第五章 「牙を得た虎」


−二一型〜三二甲型−


一式三二甲型空間艦上戦闘機 "コスモタイガーU"



 都市衛星との地球本土での戦いでは圧倒的な数量の差に加え、変則的な作戦を実施したこともあり、作戦に参加した航空部隊の9割を遙かに超える未帰還率は参謀本部に大きな衝撃を与えた。
 木星宙域海戦から地球本土決戦までの戦いにほぼその全力を投入した地球防衛軍航空隊は消耗に消耗を重ね、あまりの未帰還率の高さから、元来所帯が大きいとは言えなかった地球防衛軍航空隊は深刻なパイロット不足に陥ってしまったのである。

 このため、人員の関係上、三座型や雷撃機型などの多座型の配備・維持は困難と参謀本部は判断した。
 そして、雷撃機型や三座型の生産ラインは全て単座型に変更、また育成されるパイロットも全員単座型専修のみとされ、多座型のパイロットの大半には単座型への機種改変訓練が施されることになったのである。
 そして、残存していた三座型の多くは旋回銃座を除去、レーダーを単座型と同じFD-3型に戻した上で、後席にも操縦系統を追加した複座練習機に改造されて、練習航空隊に再配備されている。
 未改修の三座型と雷撃機型残存機のほぼ全ては予備機に回され、各航空隊で雑用機として連絡業務や訓練などに使われていたが、後に生起した暗黒星団帝国侵攻の際にほとんどの機が地上撃破されている。

 余談だが、戦役を生き残った数少ない未改修の雷撃機型の中にデモンストレイターとして赤色を主体とした特別塗装を施された試作/増加試作機が含まれており、後にTVドラマ「宇宙戦艦ヤマト」に出演してその勇姿を披露している。
 ただ、特別塗装のままドラマに出演してしまったため、フェーベ沖などで活躍した量産型の雷撃機型が単座型や三座型と類似した青灰色を基調とした塗装を施されていたにも関わらず、「雷撃機型には赤色を主体とした塗装が施されていた」という誤解を拡げる一因となっている。

 退役する雷撃機型の代替として、高い対艦攻撃力を持つ単座型を開発することが航空本部で決定されたが、速やかな対艦攻撃能力の向上は困難であるため、取り敢えず耐弾性の強化が行われることになった。
 何よりも白色彗星帝国戦役で大きく消耗したパイロットの再消耗を防ぐ事が最優先されたのである。

 実戦配備を急ぐため、仮称二一型と名付けられて開発が進められた新型機には、エンジンや機体構造、電子装備などの改良は一切行われておらず、一一型では省かれていたコクピットや燃料タンクに防弾装備が追加されただけである。
 この改修に使用された耐レーザー装甲板はブラックタイガー/コスモファルコンやコスモゼロに装備された一枚物の分厚い装甲板ではなく、薄い耐レーザー装甲板をo単位の隙間を開けて積層し、装甲板と装甲板の間にエンジン用冷却装置から誘導された冷却剤の一部を循環するようにしたもの(各装甲に誘導される冷却ポンプにはコックが設けられており、被弾時は特定の部位の冷却剤循環を止めることが可能)で、以前の耐レーザー装甲とは比較にならないほど軽く、しかも耐弾性も優れているという特徴を持ったものである。
 但し、この耐レーザー装甲の追加装備による機内燃料タンク容量の縮小は避けられず、一一型の8割程度の航続距離を得るためには全てのハードポイントに高機動ポットを装備しなければならなくなっている。
 このため、ミサイルを装備することが事実上不可能となり、対艦攻撃力に関しては二世代前のコスモファルコンと同レベルまで退化するに至っている(余談ではあるが、これと同時期に残存していたコスモゼロも耐レーザー装甲を新型に換装しているが、それまでは古い耐レーザー装甲を装備していたため、コスモタイガーUとは逆に機内燃料タンク容量が増加する、という珍現象が起きている)。

