第六章 更なる飛躍


−五三型と波動ミサイル−


一式五三型空間艦上戦闘機 "コスモタイガーV"
波動ミサイル装備



 ガミラス戦役以後、白色彗星帝国戦役、暗黒星団帝国戦役、更にディンギル戦役と打ち続く戦役によって、地球防衛艦隊は消耗に消耗を重ねた上に、大型宇宙艦艇用建造ドックにも多大な被害を受けており、地球防衛軍は急速な艦隊の再建、特に戦艦の補充は非常に困難な状態に陥っている。
 早急に補充可能なのは巡洋艦以下の中小型艦艇ばかりで戦艦はほとんど無く、しかもその中小型艦艇すら僅かしか建造できそうにないという状態である。
 とはいっても、これまでの経緯から考えて太陽系の防衛を手薄にするのは大変危険であり、防衛体制を早急に整えるため、地球防衛軍はこれまでの波動砲決戦主義に基づいて決定された戦備計画並びに艦隊運用法を根本的に見直さなければならなくなっている。

 そこで、まず手がつけられているのがA型駆逐艦以後途絶えていた突撃駆逐艦仮称D型駆逐艦を建造して水雷戦隊を編成することで、これにより戦艦部隊でなくとも強力な打撃力を持つ艦隊を編成することが可能であると考えられている。

 しかし、これにはある問題があった。
 それは駆逐艦の主力対艦兵装である魚雷の威力不足である。

 地球防衛軍がガミラス戦役以後に交戦した白色彗星帝国、暗黒星団帝国、ディンギル帝国はいずれも地球の基準から見るとかなりの大型戦艦を保有しており、それらの戦艦は当然その巨体に見合う重防御が施されていると想定されている(戦闘詳報や戦後に行われた調査結果でも、この想定を積極的に否定する事実は無い)。
 これらの国々が揃って大型戦艦を保有していたという事実がある以上、少なくとも同規模の戦艦に対処できる戦備を整えなくてはならない。

 しかし、A型駆逐艦こと磯風型駆逐艦以降、突撃駆逐艦の整備が行われていなかった影響で、艦船用の新型魚雷の開発・研究も全くと言って良いほど行われていなかった。
 そのため当初仮称D型駆逐艦に装備が予定されていた魚雷は、大型戦艦を想定していなかった白色彗星帝国戦役時と大差ないものであったため、それらの装甲を打ち抜くには威力不足であり、相当数を命中させても大型艦、特に戦艦級は撃沈困難と予想されたのである。
 低威力の魚雷とはいっても無数に命中されせば、重防御の大型戦艦といえども撃沈は不可能ではない。
 しかし、それには新型突撃駆逐艦の多数建造・配備が必要であり、予算・人員の慢性的不足に悩む地球防衛軍ではそれを実現するのは困難であるのは誰の目にも明らかである。
 数少ない新型突撃駆逐艦を有効に活用するために、一撃で大型戦艦を無力化できる大威力の魚雷が絶対に必要とされていたのである。

 幸い、この問題については間もなく解決された。
 魚雷の弾頭に波動エネルギーを封入することで、破壊力を飛躍的に向上させた新型魚雷を実用化出来る見込みが立ったのである。
 その構造から分かるように、この新型魚雷は戦艦の主砲用に開発された「波動カートリッジ弾」こと「二式波動徹甲弾」シリーズの技術が流用されており、現時点においては「波動魚雷」と仮称されている。
 戦艦の主砲弾より大型の弾頭に封入される波動エネルギー量は波動カートリッジ弾の2倍前後になる予定であり、大量の波動エネルギーによって与えられる猛烈な熱効果によって、計算上これまでに地球防衛軍が遭遇したどの大型戦艦の最厚装甲部すら容易に貫通可能と考えられている。

 仮称D型駆逐艦には魚雷発射管が8門装備される予定である。
 仮称D型駆逐艦9隻で編成される1個水雷戦隊から発射される波動魚雷数は72本。
 単純に考えれば、投射される波動エネルギー量は戦艦の波動砲のそれを遙かに超える。
 つまり戦隊単位での統制雷撃にさえ成功すれば、水雷戦隊だけで敵艦隊を壊滅に追い込むことも可能なのである。

 しかし、常識的に考えれば、戦艦部隊が護衛のない裸の状態で太陽系に侵攻してくるという状況は考え難く、多数の護衛艦を伴っていると考えるのが現実的であろう。
 水雷戦隊が単独でがっちり陣形を組んだ敵艦隊に対し、援護もなしに正面から突撃を行うのは極めて危険であり、場合によっては雷撃前に水雷戦隊が全滅することも充分考えられる。
 そこで、水雷戦隊が突撃、雷撃を成功させるまで、敵の眼を惹き付け、可能であれば敵艦隊の戦力を磨り減らす存在が必要になってきたのである。

 この有力な候補として艦隊から期待をかけられたのが、これまで補助戦力としてしか扱われていなかったコスモタイガーUを中核とする航空隊だった。
 航空隊は白色彗星帝国戦役で手痛い打撃を受けたが、以後の対策が功を奏して、その後の戦役では装備機材はともかく人員に関しては大きな被害を出さなかったことから、相対的に地球防衛軍の中で有力な存在になっていたのである。

 当然の事ながら、艦隊の露払いとして扱われるのは航空隊としては甚だ面白くないことである。
 これは、それまでずっと「日陰者」として扱われていた航空隊が、一貫して陽の当たるところを歩いてきた艦隊に対して持っている反発心(対抗心と言っても良い)からだけではないのだが、彼らは地球防衛軍の戦力を考えれば、侵攻してくる敵艦隊を食い止めるには自分たちも突撃しなければならないのだから、いっそのこと航空隊の対艦攻撃能力を更に向上させ、味方艦隊が来援してくる前に自分達「だけ」で敵艦隊を撃滅してしまおうと考え、その方法を本格的に模索し始めたのである。

