第三部 第一章 コスモハウンド




 最近、ガミラス戦役時にヤマトが持ち帰った戦闘空母の重爆撃機のデータを元に地球防衛軍初の大型陸上攻撃機である「二式艦上中距離爆撃機」が開発されたものの、少数配備に終わったという説が一般に流布しているようである。
 これは事実ではなく、ガミラス戦役後に検討されたもののペーパープランに終わった「試製二式陸上中型攻撃機」を元に考えられた架空機の「二式艦上中距離爆撃機」がディンギル戦役後に人気を博したシミュレーションゲームに登場、そのゲームの影響を受けた再現ドラマが製作・放送されたために生じた誤解と考えられる。
 実際のところ、コスモタイガーを始めとする小型機を戦力の中核としていた地球防衛軍航空隊が、本格的に大型陸攻の開発に着手したのは、白色彗星帝国戦役が終結して間もなくのことである。

 大型陸攻開発着手のきっかけとなったのは、防衛軍参謀本部が中心となって行った白色彗星帝国戦役における戦訓分析だった。
 防衛軍参謀本部は、戦役を生き延びたA型空母群とヤマトに残されていた戦闘行動調書からフェーベ沖海戦の経過を詳細に分析した結果、「空母機動艦隊は強大な攻撃力を持つが、敵の奇襲に対して非常に脆い面も持つ」という戦訓を導き出していた。
 そして、この戦役において保有する戦艦と巡洋艦ばかりか空母と母艦航空隊の過半をも失った地球防衛艦隊を早期に再建する必要に迫られていた参謀本部は、ある兵器を新防衛艦隊における新たな中核兵装として位置づけることを決定した。
 それは実用化されたばかりの集束率可変型波動砲、後に爆雷波動砲と呼ばれる新型波動砲である。

 白色彗星帝国戦役における戦訓分析は、当然のことながらフェーベ沖海戦のみを対象としていた訳ではなく、続いて生起したヒペリオン沖海戦からカッシーニの隙間海戦を含む土星沖海戦も対象にしていた。
 この艦隊決戦において、土方艦隊がバルゼー艦隊に勝利し、都市帝国に対して波動砲編隊射撃を成功させているという事実から、参謀本部は戦前に立案されたドクトリン、即ち波動砲決戦主義は決して間違っておらず、決戦に敗北したのはガミラス戦役の戦訓を基に作成された戦前のドクトリンが、都市帝国の様な対移動要塞戦を想定していなかったため、敵艦隊の掃射に特化して開発された面制圧兵器的な要素の強い拡散波動砲を、都市帝国に対する攻城兵器として用いざるを得なかったことが原因であると結論づけ、対策としてドクトリンへの対移動要塞戦の追加と対要塞戦に適した波動砲の開発を促進することを決定している。
 その後、暗黒星団帝国のゴルバ型要塞、ボラー連邦の機動要塞、ディンギル帝国の都市衛星ウルク等の移動要塞と次々に交戦したことを考えれば、波動砲決戦主義の是非はあるにしてもこの変更は適切だったと断言しても良いだろう。

 敵艦隊掃射には極めて有効ではあるが、重防御の超大型目標に対しては効果が低いという欠点を持つ拡散波動砲だが、参謀本部に指摘されるまでもなく、その開発途上において、対パラノドン戦やバラン星攻略戦の戦訓から、少なくとも小惑星クラスの目標を一撃で破壊できる威力が必要ではないかという指摘がされている。
 しかし、デスラー砲並みの集束が実現不可能であるという技術的限界を逆手にとることで成功を収めた拡散波動砲の開発経緯から考えて、重防御の目標に有効な集束率向上型波動砲の実用化には相当の時間が必要なのは明白だった。
 いつ完成するか分からない新型波動砲の実用化を待っていては、建造計画が進行していたA型戦艦やアンドロメダ型戦艦の建造スケジュールの大幅な遅延は避けられない。
 先に述べたように当時のドクトリンが対艦隊戦のみを想定していたことと、単艦行動を前提としていたヤマトとは異なり、A型戦艦やアンドロメダ型戦艦は、最低でも戦隊単位での行動を前提としており、威力不足は複数の波動砲による同時発射である程度補えるとして、拡散波動砲が地球防衛軍戦艦の普及型波動砲に選定されたのである。

 とはいえ、拡散波動砲の欠点を補う第三世代型波動砲の開発も進められていた。
 波動エネルギーの集束率向上の努力も休むことなく続けられていたが、それまでの実験結果から革新的な技術が実用化されない限り、劇的に集束率を向上させるとは難しいという意見が有力だった。
 そこで、集束率向上以外の可能性が模索された結果、比較的短期間での実用化が見込める新型波動砲として、集束波動砲と拡散波動砲のハイブリッド型波動砲という構想が持ち上がってきた。
 この構想は、ヤマトの第一次改装時にエネルギー集束装置を改修して、従来より集束率を下げた状態でも発射可能とすることで、拡散波動砲より小規模ではあるが、集束波動砲での面制圧をある程度可能にしたことから着想されている。
 この改修を行ったエネルギー集束装置は制御が難しくなることと、集束波動砲装備の戦艦が他に存在しなかったことから、データ収集のため試験的に改修したヤマト以外の艦には適用されていない。
 もともと集束波動砲と拡散波動砲の構造には大きな差が無く、その違いはエネルギー集束装置の特性がほとんどと言ってよかった。
 つまり、集束波動砲でも拡散波動砲でもほぼ固定されている集束率(勿論、両者のそれは異なる)を可変化できるエネルギー集束装置を開発すれば、一つの波動砲で集束と拡散の二つの特性を撃ち分けることが可能になる。
 原理上、拡散波動砲搭載戦艦として建造されたA型戦艦やアンドロメダ型戦艦であっても、エネルギー集束装置を交換すれば容易に新型波動砲へ更新できることから、この案は参謀本部と艦隊の双方の支持を集め、開発が決定された。
 この様な経緯から、開発はエネルギー集束装置の可変化に重点を置いて進められたものの、集束率向上ほどではなくともかなり困難であり、なかなか開発は進まなかった(その他の補機についてはさほどの緊急性がないとの判断から人材と予算が削減され、エネルギー集束装置の改良に投入された)。
 最終的には、艦内容積を圧迫するものの、エネルギー集束装置を二系統化してモードによって使い分ける案が、構造的に最も無理が少ないとの理由で採用されている。
 この方式では、拡散モードには特に問題はなかったが、集束モードでは可変型エネルギー集束装置の集束能力が不足気味になるため、通常の集束波動砲と比べれば集束率が低めになるという欠点を内包することになった。