 こうして開発された新型コスモタイガーUは「一式二一型空間艦上戦闘機」として採用されると、直ちに従来の一一型と入れ替えが始められ、修復なったヤマトが訓練航海に赴く際、その艦載機隊にも配備されている。
 この訓練航海の途中、デスラー総統からイスカンダル異変の情報がもたらされ、訓練を中止して直ちに救援に赴いたヤマトは暴走するイスカンダル上空で暗黒星団帝国艦隊と交戦、これが二一型の初陣となった。
 この時のパイロットは全員訓練学校を卒業したばかりで、彼らの技量は決して高いとは言えなかったが、攻撃が奇襲となったこと、敵戦闘機に対して優位から攻撃をできたこと、そして編隊空戦を徹底したこと等が重なり、多数の敵機を撃墜しながら未帰還機無しという素晴らしい戦果を挙げている。

 ただし、この二一型はあくまで応急処置的なものであり、これ同時に本格的な改良型の開発も急ピッチで進められていた。

 この本格的改良型はコスモタイガーU初のモデルチェンジと言え、主な改良点として
 1.エンジンの換装
 2.兵装搭載量の拡大
 3.レーダーやコンピューターを含む電子装備の更新
 4.上記の改良に伴う機体構造の強化

の4点が挙げられる。

 まずエンジンについては、推力増加装置の改良によりレスポンスの向上を図った新型の「FRE-115C『惑星四型三号』」に換装されている。
 この改良型エンジンは、雷撃機型のARE-102Bのデータを参考に開発されており、最大推力こそ向上していないが、巡航推力と燃焼効率が向上している。
 これにより、機内燃料タンク(防弾処理済み)と胴体下に装備した増槽の燃料で一一型の機内燃料タンク+大型増槽×1+高機動ポット×2には劣るものの、航空本部が求める航続距離を発揮する事が可能になっている。

 また、ハードポイントをそれまでの胴体主翼付け根部分及び主翼下に各2基ずつの計4基に加え、胴体主翼付け根部分のハードポイントを2基増設して、計6基としている。
 一一/二一型の主翼のハードポイント4基の内、一一型は2基(二一型に至っては4基全て)に高機動ポットを装備する必要があったことを考えると、対艦兵装の搭載力は一一型の3倍以上に強化されたと言っても過言ではない。

 ミサイル自体も大幅に改良されている。
 敢えて長射程化を狙わずに、弾頭炸薬量を大幅に増やす他、弾頭の形状と構造を改善することで貫通力の向上が図られており、数発の命中弾で大型艦を撃沈可能(戦艦級は困難だが)なものが開発されている。
 このミサイルは「二式一号空対艦誘導弾」という名称で制式採用されているが、実はイスカンダル救援時に試作弾がコスモゼロに搭載されて実戦投入されている(この試作ミサイルを一部改良したものが実用型として量産された)。
 また機首の30oパルスレーザー機銃も、発射速度は変わらないもののレーザーの出力をより高めた「一式四型30o固定パルスレーザー機銃」に変更している。

 電子装備の改良も攻撃力の強化に関係するものが多い。
 レーダーは最大探知距離はさほど向上していないものの、遠距離での探知精度を大幅に向上した「FD-3(R)型」に変更、FCSやコンピューターも新型ミサイル多数装備に対応したものに交換して、ミサイルの命中精度向上に寄与している。

 新素材の導入を始めとして可能な限りの対策が行われたものの、以前の型より重い改良型のエンジンや電子装備の変更、ハードポイントの増設に伴う機体構造の強化といった改修により自重が大幅に増加しており、搭載する燃料や各種装備も大幅に増加したため、機体全体の重量増加も増加している。
 改良型エンジンと一一/二一型のエンジンの最大推力は同じだが、上記のように機体全体の重量が増加しており推力重量比は低下しているのだが、エンジンレスポンスが大幅に改善されたためか、一一型や二一型から乗り換えたパイロットの多くは「加速が鋭くなった」と証言している。

 また、重量増加に対応して高出力スラスター推力を強化しているが、重量増加に打ち勝つことはできず、一一/二一型より運動性能は低下している。
 もともとの運動性が高い水準にあったため、低下したとは言ってもその水準はなお高いものだったが、一一/二一型の極めて軽快な運動性に慣れたパイロット達の中には、当初運動性能の低下に不満を漏らすものもいた。
 しかし、彼らも改善された加速性能に魅了され、直ぐに不満はほとんど聞かれなくなっている。