 ところが、それには幾つか問題があった。
 その最たるものが、航空隊の主力機材であるコスモタイガーUが装備する対艦ミサイルの威力不足である。
 三二型と同時に開発され、旧型ミサイルを遙かに凌ぐ打撃力を有し、暗黒星団帝国戦役でかなりの戦果を挙げた「二式一号空対艦誘導弾」の威力には、航空隊もそれなりの自信を持っていた。
 しかし、対ボラー連邦戦で衝撃的な事件が発生した。
 移住惑星探索任務に就いていたヤマト艦載の三二型がボラー連邦艦隊との戦闘に陥った際に、ボラー連邦駆逐艦に対して二式一号空対艦誘導弾を多数撃ち込んだにも関わらず、なかなか撃沈することが出来きず、これより少し後のスカゲラック海峡星団海戦においても、ボラー連邦艦隊の戦艦に対して相当数の二式一号空対艦誘導弾を撃ち込んだものの、やはり全くと言って良いほど有効な打撃を与えることが出来なかったのである。

 全くの偶然であるが、航空隊と水雷科はほぼ同時期に同じ様な悩みを抱えていたのである。

 実は航空隊や水雷科より前に同様の問題に直面した部門があった。
 砲術科である。
 ヤマトに初めて搭載された後、地球防衛艦隊艦艇の主力艦砲として広く採用され、白色彗星帝国戦役においてもその威力を大いに発揮した衝撃波砲であるが、イスカンダル救援より帰還したヤマトから、当地で遭遇した暗黒星団帝国艦隊の旗艦と思しき大型戦艦と砲撃戦となった際、敵戦艦に主砲多数を命中させたものの大きなダメージを与えることが出来ず、波動砲でやっと仕留めた、という報告が艦政本部に届けられている。
 この報告は艦政本部(と砲術科)に大きな衝撃を与えた。

 当時のヤマトが主砲として搭載していた衝撃波砲は「九九式二型48p衝撃波砲」と呼ばれるもので、白色彗星帝国戦役で戦没したアンドロメダやA型戦艦の主砲である「一式一型40p衝撃波砲」より大威力で、事実上地球防衛軍で波動砲に次いで二番目に強力な兵器と言っても過言ではなかった。
 波動砲でなら撃沈可能といえ、敵戦艦に対して常に波動砲が使用可能とは限らず、一隻や二隻の戦艦のために一々波動砲を使用するのはあまりに不経済であることから、衝撃波砲の大威力化が強く望まれるようになったのである。
 これを受けて、出力向上や主砲エネルギーのカートリッジ化による発射速度の向上といった衝撃波砲本体の改良が行われる一方、それとは別の衝撃波砲大威力化の手段が艦政本部で模索されていた。
 その結果開発されたのが「二式波動徹甲弾」、所謂「波動カートリッジ弾」である。

 波動カートリッジ弾は衝撃波砲のエネルギーによって主砲から大質量の実体弾を発射、その質量と運動エネルギーによって敵艦の装甲を撃ち抜き、封入されている波動エネルギーを開放することによって内部から敵を破壊する兵器であり、ガミラス戦役時に運用された「三式融合弾」の系譜に連なる兵器といえる。
 封入されている波動エネルギー量は波動砲の1/100に過ぎないが、砲弾がカートリッジ化されている関係上、波動砲の様なエネルギー充填の必要が無いため速射が可能で、しかも波動エネルギーを使用しているだけあって通常型の衝撃波砲とは比較にならない破壊力を持っている(衝撃波砲本体の改良によって砲弾に与えられる運動エネルギーが非常に大きくなり、それに比例して貫通力や射程も増大している)。
 砲術科は暗黒星団帝国戦役直前に「九九式三型48p衝撃波砲」や「一式二型40p衝撃波砲」といった衝撃波砲本体の改良と波動カートリッジ弾の配備を行うことで、この問題を比較的早期に一応解決している(但し、通常型衝撃波砲の威力不足については対ボラー連邦戦において問題が再燃しているが、これに対する解答はまだ出ていない)。

 もう一つ、航空隊が強力な対艦ミサイルを強く欲するようになる事件が起きている。
 ディンギル帝国が保有していたハイパー放射ミサイルとの遭遇である。
 主としてディンギル水雷戦隊の水雷艇が装備していたこのミサイルは、地球防衛軍が重防御と自負していた新型戦艦の装甲をいとも簡単に喰い破るほどの威力を持っていたのである。
 このミサイルによって自軍の戦艦が次々と撃沈されていく光景を目撃した航空隊は、ディンギル水雷艇などよりも遙かに機動性に勝るコスモタイガーUにハイパー放射ミサイルと同程度の威力を持つ強力なミサイルを装備すれば、航空隊の威力を飛躍的に向させることができる、と考えたのである。

 こうして航空本部においても新型ミサイルの開発が始まったが、通常の弾頭では一式二号空対艦大型誘導弾や二式一号空対艦誘導弾が一つの限界であり、開始早々開発は行き詰まってしまった。
 そこへ、やや険悪になっていた航空隊と艦隊の関係を少しでも改善するための交渉材料として、本来なら極秘であるはずの波動魚雷の開発データが艦政本部から航空本部に持ち込まれたのである。