 白色彗星帝国戦役の勃発に伴い、俄然新型波動砲への期待が高まったことから更に開発が促進され、バルゼー艦隊の太陽系侵攻直前にアステロイドベルト試射場において試作砲による初弾発砲が行われている。
 通常、波動砲の試射は試作砲を搭載した艦艇を用いて行われるが、当時は試作砲搭載のために新造艦を建造するような余裕はなく、既存艦は出撃に向けての準備に追われていたことから、試射は砲本体を小惑星に固定して行われている。
 試射の結果は良好で、そのデータに基づいて実用化に向けた改修が行われているが、新型波動砲の実用化は白色彗星帝国戦役終結後にずれ込んでいる。
 実用化が遅れた原因には、バルゼー艦隊及び都市帝国の地球本土侵攻による混乱と都市帝国の攻撃による試作砲の喪失もあるが、戦役後に集束率の可変化に加えて、大幅な長射程化が追加要求されたことが大きく影響している。
 これは勿論、土星沖海戦において拡散波動砲より長射程の火炎直撃砲を有するバルゼー艦隊に苦戦を強いられたという戦訓から要求されたもので、最終的にエネルギー増幅装置(アンドロメダに搭載された装置を増幅率の低下と引き替えに小型化したもの)の追加による出力増強により、拡散波動砲の1.5倍近い射程の延伸に成功している。
 この改設計によって、低集束率ではあっても集束波動砲より高い破壊力と拡散波動砲を上回る速射性能(拡散波動砲に比べエネルギー充填の所要時間が4割減)を与えることにも成功、白色彗星帝国戦役終結から三ヶ月後に実用審査が終了し、「二式タキオン波動集束可変砲」として制式採用されている。
 因みに、開発中に集束モード/拡散モードと仮称されていた二つのモードは、弾道特性が従来の集束波動砲や拡散波動砲とかなり異なっていたため、拡大モード/爆雷モードという全く新しい名称が付与されている。
 防衛軍本部は新型波動砲を構造的に見て拡散波動砲の発展型と分類し、後者のモード名称に基づいて「爆雷波動砲」という通称も制式名称とは別に付与している。
 しかし、実際に運用する防衛艦隊では前者のモード名に基づいた拡大波動砲という一般名称が使用されることも多く(特に拡大モードでの発射時に使用されるが多い。これはヒューマンエラーによる使用モードの錯誤を防止するために採られた運用上の工夫だったようである)、後に公式文書でも「爆雷波動砲(拡大波動砲)」と記述される等、正式な通称に準じた扱いを受けているが、本稿では混乱を防ぐために「爆雷波動砲」で統一する。

 余談ではあるが、爆雷波動砲とは別系統の第三世代型波動砲も、やや遅れて開発が進められている。
 この波動砲は、白色彗星帝国戦役終結後、実用化目前の爆雷波動砲の次世代型波動砲として、「都市帝国級の防御力を持つ敵移動要塞に対抗可能な威力」を目的として開発が開始されている。
 開発目的が些か曖昧であることから推測できるように、この計画は実用型波動砲を開発するためと言うよりは、次世代型波動砲の方向性を模索すること自体が本当の目的に近く、そのため、当初投入されていた人員・予算は少なく、開発というよりも様々な構想を練る程度のものだった。
 しかし、開発開始から2カ月ほど後にこの状況は一変、開発陣に当初の数倍の人員と予算が投入され、以後新型波動砲の実用化に向けて急速に開発が進められている。
 この方針変更は、イスカンダル救出作戦から帰還したヤマトの報告が原因だった。
 ヤマトの報告には、イスカンダルの地下資源強奪を目的とした敵性勢力の艦隊及び移動要塞と交戦、ガミラス艦隊及びイスカンダルの支援を受けてこれを撃退したことが記されていたが、特記事項として敵艦隊の旗艦であるプレデアス型戦艦が衝撃波砲の直撃に耐える防御力を持ち、更に敵部隊全体を統率していたと思われるゴルバ型要塞に至っては近距離からのデスラー砲の直撃に耐える防御力を持っていたことが記されていたのである。

 このヤマトの報告は、参謀本部に大きな衝撃を与えた。
 地球防衛軍艦艇の主力艦載兵器である衝撃波砲が通用しない艦艇を仮想敵国が保有している、という事態も極めて深刻ではあった(そのため、性能向上型衝撃波砲の開発も開始されている)が、例えプレデアス型戦艦が多数襲来しても、イスカンダルでの戦闘の様に波動砲を用いることが出来れば撃破可能であり、都市帝国並みの防御力を持つゴルバ型要塞であっても、ありったけの波動砲搭載型戦艦を投入し、集束波動砲や実用化されたばかりの爆雷波動砲を拡大モードで多数命中させれば撃破は可能と考えられた。
 しかし、前者はともかく後者については単独であればの話である。
 ゴルバ型要塞のサイズが都市帝国の10分の1以下であること、そして単なる地下資源採取部隊の護衛としてこの要塞を派遣していることから、参謀本部は(結果的に潜在的な敵性国家となった)暗黒星団帝国がゴルバ型要塞を複数保有していることはほぼ確実と推定、複数のゴルバ型要塞を同時に相手取る、と言う当時の地球防衛軍にとっては悪夢に近い状況を想定した戦備を速やかに整える必要があると判断したのである(参謀本部の一部では、ゴルバ型要塞に準じた防御力を持つ戦艦部隊との交戦も想定すべきという意見もあったが、複数のゴルバ型要塞に対抗できる戦備を整えれば、その様な戦艦部隊にも対処できるとして退けられている)。
 そこで、参謀本部は緩やかに進められていた次世代型波動砲の開発目的を「考え得る全ての手段を用いて威力を極大化した波動砲の早期実用化」に変更、人員と予算を大幅に増加して開発を促進する方針を決定したのである。

