球防衛艦隊主力壊滅と都市帝国地球侵攻という緊急事態による混乱のためか、なぜか残存艦隊司令部には届かず、彼らは直衛艦隊に空母はいないと誤断したまま戦闘に突入してしまったのである。

 最初に混乱から立ち直って先手を取ったのは、既に崖っぷちに追い込まれていた地球残存艦隊だった。
 相手より劣勢でしかも寄せ集めでしかない地球残存艦隊が勝機を掴むには、敵が混乱しているこの機会を生かすしかなかったからである。

 白色彗星帝国戦役最後の、そして地球防衛艦隊にとって最も長く苦しい艦隊決戦が幕を開けた瞬間であった。

 地球残存艦隊の空母・巡洋艦・パトロール艦は直衛艦隊の戦艦・巡洋艦部隊に向けて主砲を発射、同時に水雷戦隊と護衛戦隊も突撃を開始している。
 空母に搭載されている主砲はA型主力戦艦と同じく低命中率で名高い「一式40p衝撃波砲」であるが、この時は彼我の距離が至近だったためか、土星宙域海戦とはまるで別の砲のような極めて高い命中率を見せている。
 地球残存艦隊の一方的な砲撃は第三斉射まで続き、目標となった直衛艦隊戦艦部隊の一、二番艦は多数の命中弾を浴びて大破、戦闘力を失っている(この2艦はその後戦線から脱落して大気圏に突入、両艦とも摩擦熱に耐えきれず落下途中で爆沈している)。
 このまま戦況が推移するか、脱落させた戦艦が直衛艦隊の旗艦であれば、地球残存艦隊は一方的な勝利を得ることが出来たかもしれない。
 しかし、戦艦2隻を脱落させて勢いに乗る地球残存艦隊が第四斉射を放とうとした時、ようやく我に返った直衛艦隊も反撃を開始、壮絶な砲雷撃戦が開始された。

 序盤において地球残存艦隊が空母ではなく戦艦部隊を攻撃したのは、艦隊旗艦と考えられる戦艦部隊先頭艦を早期に撃沈して敵の指揮系統を混乱に陥れ、状況を有利にすることを狙ったためであったが、本来であれば最重要目標になるはずの空母がたまたま主砲の射程距離外に位置していたためでもあった。
 ところが、この海戦が始まる直前、直衛艦隊司令部は空母に移乗していたらしく(理由ははっきりしないが、合流したばかりの空母の視察を行っていたと推定されている)、直衛艦隊の指揮系統の混乱は最小限に抑えられていたようである。
 このため戦闘は膠着状態に陥り、間もなく地球残存艦隊は最も有利だった序盤において空母を撃沈できなかったツケを要求されることになる。

 先手を取ったことで直衛艦隊戦艦部隊の戦力を削ることに成功し、劣勢ながら直衛艦隊と互角以上に戦っていた地球残存艦隊に破局が訪れようとしていた。
 戦闘開始と同時に後退していた空母から急遽発艦した艦載機が地球残存艦隊の頭上で攻撃隊形を組みつつあったのである。

 地球残存艦隊にも空母はいた。
 しかし、搭載機は総てヤマトに託してしまったため、格納庫は空で、当然防空戦闘機などはない。
 彼らはA型主力戦艦と同じ構造である前半部を活かして砲戦を挑むつもりで、この艦隊決戦にA型空母群を投入していたのである。
 砲雷撃戦が一進一退の膠着状態である以上、敵艦載機隊の来襲は地球残存艦隊にとっての破滅を意味していた。

 次々に襲いかかってくる敵攻撃機によって被弾、炎上していく地球残存艦隊艦艇。
 この攻撃によって、戦艦・空母といった大型艦こそ撃沈されなかったものの、僅かな損害と引き替えに雷撃に成功し、敵駆逐艦部隊を殲滅しつつあった水雷戦隊が大打撃を受けている。
 この頃の地球防衛軍艦艇が対艦攻撃力を追求するあまり、最低限の対空砲しか搭載していない(搭載力に余力のない小型艦ほどその傾向が強い)ことが被害に拍車をかけたようである。
 そして第一波攻撃がまだ完全に終わってもいない内に、地球残存艦隊艦艇のレーダーには直衛艦隊の方向に第二次攻撃隊と思われる大編隊の機影が映っていた。
 それに加えて、後方から急速に接近してくる機影も確認されていた。