 波動魚雷は既存の技術を組み合わせたものであり、思いついてしまえば開発・実用化は比較的容易である(但し、波動カートリッジ弾が運動エネルギーによって貫通力を得ているのに対し、波動魚雷や波動ミサイルは弾頭に封入されている波動エネルギーの熱効果によって貫通力を得ている点が異なる。また、波動魚雷や波動ミサイルの弾頭には装甲貫通用の波動エネルギーとは別に内部破壊用の波動エネルギーが封入されている点も異なる)。
 そして、これを戦闘機に搭載可能な程度までスケールダウンするのもそれほど困難なことではない。
 こうして「仮称五式一号空対艦波動誘導弾」、通称「波動ミサイル」と呼ばれる航空機搭載型波動魚雷の開発計画がスタートし、その開発は急ピッチで進められている。

 波動ミサイルは艦艇用の波動魚雷と比較すると小型であるため、弾頭に封入される波動エネルギー量も当然少なくなってしまうが、それでも波動カートリッジ弾の1.2倍程度にはなると考えられている。
 波動ミサイルを4発搭載可能なコスモタイガーU30機の編隊から発射される波動ミサイル数は120発。
 投射される波動エネルギー量はD型駆逐艦一個水雷戦隊の雷撃と同等になる(駆逐艦には次発装填装置があるので一概に比較できないが)。

 そして、コスモタイガーUの機動性が、駆逐艦とは比較にならないほど高いのは誰の目にも明らかである。
 とはいえ、高い機動性を持つ航空機でも、大規模な艦隊に正面から攻撃を仕掛けるのは危険である。
 小型艦艇や航空機の機動性を活かすには、敵艦隊に対して近接攻撃を仕掛けるのが最も効率がよい。

 しかし、レーダーの発達が著しい現在、大きな障害物のない宙域では駆逐艦などの小型艦艇は疎か、それより遙かに小型である航空機でも単機ならともかく、編隊では敵に探知されることなく接近するのはほぼ不可能になってきている。
 敵艦隊に気付かれることなく接近するには真っ直ぐ接近するよりも、例えば小惑星群などで待ち伏せをする方がより容易である。
 しかし、太陽系内でその条件に合致する場所は、土星の輪とアステロイドベルトの二カ所しかない。
 土星の輪に敵艦隊を誘導するのは難しく、アステロイドベルトは地形的条件では申し分ないが、位置的に地球に近すぎ、ここで全滅させない限り、敵が地球に到達する可能性が極めて高い(そして一度の攻撃で敵を全滅させるのはほぼ不可能)。
 そのため、地球防衛軍は攻撃隊をなるべく無傷で敵艦隊の懐に送り込む方法を考案する必要に迫られているのである。

 待ち伏せ以外にもう一つ、あまり妨害に遭わず敵艦隊に接近する方法がある。
 敵艦隊が反応するより早く接近してしまうのである。
 そこで、ボラー連邦がデスラーパレス攻撃用に開発した多段頭ミサイルを参考に簡略型波動エンジンを搭載した長距離・高速仕様案、即ち「ワープするミサイル」も構想されている。
 ワープしなくとも、理論上最終突入速度がワープスピードに達するこのミサイルは、例え来襲を遠距離で探知し得たとしても対応時間が皆無に等しく、迎撃はほぼ不可能と考えられている。
 また、このミサイルでは推進用と弾頭用のエネルギーを同じものであるため、命中時には推進用の波動エネルギーによる焼夷効果も期待できることから、破壊力が極めて強力なものになると考えられている(弾頭のエネルギーは推進に使用しない)。

 現在の地球の技術力では、ワープに必要な速度を得るには波動エンジンを使用する以外に方法はない。
 このため、ミサイルに搭載可能な超小型波動エンジンを開発・実用化する必要があるが、戦闘機に搭載可能な小型波動エンジンの開発ですらガルマン・ガミラスが匙を投げているほど困難なものである。
 仮に超小型波動エンジンの実用化が可能だとしても、大変な時間と労力、そして大幅な技術革新が必要であり、またミサイル自体が非常に高価なものになるのは明らかであることから、この構想は今のところ概念研究の枠を出るものではない、と考えられている。
 尤もミサイルが「ワープする」のであれば、別に機載や艦載する必要は無いという反論もなされているが。

 この案に対して、非常にユニークな対案が示されている。
 それはガルマン・ガミラスとの技術交流で地球にもたらされたあるものを利用する、という構想である。
 あるものとは、ガルマン・ガミラス機動部隊が愛用している「瞬間物質移送装置」である。
 よく知られているように、デスラー戦法は瞬間物質移送装置を用いて敵艦至近に爆撃機や攻撃機を小ワープさせることで、敵の意表を突くと同時に敵迎撃機や対空砲火による味方の被害を最小限に食い止める戦法である。
 そこで、このデスラー戦法を更に発展させて、通常推進型波動ミサイルを瞬間物質移送装置を用いて敵艦隊至近に小ワープさせてはどうか?と考えられているのである(余談だが、地球側は瞬間物質移送装置の他に波動砲改良の技術資料とするため、デスラー砲の供与も求めているが、丁重に断られている)。

 これら二種類の戦法には大きな欠点がある。
 それは、ミサイルの正確な照準が困難な点である。
 なぜなら、敵艦隊の対応時間を最小に出来る代わりに、ミサイルを目標に誘導する時間も最小になってしまうからである。

 この欠点を補うためだけではないが、異なるタイプの弾頭を持つ波動ミサイルも構想されている。
 波動ミサイルの弾頭は通常型波動砲と同様のエネルギー集束型であるが、同じ波動エネルギーを使用する関係上、波動砲と同様の拡散型弾頭の開発も比較的容易である。
 当然の事ながら、高い貫通力を持つエネルギー集約型は戦艦や要塞の分厚い装甲を撃ち抜くのに適しており、散弾状になった波動エネルギーで大面積を一度に制圧できる拡散型は航空機の編隊や艦隊の殲滅、対地制圧攻撃などに適している。