 新たな開発目的から、従来の集束波動砲を原型とすること、集束率の大幅な向上は目指さないこと、そして波動砲に充填するエネルギー量を大幅に増大することによって威力・射程の向上を図るという開発方針が決定されている。
 早期実用化のため、基本的には実用化済みまたは実用間近の技術のみの導入により威力の向上を図ることとされ、様々な可能性が検討された結果、スーパーチャージャーの追加により出力を向上させた新型波動エンジン、アンドロメダ型戦艦に搭載されたものより増幅率の高い高出力エネルギー増幅装置、そして集約済みの波動エネルギーに更に集約をかけるエネルギー逆集約装置の3つを新たに補機として採用することになった。
 スーパーチャージャーを追加した新型波動エンジンは波動砲起動時においても過負荷運転を行うことが可能であり、従来より波動砲に用いる事の出来るエネルギー量を増加させている。
 その膨大なエネルギーはエネルギー伝導管を通じて波動砲に送り込まれ、まず増幅装置にてエネルギー増幅を行い、次に送り込まれた圧力薬室内に集約させた波動エネルギーをエネルギー逆集約装置で再度集約させ、チャンバーに集約できる許容エネルギー量を増やす構造になっている。
 追加補機が多く、また構造強化が必要であるものの、新型波動砲の構造自体は通常の集束波動砲とほとんど同じであることから開発は順調に進み、試作砲がイカロスにおいて第二次改装を受けていたヤマトに搭載され、試射の結果から威力と射程の大幅な向上が確認されている。
 目的通りに短期間で実用化の域まで達した新型波動砲は、試作兵器扱いではあるが地球防衛軍に採用され、基本構造と弾道特性が従来の集束波動砲と大差ないことから、「新集束波動砲」略して「新波動砲」と呼称されることになった(試作兵器扱いであるため制式名称は付与されていないが、「仮称九九式三型タキオン波動集束砲」という仮名称が付与されている。なお、この時、それまでヤマトが搭載していた集束率可変型の波動砲も「仮称九九式二型タキオン波動集束砲」として試作兵器扱いで採用する手続きが取られている)。
 しかし、新波動砲は威力の向上のみを追求して開発されたため、新型波動エンジンと高出力エネルギー増幅装置を採用しているにも関わらず、エネルギー充填に従来の集束波動砲並みの時間が必要(但し、波動エンジンの出力向上により、初期の波動砲に見られたエネルギー回復まで機能不全に陥る欠陥がほぼ解決されたのみならず、発射直後にワープを行うことすら可能になっている。また新型波動エンジンは小型化も図られており、そのスペースを利用して第三主砲塔と第二副砲塔基部に装弾数を幾分減らすことで小型化した給弾装置を設置、波動カートリッジ弾の運用を可能にしている)という重大な欠陥があった。
 その拡散波動砲や爆雷波動砲に大きく劣る速射性に起因する発射タイミング見極めの難しさ、各種補機の追加による複雑化に起因して制御に熟練機関員を必要とする新型波動エンジン、そして何より暗黒星団帝国の壊滅によりゴルバ型要塞の脅威が大幅に薄れたことから、波動砲の二大欠点である速射性と集束率のいずれも改善されていない新波動砲は試作兵器扱いのままに留められて地球防衛軍の制式装備に加えられず、ヤマト以外の艦への搭載も行われなかった。

 なお、第四世代または第五世代型の波動砲として、アンドロメダの連装拡散波動砲やハイパーデスラー砲の様に波動砲そのものの多連化で時空震の共振による増幅現象を起こすのではなく、多連化したエネルギー薬室を単一のシリンダーに挿入することで、波動砲の砲身内で時空震の共振を効率良く発生させる案が構想されている(シミュレーションや実験により、圧力薬室数が多すぎると却って時空震の共振波が打ち消しあってしまうため、圧力薬室数は5〜8が最適であることが判明している)。
 この方式は、単装でありながら連装波動砲を遙かに超える威力の発揮が可能であるため、艦の大型化を抑制しつつ波動砲の大幅な威力向上を図ることが出来る利点がある。
 しかし、その一方で複数の圧力薬室のエネルギー充填量を全く同じにし、しかも同時にシリンダーに挿入しなければならないため、構造の複雑化を招くことは確実であり、実用性の低下が懸念されている(圧力薬室を一つずつやや間隔を開けて挿入すれば、同時挿入より威力は低くはなるが、これまでの波動砲では不可能だった連射が可能になると考えられている)。