 「頑固な者が多い」と言われるパイロット達が比較的素直に(しかも短期間で)主旨変えしたのは、白色彗星帝国戦役において単機戦闘になりがちな格闘戦に拘った熟練パイロットの多くが未帰還になり、イスカンダル救援時において徹底した編隊空戦を行った新人パイロット達が全機帰還したという事実から、格闘戦よりも編隊空戦の方がキルレシオが良いという戦訓が航空隊全体に広く浸透したためと考えられている。
 そして一撃離脱が多くなりがちな編隊空戦では、運動性能より加速性能が重要なのは明らかであった。

 これ以前も編隊空戦が行われていなかった訳ではないが、戦闘機隊全体に徹底されてはいなかった。
 イスカンダルで戦ったパイロット達は確かに未熟ではあったが、彼らは選び抜かれた人材だけあってかなり優秀であり、そして優秀であるからこそ自分達の技量の未熟さを自覚していたと考えられる。
 通常であれば、彼らのような未熟なパイロットは経験豊富なパイロット達が主力を占める部隊の末席に収まり、先輩達の指導と監視の元で空戦の何たるかを学んでいくものである。
 このような環境下でパイロットとして成長していれば、彼らもまた先輩パイロットの指導に従って格闘戦主体の空戦を行うようになっていたであろう。
 ところが白色彗星帝国戦役の結果、本来戦闘機隊の主力を占め、新人パイロットを指導すべき熟練パイロットのほとんどが消耗してしまったため、新人パイロットがいきなり戦闘機隊の主力として戦場に送り込まれることになってしまったのである。
 だからこそ、彼らは個人の技量に頼る部分の多い格闘戦ではなく、チームプレイによってお互いの未熟な部分を補うことの出来る編隊空戦へ自然に傾斜していったのであろう。
 そして、イスカンダル救援時においてその有用性が広く認知された結果、編隊空戦は地球防衛軍戦闘機隊の基本空戦法として位置づけられ、これより後に育成されるパイロットには徹底した編隊空戦法が叩き込まれる様になり、単機戦闘は厳しく戒められるようになっている(この転換は格闘戦を否定するものではなく、戦闘機隊において格闘戦はそれなりに重要視されており、現在でも訓練にもかなりの時間が割かれている)。

 これらの改良によって高い空戦性能を保ちつつ強力な対艦攻撃力を得る事に成功したコスモタイガーUは、遂に当初の開発目的を達成したのである。
 コスモタイガーUの開発当初から開発陣に加わっていたある技術者が、この改良型を「虎は牙を得た」と評したと伝えられるが、そう言う意味では非常に的を射た表現であるといえるだろう。

 ただし、複雑な機体構造を採用し、レーダーやエンジンを換装したことにより、機体価格の高騰を招いた上に、生産性も悪化している。
 もともとコスモタイガーの各パーツがモジュール式であるためメンテナンス性は良好だったが、消耗パーツでも高価なものが多くなり、性能・信頼性の点では問題ないものの、機体調達価格、維持コストともに上昇してしている。

 尤も、こういった調達価格・維持コストの高騰は、参謀本部が熱中していた波動砲搭載戦艦の異常なまでに高額な建造費の前には余り目立たず、また、地球防衛軍戦闘機隊の所帯がもともと小さく、「少数精鋭主義」であったこともあり、あまり大きな問題とは考えられていなかった。

 こうして開発された改良型は「一式三二型空間艦上戦闘機」として採用されると、直ちに各部隊への配備が始まり、入れ替わりに二一型は主力機から二戦級機に格下げされ、後方基地の防空・哨戒や訓練任務などに回されている。