 敵艦隊の陣形中央付近で炸裂すればかなりの効果が期待できる拡散型弾頭波動ミサイルであれば、正確な照準はそれほど必要はない。
 そして、敵艦隊が混乱に陥ったところで、集約型弾頭波動ミサイルを搭載した攻撃隊を瞬間物質移転装置を使って送り込み、近接攻撃を仕掛ければ、攻撃の成功率は極めて高くなり、攻撃隊の未帰還率も低く抑えられると考えられている。
 この構想に基づき、拡散型弾頭を持つ「仮称五式二号空対艦波動誘導弾」の開発も進められている。
 
 ただし、この案も実施するためには、敵艦隊の正確な位置を遠距離で捕捉可能なレーダーが必要である。
 白色彗星帝国戦役時における太陽系のレーダー監視網は十分整備されていたとは言えず、事実、太陽系に侵入してきたバルゼー艦隊を捕捉しきれず、途中で見失っている(バルゼー艦隊が太陽系各惑星の基地を攻撃したことも原因だが)。

 このため、白色彗星帝国戦役後に太陽系各基地のレーダーの出力強化等の改良や増設が行われ、暗黒星団帝国戦役時には太陽系に侵入してきた重核子爆弾の捕捉・追尾が可能なほど整備が進んだ。
 しかし、それでもレーダー監視網に穴が無いわけではない。
 またこれらのレーダーはあくまで早期警戒用であり、長距離での精密探知は不得手である。
 そのため、精密探知が可能なレーダーで、味方攻撃隊を正確に敵侵攻部隊に誘導・管制を行う方法が模索されている。

 そこで現在注目を集めているのが、コスモハウンドである。
 コスモハウンドはもともと惑星探査用に使用されていた地球防衛軍最大の艦載機である。
 そのため、大気圏突入・離脱能力に加えてかなりの搭載量を持っており、航続距離も比較的長い。
 太陽の核融合異常増進に伴う第二の地球探索時は非常に重宝されたが、その後はこれといった任務もなく、一部の部隊で単なる大型輸送機として利用されているだけで、かなりの数の余剰機が存在している。
 そこで、この余剰となったコスモハウンドに強力なレーダーを搭載して、レーダー監視網の一翼を担わせ、更に味方航空隊の空中管制を行うことが考えられている。

 これまで、地球防衛軍戦闘機隊では伝統的に隊長機が空中戦闘管制を行っていた。
 戦闘機隊の管制など母艦が行えば良さそうなものであるが、直衛任務以外で戦闘機隊が母艦のレーダーで管制が可能な宙域で戦闘すること事態が稀であり、なにより母艦側にも航空管制に不向きな部分が多かった。
 これは、これまでに建造された地球防衛軍の母艦が砲戦も重視して設計されたこともあって、艦橋のレイアウトなどが航空戦に向いた構造になっていなかったためである。
 しかも、隊長機は先頭を切って空戦に参加することが多いため、空戦が始まると隊長機が戦闘管制を行うことはほとんど不可能というのが実情だった。

 しかし、強力なレーダーを搭載したコスモハウンドであれば、戦場の遙か後方からでも戦闘宙域の様子をほぼリアルタイムで知ることが出来る。
 この機にレーダー情報を元に戦闘管制を行う指揮官を乗せれば、的確な判断を適宜出すことが出来ると考えられているのである。

 同時に、空中給油機型瞬間物質移送装置装備型のコスモハウンドも構想されており、これらの機体が配備されれば、航空隊の非常に重要な位置を占めることは間違いない。

 瞬間物質移送装置の導入にはもう一つ利点があると考えられている。
 それは、基地航空隊の即応性の向上である。
 ディンギル戦役において、地球防衛艦隊主力部隊とディンギル機動部隊の間で艦隊決戦が行われた際、基地航空隊は艦隊と合流に失敗し、艦隊決戦敗北の遠因となっている。
 これは、太陽系各基地に配備されている戦闘機隊の集結に時間がかかったことが原因である。

 確かにコスモタイガーUの航続距離は長く、地球から太陽系外縁まで飛行することが可能であるが、それにはかなりの時間が必要である。
 実戦においてこのタイムラグは致命的な弱点になりかねない。
 そこで、基地航空隊を迅速に集結させる方法が模索され、その一つとして瞬間物質移送装置を利用することが考えられているのである。
 つまり、太陽系各基地に瞬間物質移送装置を設置しておき、有事の際は戦闘機隊を次々に小ワープさせ、短時間で目的地に集結させてしまおうというのである。
 瞬間物質移送装置の出力不足などにより、例え一気に目的地にたどり着けなくとも、各基地を飛び石伝いに小ワープを繰り返すことで、到着までの時間をこれまでとは比較にならないほど短くすることが出来ると考えられている。


 波動ミサイルの運用を前提に開発が進められている新型コスモタイガーUは「五三型」と仮称されている。
 その主な改良点は、以下の様なものとされている。

  1.新型大推力エンジンへの換装
  2.機体構造の大幅な再設計
  3.空中給油装置を装備
  4.長距離精密探知可能な高出力レーダーへの換装
  5.機載コンピューターの再換装
  6.FCS、機動プログラムの全面的なバージョンアップ