 やや話が逸れたため、時間を爆雷波動砲実用化直後まで戻す。
 白色彗星帝国戦役により、稼動戦艦が皆無となった防衛艦隊の再建について検討していた参謀本部は、艦隊戦力の不足を爆雷波動砲の搭載による個艦性能の向上で補う方針を決定し、稼働中の大型艦船建造用ドックの大半を用いて爆雷波動砲搭載型の新型戦艦並びに巡洋艦(それぞれB型戦艦B型巡洋艦)を建造することも決定した。
 一方、艦艇数の不足を個艦性能の優越で補いたいという意向を持っていた防衛艦隊からは、戦役中に起工されたアンドロメダ型戦艦を改設計した上での艦隊への配備が要望されていた。
 戦訓に基づき、爆雷波動砲への換装(三連装拡散波動砲装備案も存在していた)の他、艦隊全体の防空力低下を補うための両舷へのパルスレーザー砲の増設、補助エンジンの出力強化等の改正が盛り込まれたこの戦艦は改アンドロメダ型戦艦という仮称が付与され、白色彗星帝国戦役中に起工された2番艦以降のアンドロメダ型戦艦の内、月面ドック建造艦は全て全損していたが、地球建造艦は無傷に近い状態であることから、比較的早期に戦力化が可能と考えられた。
 しかし、白色彗星帝国による破壊活動と出撃に備えて既存艦艇の緊急整備が実施された影響で、艦体の建造は計画より10%程度の遅れで済んだものの、波動エンジン及び波動砲ユニットの製造が計画より大幅に遅れた上に、何とか完成した波動エンジンと波動砲ユニットは建造ペースの早い月面ドック建造艦に優先して割り当てられたため、地球建造艦には波動エンジンと波動砲ユニットのどちらも据え付けられておらず、竣工に至るまでにはまだ多くの工程が残されていた。
 緊急に艦隊戦力を回復させたい参謀本部にとっても、少人数での運用が可能でしかも卓越した個艦性能を持つ改アンドロメダ型戦艦の配備は魅力的ではあった。
 しかし、太陽系防衛体制の早期再建に迫られていたことから、改アンドロメダ型戦艦の工数の多さに起因する建造期間の長期化は容認できるものではなかったため、防衛艦隊の要望は却下され、地球建造分のアンドロメダ型戦艦は解体、余剰となった資材は新造戦艦の建造や既存戦艦の修理・改装に転用することが決定されている(完成済みのエネルギー増幅装置や波動エンジンのパーツはヤマトの修理・改装に、装甲板や艦橋構造物は後述するA5型戦艦の建造にそれぞれ転用されている)。

 白色彗星帝国戦役までに発注されたA型戦艦の多くもこの時にキャンセルされているが、戦役での被害が少なく、また解体するには建造が進みすぎていた数隻については、早期にドックを空けるために建造が再開され、改A3型戦艦及びA5型戦艦として完成している。
 これは艦隊戦力を回復させるための措置でもあったが、改A3型戦艦1番艦である「ドレッドノート(U)」についてはB型戦艦の実験艦として位置づけられ、初の爆雷波動砲搭載戦艦として完成、各種実験やB型戦艦乗員の訓練に用いられている。
 尤も、A型戦艦への爆雷波動砲搭載は構造的にやや無理があったため、他の改A3型戦艦には拡散波動砲を集束型に改修した「一式改一型タキオン波動集束砲」が、A5型戦艦にはA型巡洋艦用の波動砲を連装化することで威力の向上を図った「零式一型改タキオン波動連装集束砲」がそれぞれ搭載されている。
 B型戦艦とB型巡洋艦の配備によって防衛艦隊が再建されるまでの太陽系防衛については、有力な残存艦艇と急速建造されたA型戦艦群を再建された太陽系外周艦隊に集中配備し、白色彗星帝国残存部隊の掃討を行うと同時に外惑星軌道の守りを堅め、それと引き替えに手薄となった内惑星軌道については、航洋性能を内惑星軌道内に限定することで大幅な簡易構造を取り入れた無人艦を月面ドックの一部を割いて急速建造して太陽系内周艦隊を再編成、月軌道に配備することで新型艦が戦列に加わるまでの戦力空白を埋めることが決定されている。
 なお、有人艦ほどの精緻な艦隊運動が出来ない無人艦では敵前で波動砲発射隊形を組むことは難しいとの判断から、無人艦には余剰となっていたA型巡洋艦用の波動砲に簡易型のエネルギー増幅装置を追加することで威力・射程の向上を図った「零式一型改二タキオン波動拡散砲」が搭載されている。
 但し、太陽系外縁での掃討作戦において、白色彗星帝国残存部隊の抵抗により太陽系外周艦隊に損害が続出、作戦自体は成功したものの艦隊戦力が大幅に低下したため、太陽系外周艦隊の戦力補完として有人艦制御型の無人艦が配備されている(これらの無人艦隊は、暗黒星団帝国戦役の緒戦時に壊滅している)。

 艦隊戦力の再建が進められる一方で、艦隊と同じく壊滅状態に陥っていた航空戦力については、空母機動艦隊の再建を放棄、代替として基地航空隊を大幅に拡充して主力に充てる方針が決定されている。
 この基地航空隊主力案は、敵の攻撃に対する空母の脆さの克服と共に、母艦の保有数が航空戦力の投入可能機数のボトルネックになってしまうという問題点を解決できるという利点を重視して立案されている。
 太陽系防衛のみを考えるのであれば、既に太陽系の各惑星とその主要な衛星に設営されている航空基地の拡充だけで済み、それには空母機動部隊の再建ほどには費用や人員が必要ないこと、空母とは異なり基地そのものは移動できないが、フェーベ沖海戦において採られた基地航空隊が空母を中継して遠距離攻撃を行うという戦術を発展させ、航空隊を基地に固定配備せずに基地間を自由に機動させるという新たなドクトリンが立案されたこともこの方針の採用を後押しした。
 この案には航空隊の規模拡充も含まれていたことから、人員と予算の不足に悩む航空隊としては特に反対する理由もなく、正式な再建計画として実行に移されている。