 絶望感に襲われながら、それでも砲雷撃戦を継続しつつ、数少なくなった対空砲を旋回させて対空戦闘の準備を始めた地球残存艦隊に後方から接近してくる編隊から通信が入った。

 当初、敵攻撃隊の別働隊と思われたその編隊の正体は、地球残存艦隊を援護するために地球上の航空基地から急遽発進してきた味方の戦闘機隊だったのである。
 そのことを知った地球残存艦隊艦艇の艦内では歓喜の声が上がったが、それはすぐに落胆へと変わった。
 敵の第一次攻撃隊が30機強、第二次攻撃隊は60機近い大編隊であったのに対し、来援した地球基地航空隊は僅かに一個中隊規模(fc×12)でしかなかったからである。
 それを知ったグロリアスの艦長などは、通信機を掴むやいなや折角来援してきた味方機に
 「何をしに来た、早く逃げろ!」
と叫んだと言われている。

 通信機から流れる怒号を全く意に介した風もなく、平然と進撃する味方戦闘機隊に向かって、第二次攻撃隊の護衛戦闘機が突撃、更に帰還途上にあった第二次攻撃隊の護衛戦闘機までもが引き返し始めた。
 両者の合計は凡そ40機、敵空母搭載戦闘機のほぼ全力である。
 戦力比は1:3以上、両者の間には絶望的としか言いようのない戦力差があった。

 まず第二次攻撃隊の護衛戦闘機隊と味方戦闘機隊が接触、激しい空戦が始まった。
 戦力差が2倍以上もあるため、味方戦闘機が敵戦闘機に駆逐されるのは時間の問題と地球残存艦隊の誰もが考えた。
 ところが、そうはならなかった。

 来援した戦闘機隊は唯の戦闘機隊ではなかった。
 彼らは地球防衛軍航空隊の中でも手練れの中の手練れを集めた特別飛行中隊であり、その乗機は地球防衛軍最強の格闘戦闘機、零式五二丙型空間艦上戦闘機ことコスモゼロだったのである。
 この中隊の主力となったのは飛行教導隊で、彼らは自隊だけでなく飛行実験隊飛行戦技研究隊から可動機とパイロットを掻き集めて戦闘機中隊を臨時編成すると、迷彩塗装に塗り替える暇もなく戦場に駆けつけてきたのである。

 ガミラス戦役以来の熟練パイロットである彼らは、少数機で多数の敵機を御する方法を知り尽くしていた。
 彼らは2倍以上の戦力差を物ともせず、第二次攻撃隊の戦闘機を格闘戦に引きずり込んで次々と撃墜していったのである。
 そして、コスモゼロ中隊によって第二次攻撃隊の戦闘機隊がほぼ蹴散らされた頃、ようやく第一次攻撃隊の戦闘機隊がコスモゼロ中隊に襲いかかってきた。
 しかし、僅かな時間でその倍以上の戦闘機を片付けたコスモゼロ中隊にとってこの程度の戦力差はないも同然であり、彼らに新たな撃墜マークを供給するだけに終わっている。
 そして、その後には恐怖に駆られる第二次攻撃隊の攻撃機隊だけが残された。

 瞬時に攻撃機隊を壊滅させたコスモゼロ中隊は翼を翻すと、敵直衛艦隊に向かった。
 彼らの目的は敵空母の無力化であった。
 コスモゼロ中隊によって敵母艦航空隊はかなりの損害を出していたが、第一次攻撃隊の攻撃機隊は既に帰還しており、また格納庫内に予備機がある可能性もあったからである。
 そのことには直衛艦隊もすぐに気づいたらしく、味方航空隊の攻撃によるダメージによって地球残存艦隊の砲火が弱まったことを幸いに、後退して空母と合流すると、全艦挙げての対空火網を展開している。
 彼らも味方の戦闘機隊とコスモゼロ中隊の空戦を目撃しており、その悪魔の様な技量に恐怖していたのだろう。