 なお、白色彗星帝国戦役までは三座型が長距離偵察任務に就いていた(近距離強行偵察には単座型が使われていた)が、三座型が生産中止になったため、総ての偵察任務を単座型で行わなければならなくなっている。
 このため、各種カメラポット(通常望遠型、赤外線その他含む)、追加航法装置ポット電子戦ポット(各種電波の逆探知も可能)が開発された他に、レーダーポットにも大幅な改良が加えられており、探知距離が伸ばされている。
 これらの新型偵察ポットは増槽と類似した形状をしているため、外見で判別するのは難しいが、いずれも断面が真円ではなく、上下から少し押し潰された楕円状であるのが特徴である。

 これらの偵察ポットの開発・配備によって、単座型の偵察能力は大幅に向上し、パイロットの負担もかなり軽減されている。
 因みに三二型を偵察仕様とする場合、胴体下の増槽専用のハードポイントに増槽、主翼下のハードポイントに高機動ポット、主翼付け根のハードポイントに各種偵察ポットを装備するのが標準的だった。
 なお、この頃の地球防衛軍航空機に機載される通信機は、三座型に搭載されていた大出力指向性通信機の小型・改良型が標準になっており、これによって地球防衛軍航空隊全体の通信能力は大きく向上している。
 偵察ポットを搭載した三二型偵察仕様の空戦能力は、三二型通常仕様とほとんど変わらない上に、コンピューターの換装によりアクティブサイレント機能も強化されたことから、強行偵察任務でも生還できる可能性が三座型より高く、偵察機隊における三二型偵察仕様の評判は非常に良好であった。

 暗黒星団帝国戦役勃発の時、配備開始直後であった三二型は極一部の部隊にしか配備されておらず、地球の各基地で地上撃破されたのは、一一型や二一型、三座型などの旧型機がほとんどだった。
 僅かに性能評価を受けるためにイカロスの訓練学校に配備されていた三二型が、同じくイカロスで練習戦艦兼新型兵器のテストベットとして改装の上で保管されていたヤマトにそのまま搭載、中間補給基地への攻撃で初めて実戦に投入され、その「牙」の威力を存分に発揮している。

 暗黒星団帝国戦役勃発の影響により三二型の生産・配備は一時的に遅延したものの、戦役終結後は生産・配備が急ピッチで行われ、間もなく地球防衛軍戦闘機隊主力を占めている。
 三二型の生産が軌道に乗った頃、一一型と同様に複座練習機型が開発され、「一式二二型空間練習用戦闘機」として採用されている。
 この新型練習機型には、既存の一一型練習機とほぼ同じ改造が行われたため、外見だけで両者を見分けることは専門家でもかなりの難事である。

 三二型が地球防衛軍戦闘機隊の主力の座に治まった頃、地球の政治的環境に大きな変化が起きた。
 デスラー総統によって再建されたガルマン・ガミラス帝国と地球連邦の間に同盟関係が結ばれたのである。
 両国の関係は良好なもので、政治的・経済的交流が進められると同時に軍事的交流も積極的に行われる様になっている。

 そんな中、軍事的交流の一環として両国のテストパイロットが互いの主力戦闘機の比較搭乗が行われている。
 この時、三二型に試乗したガルマン・ガミラスのテストパイロットがこんな感想を述べている。
 「着艦時の安定性の高さに驚いた。運動性能も素晴らしく、我が軍の主力戦闘機ゼードラーVでも苦戦は免れないだろう」
 「しかし、なぜこんな小型戦闘機に強力な対艦兵器をこんなにたくさん積むんだ?対艦攻撃は爆撃機や雷撃機がやればいいだろう?」

 この感想は波動砲搭載戦艦が主力で艦載機は補助戦力と考える地球防衛軍と、空母と艦載機こそ主力と考えるガルマン・ガミラス軍の違いを如実に物語っている。
 様々な制約から航空兵力が補助戦力となっている地球防衛軍では、数少ない戦闘機に様々な任務を行わせざるを得ないが、本格的航空母艦と艦上爆撃機・攻撃機を多数揃えているガルマン・ガミラス軍では、戦闘機にわざわざ対艦攻撃任務をさせる必要性が薄いのである。