 航空隊の再建はこの計画に従って開始されたが、その戦力の中核には主力戦闘機であるコスモタイガーUが充てられることになっていた。
 これは速やかな戦力回復を行うと言う面から見れば当然の処置だが、航空隊が防衛本部の新防衛方針に従って新たに策定していた航空戦力整備計画から見た場合、また異なった面を持っていた。
 当然のことながら、白色彗星帝国戦役終結から間もなく開発の始まった新型のコスモタイガーU、即ち仮称三二型もこの新計画に従って開発が進められていたが、計画で求められている能力を発揮させるには、2つの性能が決定的に不足していると判断されていた。
 それは、対艦攻撃力と航続力である。
 当時から、この2つの能力についてコスモタイガーUが性能不足を来している原因は、主に艦載機故の機体サイズの制約と離着艦時における操縦性の確保の2つによるものであると認識されていた。
 そこで艦載を最初から考慮しない、つまり機体サイズの制約を外し、かつ離着陸時の操縦性を(ある程度)犠牲にすれば、その分だけ高性能の機体が開発できるという目算が立てられ、新たな機種である「陸上攻撃機」の開発が始まることになった。
 航空本部から提示された計画要求書は、以下のようなものだったとされる。


試製二式陸上大型攻撃機計画要求書

目的
 敵艦艇撃破並びに捜索偵察に適し且つ所要に応じ機動戦にも適応し得る陸上基地用攻撃機を得るにあり
型式
 単発デルタ翼型とするが状況に応じ双発も可とす
主要寸度
 制限を設けざるもなるべく小型とする
エンジン
 西暦2202年3月末日までに審査合格のもの
搭乗員
 操縦員2名
 爆撃偵察航法員1名
 通信員1名
 機関員1名
 (注) 爆撃偵察航法員と通信員は旋回銃座員も兼務
飛行性能
 加速力 300宇宙ノットまで20秒以内(静止状態より)
 上昇力 大気圏外まで15分以内
 航続力
  正規 最大出力/0.5時間+巡航0.8光秒
  過荷重 最大出力/0.5時間+巡航1.2光秒
兵装
 爆撃兵装
  試製二式二号空対艦誘導弾×12または一式二号空対地誘導弾×20
 射撃兵装
  一式20oパルスレーザー旋回銃座二型(480発×2)×2
電子装備
 試製AD-3型レーダー、各種無線装置、データリンクシステムを装備すること
その他
 標準的空戦距離からの一式30oパルスレーザー機銃の直撃に耐えうる防弾装備を付与すること
 爆撃兵装は全て爆弾倉に収納可能なこと
 自動操縦装置、常時起動式重力制御装置を装備すること


 コスモゼロやコスモタイガーU等の開発経験を持つ各航空宇宙機メーカーは、小型機の開発・生産についてはそれなりの自信を持っていたが、中型機以上についてはほとんど経験が無かったため、示された計画要求書を読んでもどれほどの難易度であるか判断に迷うところがほとんどだった(実際のところ、計画要求書を作成した航空本部もどの程度の技術難易度であるのかまでは判断しかねていたようである)。
 しかし、コスモゼロやコスモタイガーU等の開発時に問題となったエンジンについては、幸いなことにARE-201A(当時はXRE-201)が実用化直前になっており、またARE-201Aの保険として考案されたARE-101Aの改良型の双発装備案でもそれなりの実現性があると試算されたことから、コスモゼロやコスモタイガーUの時ほどの苦労はせずに済むであろうとの判断され、開発に取り組むことを決定している。

 搭載エンジンとして選定されたARE-201AはARE-101を大直径化することで出力向上を図ったもので、地球製の航空機用エンジンとしては最大・最強のエンジンである。
 その分、戦闘機用のFRE-115シリーズ等とは比較にならないほど巨大であり、小型エンジンとはまた違った意味でメンテナンスや制御に困難な部分があることから、試製二式陸攻は航空機でありながら小規模とはいえ機関室とそれを制御する専門の搭乗機関員を設けるという小型艦艇並みの装備と人員が充てられている。
 これは大型機である試製二式陸攻の余裕のある機体内スペースを利用することで可能になったものだが、経験のない大型エンジンの搭載に当たって開発陣が慎重の上にも慎重を期して行った処置でもある。
 また、地球防衛軍の中でも戦力不足に悩まされている航空隊では、大気圏内専用機種を開発・運用するような余裕がなく、大気圏外用航空機の大気圏内運用が当然のように行われており、試製二式陸攻も他の機種と同様に大気圏内でも運用されることが開発当初から想定されていたため、コスモゼロと同様に冷却用空気取入口がエンジンの外周に巻き付ける様に装備されている。
 創設間もない頃に生起したイカロス沖海戦において、機動性に勝る邀撃機によって大損害を被った経験を持つ航空隊は、その過ちを繰り返さないために、試製二式陸攻に強力な防御火力と防弾装備と共に、敵戦闘機を振り切る高速性能を求めていた。
 このため、ARE-201Aは戦闘時に使用される戦闘出力が極大になるように出力特性が調整されているが、あまりにも戦闘出力を重視しすぎたためか、高出力と引き替えに低出力時に出力が安定せず、エンジンストールが発生しやすくなるという悪癖がつきまとっている。
 その影響で試製二式陸攻の低速時の操縦性はあまり芳しいものではなかったが、制限の多い空母に比べれば遙かに離着陸の容易な陸上基地からの運用が前提であるため、この時点ではあまり問題視されなかった。