 コスモゼロ中隊は直衛艦隊の猛烈な対空砲火をかいくぐって対艦ミサイルを発射、これにより敵空母の飛行甲板を破壊することに成功している。
 コスモゼロ中隊の攻撃はこれだけで終わらず、更に敵艦の対空砲に対して執拗なほどパルスレーザー機銃と陽電子機関砲による掃射が行われている。
 何とかして空母を護ろうとする直衛艦隊は、何度も襲いかかってくるコスモゼロ中隊を撃退するため、密集隊形を採って対空戦闘に全力を注ぎ始めた。
 知らず知らずの内に、彼らはコスモゼロ中隊との戦闘にのめり込んでしまったのである。

 コスモゼロ中隊と直衛艦隊が熾烈な戦闘を行っていた頃、地球から上昇して来る新たな編隊があった。
 その数、およそ1個航空戦隊(fc×38)
 それは、今や旧式化著しいコスモファルコンで編成された第二次攻撃隊だった。

 この頃、最新鋭機であるコスモタイガーUは主に太陽系外周の艦隊や基地へ優先して配備されており、地球周辺への配備はあまり進んでいなかった。
 僅かに地球本土防衛兼実戦テスト用として月基地にコスモタイガーU一個航空戦隊(第六四航空戦隊)が配備されていたが、これらの機体はヤマトと共にテレザート星へ旅立ってしまったため、飛行教導隊やテスト部隊などに配備されていた一個中隊ほどのコスモゼロを除くと、地球には旧式機しか配備されていなかった。

 ところが、練習航空隊で余生を送っていたコスモファルコンを掻き集めて編制された第二次攻撃隊こそ、地球基地航空隊の本命であった。
 しかし、これらの機体はガミラス戦役以来の中古である上に、雷撃機型用の大型対艦ミサイルを無理矢理装備したため、機動性が極端に低下しており(パイロットも引率役である数人の教官以外は全て練習生だった)、普通に突入した場合、敵戦闘機と対空砲火に喰われて全滅してしまう可能性が高いと考えられていた。
 そこで、彼らの突入を容易にするために、コスモゼロ中隊が事前に敵戦闘機と空母の甲板、対空砲を執拗なまでに叩いたのである。

 コスモゼロ中隊の活躍により、これといった妨害を受けることもなく攻撃位置に辿り着いた第二次攻撃隊は、惜しげもなく全てのミサイルを発射すると脇目も振らずに離脱している。
 発射されたミサイルのうち何発かは迎撃されたものの、ほとんどは敵空母に着弾、無数の命中弾を受けた敵空母は遂に沈没、更に密集隊形を採っていたため、空母周辺に位置していた艦艇にもかなりのミサイルが命中している。

 この攻撃を終えると地球側航空隊は全機地球に降下、戦闘空域から離脱していった。
 この直前までコスモゼロ中隊の執拗な攻撃を受けていた直衛艦隊はこれに安堵したであろう。
 しかし、次の瞬間、彼らの眼に飛び込んできたのは、艦の各部から火を噴きつつも、見事な横陣を組み、艦首から光を溢れさせる地球残存艦隊の波動砲搭載艦群の姿だった。
 彼らは航空隊がその身を挺して稼いでくれた貴重な時間を使って、波動砲発射隊形を採りつつ、波動砲にエネルギーを充填していたのである。
 残存艦隊との距離を通常火器の射程外までとり、しかも密集隊形を採っていた直衛艦隊がこの状況に対応することは不可能だった。

 勝敗は白銀の輝きと共に決した。

 都市衛星直援艦隊は全滅し、地球残存艦隊は辛うじて勝利を収めることができた。
 しかし、生き残った艦艇は全艦中破以上の損傷を受けていた上に、エネルギー・弾薬が底を尽いた地球残存艦隊は事実上戦闘不能に陥っており、しかも都市衛星との決戦場は遠く離れていた。
 彼らにはただひたすらヤマトの奮戦と、そして奇跡を願うことしかできなかったのである。


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