 ではなぜこの時期においても、地球防衛軍では艦載機が補助戦力になっていたのだろうか?
 これには、白色彗星帝国戦役での戦禍が大きく影響している。
 この戦役において、地球や太陽系各惑星に大きな被害が発生しており、これを早期に復興することが望まれていた。
 その一方、壊滅状態に陥った地球防衛艦隊の再建も重要な課題であった。
 しかし、ガミラス戦役後に地球本星の復興と防衛艦隊の整備を短時間で、しかも同時に行った地球にもう一度本星と防衛艦隊を同時に再建する余力は残っておらず、最終的に地球連邦政府は地球の再建により多くの予算と人員を回す決定がなされている。
 ある意味、これは当然の選択ではある。
 しかし、このため艦隊再建用の予算は大きく削減されてしまい、短期的には白色彗星帝国戦役時と同規模の艦隊を整備することは不可能になっている。
 しかも参謀本部が波動砲搭載戦艦を最優先として艦隊再建を始めてしまったため、必然的に地球防衛艦隊における空母機動部隊の再建は、遠い未来のものになってしまったのである。
 最も、これは参謀本部は航空戦力の整備自体を放棄した訳ではなく、彼らは地球防衛軍の航空戦力の主力を母艦航空隊から基地航空隊に移すことを考え始めていたのである。

 なお余談ではあるが、ゼードラーVは名称こそ重戦的性格が強かったDDG110「ゼードラーU」を引き継いでいるが、機体そのものはDWG262「ツヴァルケ」の系譜に属する格闘戦闘機である。

 三二型の開発・配備とほぼ同時期に仮称四一型と呼ばれる派生型が試作されている。
 これはミサイルによる攻撃能力の向上が覚束無い事に業を煮やした航空本部が、ミサイル以外の兵器で対艦攻撃力を付与する事を狙って開発を指示したもので、主翼付け根部分に小型衝撃波砲を装備している(主翼の12.7o電磁投射機銃は撤去)点が大きな特徴である。
 因みに、仮称四一型は当初二一型をベースに開発が開始されていたが、途中で明らかになった重量過大を少しでも解消しようと三二型(当時は仮称三二型)用に開発されていたFRE-115Cへのエンジン換装が行われたため、仮称四二型と名称が変更されている。
 テストの結果、衝撃波砲は地球防衛軍艦艇の主砲に採用されているだけに威力は大きいのだが、短口径砲であるため初速・発射速度がともに低い上に有効射程距離が思ったより短い事、またエネルギー消費量が多く発射可能数が少なすぎ(砲当たり6発)、射撃時の反動も大きく、重量増加により運動性能も低下するため、とても実用に耐えないと判断され、やや遅れて初飛行した三二型が想像以上の高性能を発揮していたこともあって、あっさり開発中止に追い込まれている。
 多くの機体の試験に関わったあるベテランのテストパイロットは、この四一/四二型について、
 「発砲時の反動が凄まじく、射撃する度に機体が分解するかと思うほど振動した」
と語っている。
 四一/四二型が航空本部の焦りと勇み足が産んだ失敗作であることは明らかで、唯でさえ少ない予算を浪費するだけに終わっている。

 この頃、うち続く戦乱によって地球防衛艦隊は消耗を重ねており、なかなかその戦力を回復出来ていない。
 艦隊再建では相変わらず戦艦の建造が優先されており、三二型はその高性能から用兵側の評判は極めて良かったが、戦闘機隊に回される僅かな予算で配備できる数には限りがあった。

 この状況から脱却するにはかなりの時間が必要と予想されており、それは近い将来に太陽系に新たな侵攻艦隊が出現した場合、艦隊、航空隊を問わず、地球防衛軍は数的劣勢下で戦わなければならないことを意味していた。
 そのため、白色彗星帝国戦役時のフェーベ沖海戦で実証された戦闘機隊による奇襲の有効性が着目され、三二型にECMの強化やステルス性と低視認性を狙った迷彩塗装など、奇襲の成功率を少しでも上げる可能性があると考えられることは可能な限り取り入れた「一式三二甲型空間艦上戦闘機」が開発されている。
 三二甲型は基本的に三二型とほぼ同じ機体であるため、同じ生産ラインを使って新規に生産された機体もあるが、ディンギル戦役時に配備されていた機体は、既に各部隊に配備されていた三二型を改造したものが大半であった。