 機体形状は、地球防衛軍伝統の水平尾翼のない平たい胴体にデルタ型の主翼を組み合わせた型式が採用されている。
 胴体については、機首に大型機故の様々な快適装備を持つキャビンと機体下面に大型の爆弾倉が設けられていること以外は特筆に値するところはないが、主翼については、大気圏内での安定飛行と充分な放熱板面積の確保のため、機首直後からエンジン取付部に及ぶ翼弦長の長い大型のデルタ翼が採用されており、その内部に防弾処理が施された大容量燃料タンクが装備されている。
 垂直尾翼については、パルスレーザー旋回銃座の射角を妨げないように、コスモタイガーUの垂直尾翼に類似した高さが低い代わりに弦長の長い形状のものが胴体上面に2枚装備されている。
 胴体下面の爆弾倉は、要求通り試製二式空対艦誘導弾二型(コスモタイガーU用の二式対艦誘導弾の改良型)を最大12発搭載できる容量を持っており、更に防御火器として一式二号20o連装パルスレーザー旋回銃座二型をそれぞれ機首下面と胴体上面に装備している(胴体上面のものについては格納式)。

 電子装備については、要求されている爆撃兵装から分かる様に、中隊規模の編隊での遠距離統制雷撃による飽和攻撃を想定していたことから、大型ではあるが優れた探知能力を持つAD-3型レーダーを機首に装備している。
 これだけでも極めて高い探知能力を持っているが、更に胴体上面に機首アンテナの死角を補う格納式全方位アンテナが装備されており、飛行経路を変えることなく広範囲の全方位捜索を行えるようにしている。
 また、機首には防御用重力レンズ形成装置を装備している。
 この重力レンズ形成装置は基本的に雷撃機型に装備されたもの構造は同一ではあるものの、大型化によって大幅な出力向上を果たしており、数分間という短時間ではあるが、30oクラスのパルスレーザーであれば、ほぼ確実に直撃を避けることが出来る能力を持たせることに成功しており、試製二式陸攻の防御力向上に寄与している。

 コスモゼロやコスモタイガーUに比べれば、技術的な冒険の少ない試製二式陸攻の開発は順調と言って良く、完成した試作機及び増加試作機での各種試験飛行の開始後もそれは同様で、大型機としては(低速時はともかく)優れた運動性と大航続距離、高速巡航性能を併せ持ち、しかも長時間飛行に対応して居住性も良好だったことから、テストパイロットの評価も高かった。
 順風満帆と思われていた試製二式陸攻であったが、実際にはその前途には暗雲が立ちこめていた。
 試製二式陸攻の試作機の完成と前後して実用化されたコスモタイガーU三二型が大成功を収めたことに加え、予算不足が深刻な時期であったため、防衛軍内部から試製二式陸攻1機の予算と資材で三二型が10機作れる(これは事実だった)という批判が起こり、激論の末に試製二式陸攻は開発中止に追い込まれることになったのである。

 とはいえ、試製二式陸攻の試作機と増加試作機が一定数完成しており、航空本部はこれらの機体を有効活用するため、地球防衛軍航空機に不足していた輸送力、特に宇宙空間−大気圏間の輸送力不足を補う輸送機への再設計と改修を命じた。
 主な改修点は
  1.後部胴体の断面を丸みを帯びた形状からやや角ばった形状に再設計
  2.爆弾倉を廃止してカーゴスペースとし、胴体下面にカーゴハッチを追加
  3.エンジンを最高出力を抑える代わりに低出力時の安定性を増したARE-201Bに換装
  4.機体各所にスラスターを兼ねたリフトエンジンを追加
  5.パルスレーザー旋回銃座を単装の一式20oパルスレーザー旋回銃座三型に換装
  6.レーダーを地表探査能力に優れたAD-3(G)型に換装
の6点である。
 この改修により、原型でもかなりのものだったペイロードを更に向上させ、エンジンの換装とリフトエンジンの追加により、加速力の低下と引き替えではあるが、原型機の欠陥であった低出力時の操縦性を改善することに成功し、加えて垂直離陸能力の付与にも成功している。

 試製二式陸攻輸送機改修型の試験飛行が終わりかけた頃、太陽の核融合異常増進事件が発生、これに伴って移住惑星探索が開始されることになり、俄に惑星探査用の大型艦上輸送機の必要性が高まっていた。
 そこで、航空本部は試製二式陸攻輸送機型の試作機及び増加試作機を改修して艦上機化し、この任務に充てることを決定したのである。
 改修点としては、格納時に邪魔にならない様に、原型機では胴体後部に装備していた垂直尾翼を主翼端に移動して全高を下げたことが最も大きなもので、その他に惑星探査に必要な機器を運用しやすい様に胴体下面のカーゴハッチを大型化している。
 全高を抑える改修は行われたものの、前例のない大型艦上機であるため運用できる母艦も大型艦に限られ、特に戦艦を母艦とする場合には専用の発着艦口を設ける必要があった。
 このため、既存の戦艦に搭載するには、舷側装甲に大穴を開けて専用発着艦口を設けるという気密性や防御力の低下に繋がりかねない大規模な改装が必要であったため、実際に運用した艦は少なく、ヤマトを始め、アリゾナ、プリンス・オブ・ウェールズ、ビスマルク等、太陽の核融合異常増進に伴う移住惑星探索に参加した大型艦艇のみである。

 その後、艦上機仕様を施された試製二式陸攻輸送機改修型の試作機及び増加試作機が「三式一一型宇宙艦上大型輸送機『コスモハウンド』」として制式採用され、移住惑星探索に向かう艦艇への搭載用とその予備、更に訓練用等の需要が生じたため、生産数は少ないながら量産体制も整備された。
 余談ではあるが、コスモハウンドという名称は、試製二式陸攻として開発が始まった時に付与された仮名称を流用したものであるため、防衛軍内部では輸送機の名称にしては立派すぎるのではないかと冗談交じりに指摘する声が一部にあったと言われている。