 仮称五三型への搭載が予定されている新型エンジン「FRE-115E『仮称惑星五型三号』」は新技術の採用により従来のFRE-115Cよりも大幅な推力の向上が見込まれている。
 新素材の導入や大規模な設計変更が行われるため、耐熱・耐久性の向上による推力向上も見込まれているが、推力向上の核を担うのは「波動エネルギー噴射」と呼ばれる全くの新技術となる予定である。
 この技術の開発には、暗黒星団帝国戦役で明らかとなった波動エネルギーと他エネルギーの融合による爆発現象がきっかけとなっている(これとは逆に波動エネルギーとニュートリノエネルギーのように反発しあう組合せもある)。
 戦役後にヤマトが持ち帰ったデータからこの現象を知ったあるエンジニアが、「この現象を波動エンジンを搭載できない小型機用エンジンの推力向上に応用できないか?」と考えたのである。
 そこで通常の推進剤(タキオン粒子)に微量の波動エネルギーを混入した試作推進剤を使用して行われた燃焼実験が行われ、そこで大幅な推力向上が確認されたのである。
 急遽纏められて航空本部に提出された実験レポートは大きな反響を呼び、直ちにプロジェクトチームが結成されて本格的な開発に着手している。
 しかし、間もなく燃焼実験中に爆発事故が発生、その原因究明と基礎研究の進展により、波動エネルギーを混入した推進剤は燃焼が不安定なりがちであるばかりか品質の安定性に欠け、僅かにエネルギーが偏っただけで大爆発事故を引き起こしかねないことが判明し、航空本部では開発放棄もやむなしという空気が支配的になっていた。

 そんな重苦しい状況下で何度目かの官民合同連絡会議が開催された。
 そこに風邪で寝込んだ上司の代役として、航空本部からやって来た若い少尉がこの状況を打破する鍵を見つけることになる。
 決して専門家ではなく、上司である大尉からは「黙って座っているだけでいい」と言い含められて出席した少尉に気づいた議長の技術中佐が、行詰った雰囲気を変えようと新顔に意見を求めたところ、彼は概念図を見ながらこう呟いたのである。
 「運転中のエンジン内に波動エネルギーを噴射しては駄目なのですか?」と。
 推進剤の調整による安定化ばかり考えていた開発陣にとって、エンジン内へのエネルギー噴射は全く発想の外にあった。
 波動エネルギーは単体では非常に安定しているため、波動エネルギーと推進剤を別個のタンクに入れ、燃焼している推進剤に波動エネルギーを混入するという方法は被弾時における安全性の面から見ても好ましいと考えられた。
 早速開始されたエネルギー噴射の実験の結果、燃焼室ではなく圧縮室で微量の波動エネルギーを噴射すると安定した運転が可能であることが判明、この技術を導入した初のエンジンとしてFRE-115Eの開発・実用化が進められている(新素材の導入や設計変更はどちらかというと、この波動エネルギー噴射に対応したものである)。

 波動エネルギー噴射を導入した結果、FRE-115Eは推力が大幅に向上することになったが、その代償として排熱量も大幅に増加している。
 コスモタイガーUを特徴づける主翼付け根の冷却装置は極めて冷却能力が高いことで定評があり、仮称五三型でも冷却効率を更に引き上げた改良型が搭載されることになっているが、それでも冷却が間に合わず過熱しやすくなっているため、更なる冷却対策が必要になっている。
 この過熱対策には、主翼の放熱部を拡大・強化して冷却可能容量を引き上げることが決定され、これにより必然的に主翼が大型化する。
 主翼の大型化によりエンジンの過熱対策だけでなく、同時に改良による重量増加のため鈍くなっていた大気圏内での飛行性能全般の向上を図ることが出来る、という利点もある。
 主翼型は基本的にこれまでと同じダブルデルタ+ガル翼だが、内翼の放熱部面積を増績するため、内翼の前縁の後退角はやや緩くなり、内翼の後縁が外翼の後縁とほぼ同じ位置まで後退する。
 また、外翼前縁の後退角はそのままだが、後縁はこれまでとは逆に前進角がつくことになっている。

 これらの改良と引き替えとして、これまでの戦訓で有効性が低く使用頻度も少ないとされた主翼の10挺の12.7o電磁投射機銃は撤去されることになっている。
 また、主翼が大型化に伴う機体そのものも大型化に対応して、外翼部を折り畳み式にして搭載スペースの極限が計られる予定である。
 この主翼折り畳み機構は、ディンギル戦役により発生した大幅な戦力低下を埋めるために、白色彗星帝国戦役を生き残ったものの、その後放置されていたA1・A2型空母が波動砲・主砲及び艦橋構造物を撤去、戦訓に基づいた改装を加えた上でA3型に準じた全通甲板空母に大改装され、またその実績に基づいて建造途中でドックに放置されていたA3型空母の建造を再開し、白色彗星帝国戦役時にすら及ばない小規模ではあるものの、機動艦隊を編制しようとしているために採用されたものである。
 僅か数隻の空母では主戦力とは成り得ないが、空母数不足を補う手段としてフェーベ沖海戦で行ったように空母を移動中継基地とする戦術も構想されている。
 これには、ガルマン・ガミラス帝国に要請している二連三段空母が装備している新型瞬間物質移送装置の供与に対し色よい返事が帰ってきていることが、これらの空母の改装・建造再開を促している。
 但しガルマン・ガミラス側は引き替えとして、仮称五式一号空対艦波動誘導弾とその原型となった波動爆雷の技術供与を求めている(衝撃波砲の様な運動エネルギーを利用した兵器を運用しないガルマン・ガミラスから見ると、波動カートリッジ弾よりも彼らの母艦機の攻撃力を飛躍的に高められる可能性を秘めている波動ミサイルや波動爆雷の方が魅力的に映る様である)。

 波動ミサイルは二式一号空対艦誘導弾と比べると大型であるため、従来の胴体下面のハードポイントではミサイル同士が干渉し合って4発搭載することができない。
 そこで、胴体下面のハードポイントを再び2基に削減し、その代わりに主翼内翼部下面にハードポイントを新設することになっている(外翼部のハードポイントは従来のまま)。