 しかし、こうした努力は報われなかった。
 間もなく生起したディンギル戦役において、太陽系に侵攻してきたディンギル機動部隊を迎撃するため、地球防衛艦隊主力部隊が出撃している。
 この際、太陽系各基地に配備されてた戦闘機隊も防衛艦隊主力部隊と合流して迎撃に当たる予定だった。
 しかし、結局合流は果たされずに終わった。
 というのも、先に合流ポイント(アステロイドベルト)に到着し、戦闘機隊を待っていた防衛艦隊主力部隊に木星圏へ避難民を運んでいた輸送船団にディンギル機動艦隊が接近しつつあるという情報がもたらされたのである。
 この時、地球防衛艦隊主力部隊と輸送船団、ディンギル機動艦隊の三者は極めて微妙な距離関係にあった。
 地球防衛艦隊主力部隊が戦闘機隊と合流してからでは輸送船団とディンギル機動艦隊の接触前に迎撃することは物理的にまず不可能であったが、戦闘機隊との合流を待たず直ちに輸送船団の救援に向かえば、輸送船団と接触するより前にディンギル機動艦隊を迎撃できる可能性があったのである。
 そして、防衛艦隊司令部は輸送船団の護衛を優先し、戦闘機隊の到着を待たずに迎撃へ向かってしまったのである。

 しかし、結果としてこの判断は裏目に出る。
 敵機動艦隊の進撃速度が予想以上に早かったため防衛艦隊の迎撃は間に合わず、輸送船団と僅かな護衛艦隊はほぼ瞬時に全滅(避難先であった木星軌道コロニーも破壊されている)、しかも遅れて到着した防衛艦隊主力も艦隊決戦に敗れて壊滅してしまい、圧倒的に不利な立場に置かれた各基地戦闘機隊だけではどうすることもできなかったのである。
 もし緒戦において、艦隊と戦闘機隊が共同で迎撃戦を行っていればこれほどの惨敗は喫しなかったのではないか、という声は多く、艦隊と戦闘機隊隊の連携不足を批判する人は多い。

 その後生起した冥王星海戦では、最大の脅威と考えられたハイパー放射ミサイル装備の水雷艇からなるディンギル水雷戦隊に対抗するため、可能な限り多数の戦闘機(といっても50機ほど)が防空戦闘に投入されているが、ハイパー放射ミサイルの飽和攻撃に対応できず、残存艦隊、特に防空駆逐艦部隊に大きな被害を出している。
 これは三二甲型の性能云々という問題ではなく、当初から圧倒的な数的劣勢な情勢であったことと、水雷艇護衛のために敵機動部隊から飛来して来る敵戦闘機も迎撃しなければならず、水雷艇の雷撃を充分に阻止できなかったためである。

 事実、冥王星海戦において戦闘機隊は、運動性の鈍い大型戦闘機は格闘戦に引き擦り込み、軽快な運動性を持つ小型戦闘機は一撃離脱で対処、という具合に相手によって空戦法を使い分けることで、苦戦しつつも大きな戦果を挙げ、一一型以来の空戦性能が健在であることを示している。
 また、都市衛星ウルク上での戦いでは、ヤマトの砲撃で破壊できなかったメインコントロールタワーをミサイル攻撃で機能停止に追い込み、その攻撃力の高さも実証している。

 急遽来援したデスラー総統直率のガルマン・ガミラス艦隊の援護もあり、ヤマト隊は都市衛星ウルクとディンギル残存艦隊を撃滅することは成功したものの、当初の目的であったアクエリアスのワープ阻止には失敗した。
 そのため、ヤマトが自爆することでアクエリアスの水柱を防ぐことになったが、艦を離れることになったコスモタイガーU隊は、他のヤマト全乗組員が退艦、冬月へ移乗し、冬月が地球に向けて出発した後もなかなかヤマトから離れようとしなかったという。
 この時の様子を目撃した当時の冬月艦長水谷中佐は、後に
 「まるで巣立ちしたばかりの雛鳥のようだった」
と語っている。


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