 ようやく制式化に漕ぎ着けたコスモハウンドだったが、太陽制御成功後、運用可能な母艦が限定される上に輸送艦に対して即応性では勝るものの、航続力と搭載力で劣るコスモハウンドは存在意義が薄いとして、生産中止を訴える意見が出されている。
 とはいえ、既にそれなりの機数が配備されており、また量産体制もようやく整ったばかりであることから、バリエーション化による他用途への転用が進められることになった。
 そこでディンギル戦役後、白色彗星帝国戦役時から性能不足が指摘されていた上陸用舟艇に代わる空間騎兵隊の急速展開用強襲揚陸艇として、「仮称二一型」の開発が開始されている。
 仮称二一型の主な改修点は
  1.着陸脚の強化と強行着陸用のスキッド追加
  2.主翼下に一式二号空対地小型誘導弾用ハードポイント8基追加
  3.パルスレーザー旋回銃座を一式20o連装パルスレーザー旋回銃座二型に再換装し、機首左右側面へ一式20o連装パルスレーザー旋回銃座二型改一(従来の機首銃座から遠隔操作される無人型)を追加
の3点である。
 エンジンの出力には余裕があることから、特に変更されていない。
 着陸脚は原型でもかなりの強度があったが、敵前上陸の場合、垂直離着陸では敵の攻撃に長時間曝されるため危険であり、一見危険に思える不整地への強行着陸を前提にした方がよいと判断から、更なる強度向上が求められ、強化した着陸脚でも着陸できないことも考慮して、胴体下面6カ所に格納式のスキッドが追加されている。
 主翼下へのハードポイントと機首左右側面へのパルスレーザー旋回銃座の追加も強行着陸を前提にしたもので、ハードポイントに装備した対地誘導弾で敵の妨害をある程度自力で排除し、更にパルスレーザー砲8門によって前方を掃射しつつ強行着陸を行うための追加装備である(基本的にはコスモタイガーによる制空権確保を前提にしているが、コスモタイガーの支援を常時受けるのは保有戦力からみて困難であり、かつ敵の行動が完全に封じられると想定するのは現実的ではないと考えられたため)。
 仮称二一型の改修点はさほど大規模なものではないため、短期間で開発は終了、「三式二一型宇宙陸上大型輸送機」として制式採用され、実戦配備が開始されている。

 仮称二一型の他にも、搭載量と大航続力を活かしたAWACS型やタンカー型(仮称三一型及び仮称四一型)の開発が進められ、瞬間物資移送機装備型(仮称三一甲型/仮称四一甲型)やリボルバー型大型爆弾倉を持つ長距離波動ミサイルキャリアー型(仮称五二型)等の可能性も模索されているが、最も重視されているのは対潜哨戒機型(仮称六一型)である。

 ガミラス戦役時に波動エンジンとワープ航法が伝えられ、地球でもその応用として異次元潜航艦の可能性は知られつつあり、実際にヤマトが特務艦UX-01と交戦していたが、当時は徹底した対センサー対策を施した潜宙艦の方が広く知られていた。
 潜宙艦は、その特性上通常空間での戦闘に不向きな形状とならざるを得ないため、非常に限定された攻撃力しか持たず、敵に接近を気づかれないようエンジンを最低出力に絞って低速で行動しなければならないなど、非常に限定された運用しか行えないことは判明していた。
 発見し難くとも攻撃時には必ず至近距離まで接近してくることから、レーダーから肉眼まで駆使した見張りを厳重に行って警戒すれば被害は最小限に抑えられ、また一旦発見すれば通常兵器で容易に攻撃可能であり、万一未発見でも周辺に機雷を散布すれば敵艦の行動を妨害できる(潜宙艦はその特殊性故に通常艦より低速であり、前方から攻撃してくる可能性は待ち伏せ以外では極めて低いと考えられた)ばかりか、通常空間での運動性の鈍い潜宙艦がこれに引っかかる可能性も極めて高いことから、潜宙艦への対策はこの程度でも充分と考えられた。
 白色彗星帝国戦役勃発前に再建された防衛艦隊は、正面戦力である波動砲搭載艦とその支援を行う水雷戦隊の整備に重点が置かれていたため、他の部門に回す予算や人員は不足しがちであり、当然の事ながら潜宙艦の建造は行われていなかった。

 白色彗星帝国戦役時の艦隊決戦時は上記の対策で潜宙艦の活動を封じ込めることが出来たが、艦隊決戦前に太陽系内に侵入して地球−他惑星間の通商破壊を行った数隻の潜宙艦が太陽系内を行き交う輸送船団を襲い、地球側に大きな損害を与えている。
 正面戦力すら不足気味の防衛艦隊は、白色彗星帝国の潜宙艦対策に大きな戦力を割くことが出来ず、少数のパトロール艦を随時投入しては返り討ちに遭うなど、戦術も不適切であったこともあって多大な被害を出している。
 白色彗星帝国の潜宙艦は土星沖での艦隊決戦に参加し、多くはその時に撃沈されている。
 しかし、戦役を生き延びた艦も少数ながら存在し、艦隊戦力が壊滅状態にあった防衛艦隊はやむを得ず旧式化した百式探査艇に爆雷とソノブイを装備させて、掃討作戦を実施している。
 苦肉の策ではあったが、潜宙艦には航宙機を攻撃できる兵器が搭載されていないため、ヤマトの戦訓から得られた亜空間ソノブイを用いた哨戒のみならず攻撃にも非常に有効であるという戦訓を得ている。

 白色彗星帝国戦役後、撃沈した潜宙艦の残骸の回収と異次元潜航艦の調査・研究が本格的に始まり、同時に訓練学校にも異次元戦闘科が新設され、研究しつつ教えるという体制が組まれている。
 予算や建艦技術の関係上、異次元潜航艦の試験艦すら満足に建造できず、数分の一の模型で研究を行うような状況だったが、艦載用亜空間ソナーを始めとする異次元探査システムの基本技術が確立される等、少しずつ成果を挙げつつあった。
 しかし、異次元に遷移した物体の位置を測定できる異次元探査システムは確立出来たものの、異次元潜航艦に直接打撃を与える兵器の実用化までは出来なかった。