 このハードポイントの移設にはもう一つ理由がある。
 波動ミサイルは確かに戦艦の分厚い装甲すら容易に貫通できる強力な兵器であるが、目標に合わせて破壊の程度を調節することは困難で、小型艦艇や地上施設といった目標を攻撃するには破壊力過剰である。
 また、調達価格の点から考えても、高価になるであろう波動ミサイルを多用することは出来ない。
 そこで、波動ミサイルと同時に通常弾頭型の対地ミサイルの開発が進められている。
 このミサイルの開発には陸上兵器の多弾頭砲の技術が応用されており、大型の弾頭内部に小型弾頭4基を内蔵する多弾頭式大型ミサイルとなっている。
 仮称五式空対地多弾頭誘導弾と呼ばれる地上攻撃用大型多弾頭ミサイルは仮称五式空対艦波動誘導弾、即ち波動ミサイルと全長はほぼ同じながら小直径かつやや軽量であるため、仮称五三型には最大6発搭載することが可能である。
 これは威力より数が必要とされる地上攻撃では6発搭載できる事が望ましいという実戦部隊から寄せられた要望に基づいて設計が行われているためである。

 FRE-115Eは大推力エンジンであるが故に、既存のFRE-115Cと比較して燃料消費量が悪化している。
 であるにも関わらず、燃料タンクは機内容積の関係上ほとんど増設できないため、仮称五三型の航続距離は三二甲型より短くなると考えられている。
 そのため空中給油装置を追加することで、事実上の航続距離延長が図られる計画となっている(この装備には空中給油機型コスモハウンドの開発・配備が決定されたことが強く影響している)。

 機首レーダーもFD-3(R)型から探知距離を伸ばした新型の「仮称FD-5型レーダー」への換装が予定されているが、このレーダーはアンテナの直径が大きいため、機首、特にコクピット前方がこれまでより太くなる。
 これによる前方視界の悪化を防ぐため、操縦席の高さを上げ、更に機首全体の形状も鶴首状に変更されることになっている。
 また、機首のパルスレーザー機銃も一式四型の発射速度を高めた「一式五型30o固定パルスレーザー機銃」に変更される予定である。

 高い運動性能で知られるコスモタイガーUだが、性能向上型が開発されるたびに機体重量が増加しており、次第に運動性能が低下しているのは否めなかった。
 そのため、最も運動性能が低下していた三二甲型が主力であったディンギル帝国戦役において、彼らの保有する小型格闘戦闘機と遭遇した戦闘機隊は強い衝撃を受けている。
 高機動スラスターを内蔵した可動垂直翼を持つ小型格闘戦闘機の運動性能は、明らかに三二甲型のそれを上回っていたからである。

 戦役後に捕獲機を使用して行われたテストでも、この小型格闘戦闘機の運動性能が極めて高かったことは確認されている。
 事実、この小型格闘戦闘機はその運動性能で地球防衛軍戦闘機隊を苦しめている。
 しかし、この機体の武装は長砲身パルスレーザー機銃2門のみで、単純に門数だけで比較すればコスモタイガーUの1/4という貧弱なものに過ぎなかった。
 つまり、この機ではコスモタイガーUを追い詰めることは出来ても、激しい空戦における僅かな射撃時間ではコスモタイガーUに有効な打撃を与えることは極めて困難と判定された。
 また、同じテストでこの機体の航続距離が予想を遙かに下回るほど短いことも判明しており、現在では、この機体はその圧倒的な運動性能によって短時間で敵から制空権を奪うといった特殊な用途に使用される特殊な艦上戦闘機であり、ディンギル戦役を通じてこの機体が冥王星海戦の一部にしか現れなかったのはその特殊性のためだと考えられている。

 事実、冥王星海戦時にこの戦闘機と遭遇した地球防衛軍の戦闘機隊パイロット達は格闘戦には一切応じずに一撃離脱戦を挑み、「墜とせないが、墜とされもしない」という状況を作り出すことで空戦を長引かせ、航続距離の短い彼らを撤退に追い込むことに成功している。
 この成功には白色彗星帝国戦役後に採用された航空隊の方針が功を奏し、地球防衛軍戦闘機隊のパイロットの消耗が抑制されたことで、彼らの技量が高く保たれていたことが強く影響したと考えられている。
 この戦いによって、一撃離脱戦と編隊空戦が主流になっている現代の空戦においても、数的優位が失われた場合には単機による格闘戦が多発することが確認されている。
 このため、加速力に頼った編隊による一撃離脱戦に偏重する危険性が指摘されると同時に格闘戦の重要性が再評価され、新型コスモタイガーUには運動性能の向上が強く望まれているのである。

 そこで、まずこれまでに生起した各戦役の戦闘で得られたコスモゼロ、一一型から三二甲型までのコスモタイガーUのデータ、友邦のガルマン・ガミラスから提供されたデータ、果ては白色彗星帝国、暗黒星団帝国、ボラー連邦、ディンギル帝国の捕獲機から得られたデータすら参考にして、機動プログラムに大幅な改良が行われている。
 この改良型機動プログラムの導入と高出力スラスターの出力強化、そして大推力の新型エンジンと偏向角度を増した改良型高機動ノズルの装備、更に機体構造を根本的に見直して機体を徹底的に軽量化することにより、仮称五三型はこれまでのコスモタイガーUとは懸絶した高機動性を得ることができると考えられている。

 探知距離の長距離化を図った新型のFD-5型レーダー、強力なFCS、そして新たに組み込まれる複雑な改良型機動プログラムは機載コンピューターに大きな負荷をかけ、これまでの機載コンピューターの処理能力では対処しきれないため、処理能力を大きく向上させた最新型が機載される予定である。
 勿論、FCS自体も波動ミサイルと三二型同様の通常弾頭ミサイルの運用が可能なものに変更されることになっている。

 重力レンズ形成装置にも、稼働時間の延長、レンズ有効範囲並びにレーザー偏向角度の拡大といった改良が行われるが、特筆すべきなのは重力レンズを機首前方だけではなく、あらゆる方向に形成できる機能を追加して、攻撃だけでなく防御にも利用することも考慮されているとのことである。
 もしこれが実現すれば、仮称五三型の防御性能は飛躍的に高まると想像され、慢性的な人手不足に悩む地球防衛軍にとって福音となると予想されている。

 その他の変更点として、三二甲型の濃緑色と灰白色の二色迷彩塗装は廃止され、仮称五三型には濃淡二色の青系塗料で迷彩塗装が施される予定である。
 なお、次世代以降の戦闘機には仮称五三型以上の機動性とミサイルの多数搭載能力が求められるのは明らかであり、格闘戦闘機的な性格とミサイルキャリアー的な性格を両立させるために、将来的には機動性の高い戦闘機にパッケージ化されたミサイルコンテナを多数搭載することで、相反する二つの要求を両立させることが構想されている(但し、ミサイルの高性能化・小型化、戦闘機の搭載力増大、電子装備の大幅な性能向上が前提であるため、この構想案の早期実現は困難と考えられている)。

 こうして最新技術の粋を集めて開発が進められている仮称五三型は大幅な性能向上が見込まれているが、新型エンジン、新型パルスレーザー砲、新型レーダーを装備し、機体についてもコクピット周辺を除く機体の90%近くが再設計されるというほとんど新規開発といっても過言ではないものであるため、初期段階から開発遅延を危惧する声が各所から挙がっている。
 仮に計画通りに開発が進んだとしても、仮称五三型が実戦配備されるまでは相当の時間を要するのは明らかであり、仮称五三型配備まで太陽系防衛を三二甲型に委ねることについての懸念もなされている。
 これらの声を受けた航空本部は、仮称五三型配備までの間隙を埋めるために三二甲型のアップデート計画を同時に進めている。
 この計画により施されるアップデートは、以下の様なものである。

  1.FRE-115Dへの換装とそれに伴う改修
  2.FD-3(R)型レーダーの受信部を仮称FD-5の受信部に変更したFD-3(R1)型レーダーへの更新
  3.機載コンピューターと機動プログラムを仮称五三型に準じたものへ変更、FCS改修
  4.一式五型30o固定パルスレーザー機銃×6、波動ミサイル×2の搭載、翼内12.7o電磁投射機銃の廃止


 計画の内容から分かるように、この計画の要旨は「三二甲型の仮称五三型化」であり、仮称五三型の開発計画より後で計画されたため、既存機のアップグレード型ではあるが本格改修型の仮称五三型より番号の大きい「六四型」という仮称が与えられている(仮称五三型の先行量産型と見る向きもある)。

 六四型に装備されるFRE-115D「惑星五型甲三号」は、FRE-115Eの実用化を阻んでいる最大の要因である波動エネルギー噴射装置を取り除いただけのエンジンではあるが、これにより実用性を高め、かつ波動エネルギー噴射に対応して行われたエンジン全体のリファインや新素材の採用によって耐久・耐熱性が大幅に引き上げられたことから、圧縮率をFRE-112A並みに引き上げる事でFRE-115Eに比べれば僅かではあるが推力の向上が図られている。
 FD-3(R1)型レーダーについては、発信部は従来のFD-3(R)型と同じではあるが、受信部がより高性能な仮称FD-5型とほぼ同じであるため、全距離での大幅な精密探知能力と従来の50%以上多い目標の同時処理が可能となり、かつ探知可能距離もいくらか向上している。
 機載コンピューターは仮称五三型用のものをややグレードダウンすることで幾らか小型化したものが搭載され、機動プログラムも仮称五三型用に開発されているプログラムを仮称六四型用に変更したものがインストールされている。
 当然の事ながら、武装並びに機載コンピューターの変更に対応してFCSも改修されている。

 武装についても、パルスレーザー機銃を仮称五三型と同じ一式五型30o固定パルスレーザー機銃に変更している。
 但し、装備数は6門と三二甲型や仮称五三型より2門少なく、三座型や一式一一/二二型宇宙練戦(複座型)と同じになっているが、発射速度が向上しているため単位時間当たりの投射弾数はむしろ向上している。
 また翼内の12.7o電磁投射機銃と弾倉、更にそれに関わる装備が廃止されているが、外板の変更は行われておらず、銃口をシールして塞ぐだけに留められている。
 このパルスレーザー機銃の門数減少と翼内機銃の廃止によって機体の軽量化に成功しており、これによって飛行性能全般が向上している。
 重力レンズ形成装置については、試製五三型用のレンズ形成装置の開発が遅延しているため、レーザー偏向角度のみを拡大した改良型が搭載されている

 そして、ある意味で最も大きい改修と言えるのが、波動ミサイルの装備可能化である。
 但し、六四型が装備する波動ミサイルは「四式一号空対艦波動誘導弾」と呼ばれるもので、仮称五三型用として開発が進められている仮称五式一号/二号空対艦波動誘導弾とは全く異なるものである。
 つまり、仮称五式一号/二号空対艦波動誘導弾が完全新設計であるのに対し、四式一号空対艦波動誘導弾はヤマト沈没に伴って余剰となった九九式三型48p衝撃波砲用の波動カートリッジ弾と既存の二式一号空対艦誘導弾の推進部を組み合わせた急造型に過ぎない。
 両者の最も大きい相違点は、仮称五式一号空対艦波動誘導弾が波動エネルギーの熱効果によって敵装甲の貫通を狙っているのに対し、四式一号空対艦波動誘導弾は弾頭に流用している波動カートリッジ弾と同じく、大質量弾による物理エネルギーによる敵装甲の貫通を狙って開発されている点である。