 亜空間ソナーの実用化からやや遅れて、潜行中の異次元潜航艦に打撃を与えるのに有効と思われる現象が発見された。
 それは「通常空間で起きた時空震は同座標の異次元にも伝わり、そこにあるものにダメージを与える」という現象である。
 異次元潜航は異次元断層発生装置を核とした精緻なシステムによって維持されており、小規模な時空震であっても容易に異次元空間のバランスは崩されてしまう。
 そうなると異次元潜航を維持できなくなり、異次元潜航艦は異次元から通常空間へ強制的に「浮上」させられてしまう。
 異次元潜航艦といえども、通常空間に戻ってしまえば通常兵器でどうにでも始末できる。
 つまり、対異次元潜航艦戦では、異次元で撃沈できなくとも、異次元潜航を維持できなくする程度の能力のある兵器であれば十分実用性があるのである。

 こうして、時空震を発生させることの出来る対異次元潜航艦用攻撃兵器の開発が始まった。
 幸いなことに、地球には波動砲という時空震を発生させる兵器が既に存在しており、その原理を利用して開発は進められた。
 様々な方法が模索された結果、爆雷に波動エネルギーを封入、そのエネルギーを解放することで小規模な時空震を発生させるという方式が採用され、「三式一号波動爆雷」として制式化された。
 波動爆雷の開発には、やや先行して開発が進められていた「試製二式波動徹甲弾」、所謂「波動カートリッジ弾」のデータが転用されているが、衝撃波砲から発射され、敵艦の装甲を撃ち抜くことを前提としている波動カートリッジ弾に比べ、構造が簡易(開発を容易にするため、目標に向かう際の推進力は投射装置に依存しており、姿勢制御用のものを除くとまともな推進装置すら装備されていなかった)で封入される波動エネルギー量も少ないことから、波動カートリッジ弾より早期の実用化に成功している。

 最初に開発された一号波動爆雷は小型爆雷で、多弾頭砲を参考に開発された多数同時発射型投射器を用い、潜航艦が潜行していると推定される空間に、それぞれの被害半径が重ならない様に多数の爆雷を散布することでその空間を時空震で塗りつぶし、確実に潜宙艦へ被害を与えるという対潜戦術を前提としている。
 この対潜戦術はそれなりに有効で、第二次大改装時に一号波動爆雷の多数同時発射型投射器を装備したヤマトがUX-01の発展型であるガルマンウルフを数隻撃沈している。
 しかし、一号爆雷の威力では直撃しなければ異次元空間ごと潜航艦を撃沈することは難しく、また小型とは言えない探知装置と小型とはいえ多数の爆雷と投射器を装備するには、それなりの搭載量を持つ巡洋艦以上の艦艇でなければ運用できないという欠点があった(現在では探知装置の精度向上と同時に小型化がなされ、駆逐艦での運用も可能になっている)。
 特に白色彗星帝国戦役において対潜哨戒での有効性が明らかとなった航宙機は、搭載量の限界から探知装置と多数の小型爆雷を装備することは不可能であったため、航宙機用爆雷として時空震のみで異次元空間ごと潜宙艦を破壊できる大型・大威力の仮称三式二号波動爆雷の開発が進められている。

 同時に航宙機搭載用の小型探知装置も開発されたが、それでも既存の小型機に搭載できるほどの大きさではなく、探知距離も艦載用ほど広くないため、航宙機による対潜哨戒を行うには、探知装置と爆雷を搭載できる搭載量と広面積を哨戒できる航続距離を併せ持つ機体が必要と考えられた。
 各惑星の陸上基地からの運用を可能とする大気圏突入・離脱能力、探知装置や大型の爆雷を多数搭載できる搭載力と広範囲の哨戒を可能とする大航続力(キャビンが広く搭乗員への負担が小さい点も重要)、潜行する潜航艦を追い回せる速度と運動性(ガルマンウルフは大型の艦体に小型の大出力機関(異次元断層発生装置は波動エンジンと直結している)を搭載することで、可潜時間の延長と同時にエンジン出力が潜行の維持にかなり奪われてしまう亜空間潜行時でも一定の速度を発揮可能になっている。但しワープは通常空間に遷移し直さないと不可能)を併せ持つコスモハウンドに対潜哨戒機としての適性が見いだされ、仮称六一型として開発が進められている。

 仮称六一型の主な改修点としては、
  1.爆弾倉と垂直尾翼を原型の試製二式陸攻と同じものに戻し、爆撃装置を追加
  2.亜空間ソナー等の探知装置を搭載し、各種アンテナを機体各所に設置
  3.低速での運動性向上用の高機動スラスターの追加
の3点が挙げられる。

 仮称六一型の開発に当たって、試製二式陸攻試作三号機に仮称六一型とほぼ同じ探知装置を装備し、地球を訪れていたガルマンウルフを対象に探知実験を行った(当然先方の同意の元、演習という形で実施している)ところ、ほぼ設計どおりの探知精度を発揮することが出来た試験機をガルマンウルフは振り切ることができず、浮上して敗北を認めるという結果が得られている。
 この演習に参加したガルマンウルフがどちらかというと旧式に属する艦であることを考慮して評価する必要があるが、試験機よりも探知能力の向上が見込まれる仮称六一型と二号波動爆雷が実戦配備されることにより、地球防衛軍における対異次元潜航艦戦術の大幅な向上が見込まれている。

 地球防衛軍初の大型陸上攻撃機として開発されたコスモハウンドではあるが、地球防衛軍の航空戦力に対する位置づけの変化に翻弄される形で艦上輸送機を経て多目的大型陸上機へと変化している。
 その姿は、まるで猟師から追い出されて荷車引きに身を窶していた猟犬が狩り場に呼び戻され、牙と嗅覚を取り戻していく姿を見ているかのように感じるのは筆者だけではないと考える。


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