 しかし、この戦術に対しては問題点が指摘されている。
 四式一号空対艦波動誘導弾は、弾頭に九九式三型48p衝撃波砲用の波動カートリッジ弾を用いているため威力の面では申し分ないが、二式一号空対艦誘導弾そのままの推進部では九九式三型48p衝撃波砲や一式二型40p衝撃波砲、巡洋艦・駆逐艦の主砲である20p衝撃波砲から発射される波動カートリッジ弾ほどの運動エネルギーを与えることが出来ず、また連射も不可能であるため、装甲貫通力と破壊力の両面で大幅に見劣りするのである。
 そこで、ミサイルそのものを二式一号空対艦誘導弾より大型化することで推進剤の搭載量を増加(弾頭そのものは四式一号の方が二式一号より小型であり、その分も推進剤搭載量の増加に回されている)し、それによる高加速によって最終突入速度を向上させ、更に高加速状態の母機から発射することで20p衝撃波砲の波動カートリッジ弾に匹敵する運動エネルギーを与えることに成功している。
 しかし、高加速状態とはいえ、必要とされる貫通力を得るには一定の加速を得るまで直線飛行を続けなければならない。
 敵直掩機や対空砲火の存在を考慮すると極めて危険な戦術と言わざるを得ないが、この問題を解決するには試製五式一号波動誘導弾の実用化しかないため、それまではやむを得ないと航空本部では判断している様である。
 また、四式一号空対艦波動誘導弾は弾頭はやや小型化したものの推進部が大型化したため、二式一号空対艦誘導弾よりかなり大型になっている。
 このため、六四型に搭載可能な四式一号空対艦誘導弾は胴体下部の2発のみに低下しており、誘導弾の搭載可能数のみを見ると三二甲型からかなり低下しているが、二式一号空対艦誘導弾とは比較にならない装甲貫通力を持つことから、特に問題と考えられていない様である。
 この対策により、貫通力についての問題は解決できた四式一号空対艦波動誘導弾だが、破壊力については解決不可能であることから、開発途上の仮称五式一号/二号空対艦波動誘導弾に期待がかけられており、六四型も仮称五式一号/二号空対艦波動誘導弾の装備も前提に開発されており(逆に言えば、仮称五三型も四式一号空対艦波動誘導弾を装備可能ということになる)、同時並行して開発されている仮称五式空対地多弾頭誘導弾及び従来の二式一号空対艦誘導弾も胴体下部並びに主翼に各2発ずつ、計4発の搭載が可能となっている。

 六四型に施された改修は、一見して仮称五三型ほどではないにしてもかなり大規模に見えるが、改修される箇所のほとんどがモジュール化されているため変更はさほど困難ではなく、またエンジンを始めとする新装備のほとんどが三二甲型等で空中実験が行われたことから、三二甲型への装備における問題点についてはほぼ解決済みであることも改修をより容易にしている。
 このため、パルスレーザー機銃の門数が少なくなっている点が三二甲型との外見上の識別点であるが、仮称五三型と同じ濃淡二色の青系塗料での迷彩塗装が施されているため、実際には極めて容易に識別できる。
 名称から「仮称」がないことからも分かる様に、既に六四型は実用審査に合格して制式採用され、量産機の新規生産と並行して既存の三二甲型から改修も進められており、数機ではあるが既に実戦テスト部隊に指定された第五一飛行隊への配備が開始されている。
 第五一航空戦隊の報告によると、六四型は対艦攻撃力が向上しているだけではなく、空戦性能も大幅に向上しており、三二甲型との模擬空戦において、一対一では圧倒、一対二でも不利ではあるが撃墜判定されることなく模擬空戦を終えたとされる(尤もその六四型といえども、仮称五三型に対しては三対一でやっと互角になるというシミュレーション結果が出ている)。

 因みに、航空本部の公式発表によると、完成した六四型はテスト部隊である第五一飛行隊に集中的に配備されているが、第六四飛行隊にも2機だけ配備されている。
 第六四飛行隊はそれまでの実績を買われて仮称五三型の実戦テスト部隊に指定されており、本来であれば第五一飛行隊によって実戦テストが行われている六四型は配備されないはずだが、「仮称五三型の速やかな実用化を図るには、仮称五三型と同じ装備を多数採用している六四型がパイロットや整備員を慣れさせるための教育用機材として絶対に必要」という第六四飛行隊からの要望を叶える形で配備されている。
 尤も、航空本部の担当者によると、第六四飛行隊飛行隊長の加藤四郎三佐が六四型配備の要望書を提出する際に「第六四航空戦隊に六四型がないと格好が付かない」と本気とも冗談ともとれる発言をしたと伝えられていることから、教育用機材云々というのは言い訳に過ぎず、単に新型機を乗り回してみたかった加藤少佐を始めとする第六四飛行隊のパイロット達が要望書を書いただけ、という可能性も充分に考えられる。

 コスモタイガーUも採用から3年以上経つ事から、後継機の新規開発を望む声も挙がっている。
 しかし、最新技術を投入して開発が進められ、もはや原型を留めないほどの徹底的な改修が施されることから、一部で「コスモタイガーV」という非公式な愛称が付けられている仮称五三型、そして波動砲に取って代わる「決戦兵器」と期待されている波動ミサイル、そして各種支援機の開発が進められている状況を見る限り、守護天使が翼を休めることができるのはまだまだ遠い未来のことの様である。


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